61 ジャミング・バード
ジーメンス本部の巨大モニター前では、本部職員がモニターの端を見つめ息を飲んだ。
心電図の波線が赤くなり平行線を示したまま流れ行き、鳴り響くビープ音が全ての職員の声を奪う。
女性オペレーターは自分が与えられた義務を思いだし、短く報告。
「ほ、本城、対象者。バイタル、消失」
報告を聞いた鬼塚課長は、その名を叫び出しそうな素振りを見せたが、歯を食いしばり飲み込むと職務に殉じた。
定点カメラの映像は電波ナマズの足元に横たわる、二人の小さな人影を見つけていた。
巨大ジャマーにフォーカスしているせいで、その影は地面に落ちた黒い布切れに見える。
先ほどまで肉食の恐竜と見まがう動きで追跡していた電波ナマズは、正門前の広場で動きを止めて首をもたげていた。
しばらくすると、思い出したように鎌首をゆっくりと持ち上げ天を仰ぐ。
上空ニ〇〇〇キロメートルから発信された誘導電波を感じ取った電波ナマズは、街の光害で輝きがかすむ星々を見つめた後に咆哮した。
巨大ジャマーは丸ノ内では飛び交う無線機の電波を吸収して手足を生やしたが、ここに来て、その生えた四肢は発火した紙のように激しく燃え上がり消失。
元の魚類へ姿を変えると、背中から伸びた枝分かれ背ビレを体内へ取り込む。
消失した両腕からクジラのヒレに似たパネルが生えてきた。
戦闘機のような鋼鉄の羽が鋭く伸びた。
このジャマーは更に姿を変えて変異を遂げようとしている。
消失した足から太いパイプが突き出し、バイクのマフラーに似た形状だった。
そのマフラーはエンジンを蒸かすように震え、筒の穴から爆煙が吹き出す。
ナマズと同じ蔓ほども長い髭が鼻先に飲み込まれて行き、ナイフのような髭先が裂けた口を覆い剣そっくりなマスクになった。
飛行形態へ変身を遂げた巨大ジャマーは夜空へ急上昇。
その姿は巨大な戦闘機としか言い様がない。
一般人に見えないこともあり、全長約三百メートルの透明な超ド級の戦闘機は飛び去った。
安曇顧問他、取り巻き達はオペレーションルームの動向に固唾を呑んで見守る。
六つに区切られたモニターは次々切り替わり上空を登って行く巨大ジャマーを追いかけていた。
東京中に備えた定点カメラがジャマーの姿を捉えきれないくらいの早さで上昇していた。
電磁波の体を持つ巨大ジャマーの飛行は至って静かだ。
飛躍すればそのスピードは助走をつけることなく音速を超えてしまう。
これがもし物資の体なら、数秒の間に急な上昇で体は空気圧に押し潰され自壊し、粉雪のように破片を撒き散らす。
音速を超えれば空気の壁を突破して衝撃波を巻き起こし、地上の人々に騒音を送りつける。
そんな弊害や公害とは無縁なのだ。
女性オペレーターが新たな報告を上げる。
「課長! 東京の直上に位置する極軌道衛星が、後、一分で通過します」




