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42 首都防衛兵器発動!

 闇夜を一筋の光が走り抜けると、それに続けとばかりに青白く、またたく弾道が、あっという間に星の輝きを越える。


 電波監視官の本城さんが、学校で僕をジャマーから助けてくれた時に乱発した、ジーメンスの電波兵器。


 ウルティマヘテロダイン増幅ゲイン砲だ。


 ゲイン砲の発射は様々で、コンクリート制の雑居ビルやガラス張りの高層建築の屋上に立ち上がったアンテナ。

 ビル群を鉤括弧かぎかっこで囲む首都高速道路に、一定の区画で設置された無線装置。


 一つ一つの光線が見せる挙動は、懐中電灯のスイッチのオンとオフを繰り返すことで、長く延びる光線(ビーム)が明滅している様を思わせた。


 それが豊洲、日本橋、銀座一帯から東京駅にそびえ立つ、三百メートルの巨獣の背へ向け、一斉に光の砲撃を繰り返している。

 命中したビームは次々と爆発した。


 ネット動画で観たことあるけど、海外の戦争を撮影した、夜間対空砲火の如く波状攻撃が絶え間なく続く。

 幻想的な夜景で飾られる東京の街は、ものの数秒で要塞へと変貌した。


 僕や本城さん、ジーメンスの人達はモニター越とは言え、持って生まれた眼で電波兵器のビームを視認できる。

 電波が見えない安曇顧問と彼を取り巻く四人の官僚は、特殊なフィルターを通して、僕たちと同じ光景を眺めていた。


 安曇顧問はモニターに映された戦場へ、引き込まれるように見つめながら、鬼塚課長に聞く。


「あの光線はどうやって発射してますか?」


「建造物に設置されたアンテナだ。センサー局とも呼んでいるが、そのセンサー局を最前線で戦う監視ゼロ課の職員が、携帯端末を使いリモートで操作している」


「まさか、ハッキングして攻撃を? 違法では?」


「ゼロ課はジャマー殲滅の為、他の行政機関とは次元の違う権限を与えられていてね。ハッキングは、その一権限に過ぎない」


 画面に映る電波ナマズの胴体を囲むように、四つの小さなウィンドウ画面が表示され、命中した箇所がどのゲイン砲なのか、分かりやすくしている。

 名称がついた各アンテナは、青白いビームを発射し、筒状の光の中は稲妻が走っていた。


 【パラボラアンテナ】

 雑居ビルや高層建築の屋上にある、立てた円盤に下からフックのようなポールが取り付けられたアンテナ。

 円盤面からビームを放つ。


 【ユニコーンアンテナ】

 同じく屋上に設置された(ポール)型のアンテナ。

 立ち上がる太いパイプ型の全面からビームを発していた。


 【セクタアンテナ】

 アニメに出てくるスーパーロボットが肘を曲げたまま、両腕を上げて必殺技を炸裂させている呈を成すアンテナ。

 そのアンテナが寄り集まって、SFの宇宙ステーションを形作っている。


 【八木(やぎ)宇田(うだ)アンテナ】

 屋上に設置された矢じりの形をしつつも、魚の骨を連想させる、T字に複数のトゲを生やしたアンテナ。

 魚の尾を目標へ向けた位置で、トゲ全体からビームが発射されている。


 画面下、右側の男性オペレーターが報告。


「パラボラとユニコーン、共に出力安定。セクタと八木宇田、指向性角度を四十度で固定中」


 続いて女性オペレーターが報告。


「ゲイン砲、攻撃開始から二分経過」


 鬼塚課長が指示を追加するとオペレーターが了承する。


「出力を八五%まで上げろ」


「了解。ゲイン砲の出力、八五%」


 攻撃時間が狭まるに連れ、指揮を司る鬼塚課長の指示が端的になる。

 巨大モニターの右側に、東京駅周辺の地図が表示されている。

 地図は赤いまだらのシミが塗られていたが、次第に赤いシミは布に染み込むように広がり、赤い地図へと塗り替わる。

 各オペレーターは被害状況の報告を怠らない。


「一分経過。丸ノ内周辺のスプリアス数値、急上昇」


「周辺の緊急無線、医療施設に強い電波障害発生」


 横槍のような報告を聞いても鬼塚課長は動じなかった。


 僕は極秘機関ジーメンスに来てまもない上に、若手官僚に拘束されて混乱の最中にいるが、今、何が起きているのか理解出来た。

 防衛兵器を撃てば撃つほど、街は電波障害で停滞する。

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