33 現場VS官僚 ゼロ距離艦砲射撃
僕らがリラクゼーションルームを出ると、鬼塚課長は先ほど伝言を伝えに来た職員に確認する。
「それで、相手は何人だい?」
「五人です。全員、若い男性係員です」
「わかった」
課長は手を叩き仕事中の職員の注意を自分に向けさせた。
「職員の中で身長がなるべく高い人、四人でいいので、私のところへ集まって下さい。なるべく男性がいいかな?」
号令をかけられた兵隊のように、タッパのデカイ作業服を着た男性達が、鬼塚課長へ駆け寄り両脇に並んだ。
本城さんは僕の手を引いて並んだ職員の背後へ立つと、そのまま背中で隠すように後ろへ下げた。
指令本部の自動ドアが開くと、黒とグレーのスーツを纏う、男達が入室した。
それを見るやいなや、本城さんは頭を押え憂鬱な表情を浮かべた後、気を取り直して笑顔を作り、敬礼して挨拶する。
「安曇顧問! わざわざご苦労様で~す」
四人の男達を従えた先頭にいる若い男性は、本城さんを無視して名乗る。
「総務省・電波部・電波環境課より来ました。監視第ゼロ課、担当顧問の安曇です」
自分で作った困惑の表情だけで、本城さんに答えを求めるのがクセになってきた。
本城さんは耳打ちで教えてくれた。
「表向きはお堅い肩書きが付いてるけど、裏ではジーメンスと総務省の連絡係をしてるわ。で、先頭にいる仏頂面の感じワル~い男が、リーダー」
安曇顧問と呼ばれた二十代の男は、背も髙く背筋を伸ばし堂々とした出で立ちで、その存在感を見せつける。
シワの無い紺色のスーツは、ライトの光りを反射して光沢を放つくらい綺麗だ。
中分けのヘアーに凛々しい眉と目、顎は細く整い、同じ男から見てもカッコいい。
隙が無く威圧的な印象を受け僕は無意識に危険視した。
いや、十年後の未来で生きる僕と、正反対の人生を送っているであろう、若い男に嫌悪したのかもしれない。
それにしても、異様な光景が出来てしまった。
安曇顧問の脇を固める四人のスーツ達は、体格もそれなりにガッチリしていて、高い壁のような圧迫感をかもしだす。
対して鬼塚課長の元に集まった作業服姿の職員も、負けず劣らず背が高く、高い壁を押し退ける重圧を放っている。
対極する五人男性達は戦争映画やスペースオペラでたまに見る、戦艦同士が横這いに接近し刺し、違える覚悟でゼロ距離射撃を構える場面と重なる。
わざわざ官僚と同じ頭数揃えたのは、この威圧に引かない姿勢を見せる為か。
安曇顧問は一方的に要求を伝えた。
「そちらで保護した危険人物の身柄を即刻、引き渡して下さい」
鬼塚課長は自分よりも二回りくらい下の人間を諭すように口を開く。
「安曇君。こちらへ来庁する際は事前にアポを入れてほしいと、前にも言ったはずだがね?」
「急を要するので面倒な手順を省きました」
「随分と勝手じゃないか。我々には口うるさく手続きのことを指南するのに」
「課長、こちらは時間がありません。ただちに保護した少年を引き渡して下さい」
「あいにく、こちらも自衛隊を欺いてまで保護した重要参考人だ。簡単に引き渡すわけにはいかない」
鬼塚課長の脇に並ぶ四人の男が一歩前に出て、通せんぼする姿勢を見せたので、スーツの男達も一歩出て対抗心をむき出しにした。
安曇顧問は語気を強めて伝える。
「僕たちは本省の上層部から直直に命を受けてきました。その為の権限も一部、譲渡されています。僕たちの意見は上層部の言葉と受け取って下さい」
「それで? 我々が引くとでも思ったかい?」
「駆け引きをする余裕はありません。上層部は件の計画を検討しています」
「MKウルトラ・イワト構想……予てより現場は上層部の計画には反対だった」
「ゼロ課の報告では電波技術の発展と共に、日本全国で災害レベルのジャマーが目立つようになりました。ジャマーは普段、機械や自然、人間に寄生し、姿と本来の力を隠している為、現出した時には手がつけられないことが多い。上層部は現出する前に抑制電波を日本中に送信し、寄生した宿主ごとジャマーを抑えこむ計画を考案しています」
「抑制電波……都合の良い呼び方を考えたものだ。懸命な判断とは到底思えない」
僕は声を潜めて周囲にバレないよう本城さんに質問する。
「なんですか? MKとかイワトなんとかって?」
「MKウルトラは半世紀以上前にCIAが催眠術や薬物を使い、人間を洗脳する為に行った人体実験のコードネームよ」
「せ、洗脳?」




