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43 三分間勝負!!

 次第に電波ナマズが街を破壊しているのか、ジーメンスが街を壊そうとしているのか、区別がつかなくなる。

 それでも課長は攻め続ける。


「出力、九〇%。三十秒後に出力を九五%まで上げる」


「了解。ゲイン砲の出力、九〇%」


 壊滅的な光景を目の当たりにした安曇顧問は、気が気でない様子で拳を震わす。

 そんな若手官僚へ鬼塚課長は教示した。


「安曇君。よく見ていなさい。我々の兵器は都市機能をダウンさせる恐れがある。だから、まず目標に対し弱い攻撃でダメージを蓄積させる。そして街に影響が出るか出ないかを見極め、制限時間ギリギリで一気に叩きこむ。この駆け引きが勝負を決める」


 若い官僚は小さく頷きながら、食い入るようにモニターを見つめた。

 

 僕は姿勢を正した課長の背中を見つめて息を呑む。

 数時間前は肩を落とし気味にして、頼りなさを醸し出す中年の背中が見る影もない。


 あの人は今、天秤にかけているんだ。

 街への電波被害か? ジャマーの討伐か?

 

 モニターに映る巨大ジャマーは防衛兵器の波状攻撃を背に受けても、まるで鉄の壁に砂を投げつけているように、びくともしない。


 オペレーターは時を刻々と告げる。


「終了時間まで残り三十秒」


 鬼塚課長は決断。


「出力最大」


「了解。出力、一〇〇%。スプリアス、規定値に達します」


 攻撃の状況を映すモニターに変化が起きた。

 それまで無数の光の矢を撃ち込まれても、びくともしなかった巨大ジャマーが首をもたげ、大きく振り上げると夜空へ向かって咆哮し苦しそう上半身を揺さぶった。

 鬼塚課長の戦略が功を奏した。


 電波ナマズは巨体を揺さぶり背面へ振り向いた。

 鬼塚課長の次の戦略は一手先を行く。


「反撃の機会を与えるな。目標の頭部へ集中攻撃」


「了解。現地職員、照準を目標頭部へ移行」


 街中から放たれる光の軌道は、電波ナマズの胸部から首を駆け上がり、頭へ集中放火。

 飛散した電磁波が煙のように漂い、断崖のような顔を隠す。


「残り十五秒」と、オペレーターが報告。


 防御兵器と真正面に対峙した電波ナマズは、釜首をゆっくり振り回し、光の矢を払うように避けるが、照準はそれを逃がさんとばかりに、電磁波の光線が追いかける。


「十、九、八……」


 状況を克明に伝達する女性オペレーター以外、誰もが時間を止められたようにモニターへ釘付けになった。


「――――三、二、一」


 鬼塚課長は発報。


「撃ち方()め!」


「各職員、停波!」


 巨大ジャマーの顔面に一瞬、閃光が広がり、無数の火花を散らしながら大爆発が起きる。


 沈黙に耐え抜いた安曇顧問は声を発する。


「やったか?」


 いつの間にか電磁波の煙は巨大ジャマーの上半身へ被さり、攻撃の成果ごと覆い隠してしまう。

 ひび割れが起きるように、煙の周りは電流が駆け巡っていた。


 監視ゼロ課の本部で健闘を尽くした全員が、固唾を呑んで見守るが、この三分間の抗いは、いとも容易く崩れ去った。


 どす黒い煙の中心に、灼熱のマグマを連想させる、赤い二つの目玉が怪しく光る。

 それを見た本部の職員は一斉に落胆の声を漏らす。

 次に巨体を覆った電磁波の煙が、みるみると小さくなり、全て電波ナマズの半開きになった口へ吸い込まれた。


 立ち尽くす若手官僚の安曇顧問は無意識に吐露していた。


「なんてヤツだ……」


 異変は現象になって現れた。

 周辺で通話をしている人々が、携帯電話の不調を口ぐちに言う。

 電波を吸われ受信状態が安定しない街頭テレビは、画面が歪み音声がスローに聞こえる。

 街灯も弱々しく光り、電光掲示板のLEDは乱れ点滅し、不可思議な文字を表示している。


 室内中央、円卓のデスクからオペレーターが報告。


「東京駅周辺の通信設備、半径五百メートルの電波が、目標に吸収されています!」


 三百メートルの巨体を揺さぶる電波ナマズに変化が。

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