44 悪鬼羅刹 ダーウィンの悪夢
雲一つ無い夜色の空に稲光が起きた。
それは巨大ジャマーの体内で発生した放電現象だった。
電波ナマズの胸部で起きた放電は、内部でビッグバンのように弾ける。
弾けた電撃は球体に変わり、さらに球体の表面から放電が発生すると、プラズマボールのようになり、表面から電気が迸る。
飛散する電流は血液が全身を巡るのと同じく、四つのヒレ、背、尻尾まで下る。
電波ナマズの四つのヒレが、高温で熱したガラスに筒で息を吹き込んだように膨らみ、重力に負けて垂れ下がる。
垂れ下がった各部位は屈強な肩、腕、そして太ももと足を形成。
それぞれが煤けたガラスのように半透明だ。
肩から肘にかけた上腕は内部が通電して、ヒューズ管に近い形に変わる。
腕や太ももは空洞で、その四肢をドリル状の骨が、腕から手首の部位、股関節から太ももの部位、どれも内部を掘るように伸びて行く。
各部位は僕が幼少期に夏休みの自由研究で、熱心に目を通した図鑑の生物や、お気に入りだった乗り物の玩具に似ていた。
ドリル状の骨の端と端から、発光するケーブルが十本くらい伸びていき、腕と太ももの外郭を包むと、その形は深海で光るカブトクラゲとなる。
膝から下の足はクレーン車などの重機と同じキャタピラ型が生えた。
三角のキャタピラが立ち上がって、角でつま先立ちをしている。
あ
流線形の背ビレからウネウネと、何本もの触手が伸び、夜風に躍らされて宙を漂うと、触手は一本一本が枝別れしてソーラーパネルのような小さなヒレが、いくつも生えた。
全体図を見るに深海生物のタツノオトシゴの仲間、リーフィーシードラゴンの葉に擬態したヒレに変化する。
背中の面は配線が張り巡らされ、抵抗、スイッチ、コンデンサなどの回路図の模様が張り付き、その線をなぞるように光の線が走っていた。
口先は少し前へ突き出ると、ナマズから神話の龍に顔が近づく。
裂けた頬を隠すようにシャベルの先を模した盾が両頬を塞いだ。
電子機器や回路基板と自然界の生物が融合を果たした姿に、指令本部は驚愕。
グロテスクでりながら美しさを兼ね備えたな怪物に、安曇顧問は驚きを口走り、鬼塚課長が捕捉を交える。
「形態が変化した!?」
「街を飛び交う、ありとあらゆる電波を吸収し、加えて行き交う一般人の脳波を読み取ることで、より形状を複雑化させている。ここまで得体の知れないジャマーは初めてだ」
異常な光景を目の当たりにして、僕の膝が笑ってる。
もはや、オオナマズなんて生き物を超越していた。
これが人類の脅威、電磁波の化け物、電波生物ジャマーなんだ。
女性オペレーターが語気を強めて報告。
「目標の内部に強いマイクロ波を確認。開口部に集積されます!」
鬼塚課長は大画面に映された様相に戦慄し、声がうわずりながら言った。
「い、いかん!? 現地職員は退避!」
突然変異を起こしたジャマーは頬まで裂けた口を蛇のように開く。
両頬にはシャベル型のシールドが左右へ開き、その口は十字型のアンテナへ変形。
電波ナマズは喉の奥から光が込み上げてくると、十字のアンテナをした口いっぱいに溜め込み、怪光線を放つ。
紫電を帯びた赤い怪光線が火砕流のように街へ流れ込む。
その惨状は燃え上がる溶岩流を、倍速で見ている光景を連想させた。
巨大ジャマーの反撃に晒された東京は、ビル、商店街、マンション、車両、そして人までも呑み込まれ、息をつく間もなく地獄の業火へ消え去る――――――――。




