31 関東総合通信局・電波監理部・監視第ゼロ課
重厚な自動ドアが開き中へ案内されると、まるでSFの世界へ来てしまったと錯覚してしまう。
近未来的な白い空間で正面には大きなモニターが有り、六つに区切られ東京の街を映していた。
四メートルはある高い天井には、リング状の白色ライト。
部屋の中央に大きな円卓のデスク。
円卓を囲むように座席が配置され、デスクにはタッチパネルが埋め込まれている仕様だ。
そのパネルを複数の職員がフリック操作している。
巨大モニターの前にもデスクが並び、オペレーターらしき人達がヘッドホンのマイクに何かを指示していた。
スーツ姿や作業服の人間がほとんどだが、何人かは白衣を着た科学者風の人やパーカーに上着を着た人もいた。
四隅は硝子張りの部屋が囲んでいて、縦長の会議テーブルを置いた部屋。
カフェのようにテーブルと椅子がガラス側に設置された部屋が見える。
本城さんは僕をカフェのようなリラクゼーションルームへ案内した。
ガラス張りに取り付けられたテーブルへ座るように言われ、輿を下ろすと本城さんはカウンターにあるコーヒーメーカーを利用する。
「ここのコーヒー、何年か前は無料だったんだけど、事業仕分けで一杯百円になったのよね~」
そう言いながら彼女は集金箱に二百円入れ、二つの紙カップにコーヒーを注いで一つをテーブルの前に座る僕に振る舞い、隣へ座る。
湯気が立つ入れたてのコーヒーに、本城さんが添えたミルクとガムシロップのポーションを混ぜて、コーヒーをすすりながらガラス張りの向こうで忙しく作業する人達へ眼を向けた。
パッと見て二十人前後だろうか、ひたすらデスクで操作する人や画面と睨めっこする人。
壁に埋め込まれた機械を数人でチェックして、隣の人と相談する人。
それぞれが真剣に作業へ取り組んでいた。
僕が不思議そうに見ていると本城さんが解説する。
「ここのスタッフは毎日、忙しく仕事をしているわ。私は、この監視ゼロ課にある【脅威電波調査係】で働いているの」
聞いたことないワードが話題を広げる。
「何ですか? "脅威電波"って」
「ジーメンスで通じる造語。いわゆる怪電波だけど、経済や文明、人命すら危険にさらす災害レベルの電磁波をそう呼んでるわ」
「災害レベルって聞くと、とんでもなく危険に思えてきます」
「私達の極秘機関は電波怪獣ジャマーだけが対象じゃないわ。社会に危険、脅威と判断される電磁波の問題や災害も解決目標なのよ」
「大変な仕事なんですね」
「ジャマーは世界のどこに潜んでいるか解らないから、常に見張っていなきゃいけないのよ。モニターの前にパネルが付いたデスクが並んでるでしょ?」
彼女はガラスの先にある巨大モニターの下に置かれた、何かの機材を指差した。
本城さんは二の句を継いだ。
「あれは【DEURAS】って名前のマシンなの」
「でゅーらす? 何か怪獣の名前みたいだ」
「デューラスは電波監視システムの通称で“DEtect Unlicensed RAdiо Statiоns“という英文を部分的に合わせた略称なの。元々、日本全国の至る所に設置した受信アンテナを使って”無許可の無線局を探知する“のが目的だけど、それをジャマーの発見に応用しているわ」
僕はコーヒーを飲みながら感心した。
次に気になったのは巨大モニターだ。
六つに区切られた巨大モニターは、道行く通行人の映像、何かの数値を表した折れ線グラフ、東京二十三区や日本列島のCGモデル、地球の軌道を周回する人工衛星や太陽系のシミュレーション映像。
「あのモニターは何ですか?」
「街や宇宙の映像は各省庁や外局団体の協力を得て提供してもらっているのよ。街の映像なら都市を管理している国土交通省。宇宙の映像なら人工衛星を管理している宇宙航空機構。それぞれの機関から情報を集めて、影からジャマーを見張っているの」
「は、話が大きくなって来ましたね?」
「時には特別な権限でジーメンスが、都市機能や人工衛星をコントロールする事もあるわ」
「壮大過ぎて解んなくなってきた……」
「もっと分かりやすい話だとSNSも情報収集に利用してるわ」
「SNS?」
「一般人がネットに流したSNS情報を拾って、現場の脅威電波被害を把握してるのよ」
「毎回、規模の上がり下がりが激しいですね?」