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29 スプリアス(寄生振動)

 本城さんの長い電波講義が始まる。


「ジーメンスが流した情報で自衛隊衛生科は本当にパンデミックだと思っているけど、それはカモフラージュで本当は、【寄生振動(スプリアス)発射】を除去しに来たの」


「す……ぷりん?」


 険しい表情をで答えを返すと、彼女は解説する。


「スプリアスは電波を送信した時に出る余波みたいな物なの、平たく言うと電波の残留物かしらね? 別に珍しい物ではないけど放って置くと、別の機械に干渉し通信を妨げるわ。だから総務省の職員は定期的に、このスプリアスを取り締まっているのよ」


「なんか電波の警察みたいですね」


「ジャマーが発している怪電波の正体はスプリアスで、勿論、ジーメンスの防衛兵器、ゲイン砲からも出るからジャマーを殲滅した後に処理しないと、一般人の生活に支障を来す。だから今日は、そのスプリアスを取り除きに来たの」


 理解していないが、とりあえず感心した。


「実は何ヵ月も前に光ヶ丘で怪電波が探知されて、総務省の電波監視官が何度も探索したけど、原因は不明。そこでジーメンスはジャマー事案と睨んで、大規模な探索を始めたら、ようやく解ったわ。光ヶ丘中学校を中心に怪電波が発せられているの。多分、発信元は君」


「は?」


「実は君からは強力なスプリアスが出ているの。原因を調べる為、何週間か君を監視していた時にジャマーが襲って来た訳よ」 


 この前、初めてジャマーと本城さんに遭遇した時の話だろう。


「ぼ、僕から……ジャマーと同じ怪電波が出てる?」


 僕から電波の残留物、スプリアス発射が出ている――――と、言われてもスプリアス自体がどんなものかよく解ってないのに、さも衝撃の事実のように告げられても、驚くことができない。

 ただ、今の話で理解したことは、ジーメンスにとって僕は何かしらの要注意人物で、その為に極秘の電波監視官、本城・愛さんを監視任務に当てがった、ということらしい。


 なるほど、僕は本城さんにずっと監視されていたのか…………え? じゃぁ、僕が私生活でしていたアレも、コレも見られていた可能性があるのか?


 ちょ、ちょっと待って。

 それは本当にマズい!


 勝手に気まずさを感じた僕は、動揺を隠しきれず目の前の美女と顔を合わせられなくなり、視線が泳ぐ。

 こちらに構わず本城さんは話を続ける。


「しかも、君のスプリアスは日に日に増している。このままでは、家族や周囲の人間に影響が出るかわからない。だから原因を究明する為、一時的にジーメンスで保護して、ウチの研究チームで簡単な検査を受けてもらうわ」


 人の気配を悟り振り向くと、背後に黒いスーツを着てサングラスを身に着けた、一人の男に驚いた。

 足音すら聞こえることなく、まるで空気に溶け込んでいたのではないかと思えるほど、いきなり現れた。


 これって映画で観たけど、宇宙人を裏から監視する秘密のエージェント的な人なのかな?


 電波監視官の美女は笑いながら言う。


「大丈夫よ、怪しいペンライトで記憶を消したりしないから。彼が車で送ってくれるから」


 結局、新型ウィルス騒動は数十人のインフルエンザに感染した、先生や生徒を発見しただけで終わり、自衛隊は嵐のように撤収した。

 体育館で各教師の注意を聞いた後、生徒はその場で解散、下校した。


 そういえば、親友の戸川と帰りに遊ぶ話をしていたが、アイツのことだからスッポかしても明日には忘れる。


「おーい、万城目。学校終わったし遊び行うぜー。どこ行こうか? 俺はー……万城目? 万城目!? 万城目がいない! どこ行ったぁー!?」

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