64 撃って、撃って、撃ちまくれ!
光の速さで到達した巨大ジャマーは、地球から高度ニ〇〇〇キロメートルに位置する低軌道衛星の前で急速に制止してから止まった。
戦闘機のように突き進んだ巨体を起き上げると、ビーコンを発する衛星に立ちはだかる。
宇宙に漂う電磁波の影響を受けたのか、両翼が幾分広がり、翼の先が弓張り月のように反り返る。
そのシルエットはナマズというよりもコウモリだ。
電波ナマズの開口部を覆うマスクが外れて元の細長い髭に戻ると、怪物は大きく口を開いて鋭利な牙を見せた。
ビーコンを発する軌衛星に食い付く直前、
電波ナマズの背後を青白い光線が無数の矢の如く飛んでくる。
地球に近い複数の極軌道衛星が一八〇度反転し、巨大ジャマーの背後からゲイン砲を狙い撃ち。
三基の人工衛星に備わるパラボラアンテナから、ゲイン砲が嵐のように放たれ命中。
ゲイン砲の波状攻撃を受けたジャマーは悲鳴のような鳴き声を上げる。
次第に電波ナマズの全身が赤く光始め、電磁波で構築された体が崩壊する兆しを見せた。
命の断絶を悟った電波ナマズは、背後から波状攻撃を続ける極軌道衛星へ振り返る。
裂けた口を開き、頬を覆うシールドを左右へ開口すると、十字型の砲身へ変形させた。
喉元からは赤紫に輝く不気味な怪光線が吐き出される寸前だった。
指令本部で攻撃の様子を逐一、確認していた女性オペレーターが鬼塚課長へ、すかさず報告。
「目標の開口部から電磁フレア。来ます!」
「構わん! 叩きのめせ!!」
鬼塚課長の指示を体現した極軌道衛星は照準をジャマーの口に集中。
負けじと電波ナマズは電磁フレアを放出。
紫電を帯びた赤い怪光線が虚無の世界に一閃を引いた。
が、地球の引力圏で安定し軌道を横滑りしながら移動する極軌道衛星は、三基とも電磁フレア放射を華麗にかわした。
衛星三基が放つゲイン砲の光線に体が押された電波ナマズは、ビーコンを送信する低軌道衛星を横切り吹き飛ばされる。
赤い発光を、より強めた巨大電波怪獣は大爆発。
宇宙空間で起きた爆発の中から、一筋の光が放たれた。
それはジャマーが最後に放った電磁フレア放射が直上へ、一本の光の線を引いたものだった。
その光の線は次第に先細りしていき、最後は千切れて糸のように消える――――――――。
嵐が過ぎ去ると、巨体モニターは暗黒に満ちた宇宙空間を映し出していた。
「極軌道衛星、東京上空を通過。目標……停波を確認」
その報告を聞いた鬼塚課長は即座に別のオペレーターへ次の確認を取るよう急かす。
「皇居周辺にいる本城くんと対象者の少年、二人の安否を確かめて下さい」
「現地で作戦中の本城、対象者との通信、回復しました」
報告を聞くや否や鬼塚課長は通信マイクへ飛び付く。
「本城くん、応答せよ……本城くん!? ほんじょぉおーー!?」
巨大モニターの隅に表示された二つのバイタルは、温度を感じない平行線から、微かに凸型のうねりを見せた。




