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G/SieMENS (ジーメンス) 極超短波少年と電波監視官の美女  作者: にのい・しち
インシデント・3 ゆずれない明日を守り続ける
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66 ゆずれない明日を守り続ける

 走り疲れ立上る体力を失った僕と本城さんは人目をはばかることなく、皇居前の広い十字路で大の字に寝そべっていた。

 気力を使い果たしながらも大業をなした事に清々しい気持ちで一杯だった。

 僕は夜空に目を向け歓喜の声を上げる。


「本城さん見て! 流星だ!」


「あぁ……大気を飛び交う電波が見えているのよ」


 彼女は力無く言った。


 無数の輝く矢が無秩序に飛び交い光りのレールを次々敷いて行く。

 浮かれた気分に浸っていると本城さんは詩を読むように話す。


「綺麗でしょ? 電磁波、放射能、粒子、微生物、反物質……人にとって見えない物は脅威なの。でも、そこにある性質やサイクルを知ると、私達が知らないもう一つの宇宙が見えて人間を魅了する――――見えない世界は脅威でもあり神秘でもあるのよ」


 それを聞いて僕はいつまでも、この光景を眺めていたいと切に願った。

 高揚した気持ちが後押ししたのか、ふと、ある考えが僕の頭に過った。


「ねぇ、僕も―――本城さんみたいになるには、どうすればいいかな?」


 それを聞いた本城さんは息を切らしながら、呆れるように笑い、こちらの問いに答える。


「やめといた方がいいよぉ~……ウチの組織、ブラックだから」


 -・-・ --・-


 これで事件解決――――と、なるものの、大変だったのが事後処理だ。

 

 何せ皇居の立ち入り禁止区間に不法侵入した上に、本城さんはポニーテール型の秘密道具を使って警察官にケガを追わせて公務執行妨害を起こした。

 僕達が皇居から立ち去ろうとした時、複数の警察官に囲まれ、あえなく御用となった。


 パトカーの後部座席に乗せられて警察署へ連行される寸前、パトカーに備え付けられた無線機から「連行は中止」との連絡が入り解放された。

 無線を取った制服警官は困惑し不満を漏らしていた。

 まぁ、何も事情を知らないのだから無理もない。

 大方、ジーメンスこと電波管理部・監視ゼロ課を統括する鬼塚課長が警察に便宜を図って、指示をさせたのだろう。


 おかけで不良少年のレッテルを張られずに済んだ。


 皇居前で解放された僕と本城さんは現場に送られた時に乗った、銀色のSUVに擬態した違法無線監視車、DEURAS(デューラス)-Mが迎えに来てくれた。

 僕ら人目を気にしながら乗車、早々に退散した。


 事後処理はこれで終わらない。

 すでに東京丸ノ内周辺で起きた大惨事はネットで拡散され、SNSのトレンドはこの事件で埋め尽くされる。

 

 東京上空に出現した赤いオーロラことSAR(サー)アークは、光が弱かったおかげで、一般人が持つスマートホンのカメラで撮影しても、全く写真に納めることは出来なかった。

 後で専門の写真家が撮影した赤いオーロラがSNSで出回ったが、それは都会の光が夜の雲に反射して赤く見えた錯覚だと否定された。

 とはいえ、その否定的な考察をSNSで流したのが何を隠そう、ジーメンスの火消し工作だった。

 DEURAS(デューラス)-Mに乗って千代田区区役所の存在しない地下層に戻って来ると、役目を終えた安曇顧問と取り巻きの四人が、ジーメンスの本部基地から総務省へ帰る途中だった。


 僕は去り際の彼に思いきって聞いたことがある。

 大声で「安曇顧問!」と、立ち去ろうとする背中を引き留めると、取り巻きの先頭を歩く彼は振り向いた。


「もう、MKウルトラ・イワト構想は発動しませんよね?」


 あえてなのか彼は言葉に血を通わせることなく、厳しい口調で答えた。


「発動するかしないかの意志決定は上層部にある。一官僚の我々が決めることではない」


 その場を氷つかせるも、その氷塊を解かしたのも、また彼だった。


「だが、発動させない為の努力義務は怠らない。それが僕達の仕事だ」


 (きびす)を返して若手官僚の安曇・佳人かいとと、四人の取り巻き達は無機質な自動ドアの向こうへ姿を消した。


 彼らを見送ると本城さんは、


「な~にが、『ソレガ、ボクタチノ、シゴトダ』よ? 最後まで感じ悪い!」


 と、変顔で悪態をつく。


 でも僕にはそれで十分だ。

 彼の餞別せんべつとも捉えられるセリフが聞けただけで、安曇顧問という人間に未来を託す期待が持てる。


 こうして世間に知られることの無い、戦慄の夜は幕を閉じ、当たり前のように次の日がやって来た。

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