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G/SieMENS (ジーメンス) 極超短波少年と電波監視官の美女  作者: にのい・しち
インシデント・3 ゆずれない明日を守り続ける
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59 揺れる超電波戦

 女性オペレーターがモニターの隅に表示した皇居の地図を見ながら報告した。


「本城、保護対象者(マルタイ)。西へ直進中、和田倉門から皇居エリアへ到達。皇居外苑に入りました。目標(ジャマー)、二人に誘導され移動を続けています。予測進路、皇居方面」

 

 その報告を聞いて安曇顧問は苦虫を噛み潰したような表情で言った。


「たった数百メートルの間に多大な犠牲を払うなんて……」


 鬼塚課長は若手官僚にこらえるよう促す。


「人間の科学や文明は万能ではない。犠牲を出さずに済むのが賢明だが、人の力では限界があるのも事実」


 続くオペレーターの報告に本部内はヒリつく。


「目標、皇居エリアへ侵入!」


 鬼塚課長は身構えた後に発令した。


「来たか……これより東京上空の軌道衛星はジーメンスのコントロールに入ります」


 安曇顧問が驚き鬼塚課長に聞いた。


「この短時間で宇宙航空機構を説得したのですか?」


「あそこは総務省の所管だよ。交渉の仕方はいろいろ……」


 課長は不気味な笑みを浮かべた後、表情を強張らせて言う。


「とは言え、日本全国に情報を送信し続ける衛星の電波を、一時的に止める事になる。軌道上の衛星が使えるのは東京上空を通り過ぎる間――――時間にして、およそ一〇分」


 -・-・ --・-


 皇居外苑。

 横一列に並んだ石の丸椅子が見えてきて、その先に夜闇で黒い地平線に変貌した森が目に写る。

 宮殿地区を外から目隠しする為に植え込まれた緑の壁なのかはわからないが、皇居の橋と庭の境目に当たる内堀通り通りまで来た。

 ここは時差式の信号なので横断するには、しばらく足踏みをしなければならない。


 ゴールは目前、だが後方のジャマーが追い着いて来る。

 ニ百メートル近く強制ランニングさせられた中学生の肉体は、限界に近づいている。


「ほ、本城さん――――もう、走れない――――」


「何言ってるの? 死にたくなかったら走って! Gо! as fast you can(走れ! 息の続く限り)」


「こ、これ以上、走ったら――――死んじゃう――――」


 電波ナマズは体重も質量もゼロのはずなのに、その歩みは象やサイのようにゆったりしている。

 鬼ごっこが趣味で獲物を追い回してもてあそぶ性格の悪さがあるのか?

 そうでなけれぱ幽霊のような電磁波の体でも、三百メートルの巨体は動きにくいのか?


 確かに僕の肉眼で見える東京の街はあらゆる電波が飛び交い、赤外線で阻まれたトラップのように網を張っている。

 執拗に追いかける巨大ジャマーは、その光の網に当たると、胴体で引きちぎって自身の体へ取り込む。


 思いの外、どんくさい電波ナマズはダメ押しのつもりか、再び電磁フレアを放ち、本城さんと僕の行く手を遮ろうとする。

 内堀通りの信号機は故障してしまい、すでに歩道を越えて交差点に侵入した車は慌ててブレーキを踏んで停車させたので、ゴムと地面が擦れタイヤが悲鳴を上げた。

 

 本城さんは直進は無理だと判断したようで、急カーブして進行ルートを左へ変更。

 信号機が故障したのをいいことに、赤青関係なくなく横断歩道を渡った。

 

 外苑の歩道でランニングするジョガーの流れに逆らいながら走ると、本城さんはまたも急な方向転換をして道を右斜めへ走り、公道へ飛び足す。

 信号機の故障の余波で公道を走る車は急ブレーキをかけて惰性(だせい)で進む。

 本城さんはその惰性で進む車を木の葉のようにヒラリと交わしながら、車道を突っ切った。

 モラルを逸脱した本城さんの素行に、ジョガーが走るのを止め、目を丸めていた。

 ジョガー達の驚く顔が消えては現れ、また消える。

 その突き刺すような眼差しは、半ば巻き込まれた僕には痛く感じられた。


 彼女に手をひかれる当の僕は、乱暴に扱われるハンドバッグのように振り回される。


「ほ、本城さぁあーーん!!?」


「今は緊急事態。超法規的措置。いいから黙って走れ!」

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