27 ソーシャル・ディスタンス
> 一、我が国の自然的特性に鑑み、人口、産業、その他の社会経済情勢の変化を踏まえ、災害の発生を常に想定するとともに、災害が発生した場合における被害の最小化、及びその迅速な回復を図る。
災害対策基本法・第一章 第二条、二 基本理念。
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校庭は自衛隊の輸送機が占領し、それを囲むように医療用の自衛隊車両が駐車する。
学校の外はマスコミが殺到。
スマホを見れば動画で学校の校舎が映し出され、ちょっとしたトレンドをかっさらった。
教室に来た自衛隊員に体育館へ移動するよう、うながされた。
生徒達は拷問に思える午後の授業が中止になり意気揚々としている。
体育館に誘導された全校生徒は、それぞれビニールで仕切られた仮設部屋で並び、検査を待つ。
有識者中学生が出しゃばる。
「光ヶ丘は元々米軍の基地が有って、もしかしたら、地下に細菌兵器を作る研究所があったのかもしれない。長いこと研究所に封印されていたウィルスが、地上に漏れ出たのかも? ちなみにパンデミックの時に来る自衛隊は衛生科で、衛生兵じゃなく医者は医官。看護師は看護官と呼んで……」
有識者中学生。
もう出て来るな……。
並んだ生徒達の移動が始まる。
僕はと言えば忙がしく検査を行う自衛隊の一団を見て、少し気持ちが高揚してしまう。
「何か怪獣映画みたいだ」
僕の後ろに並ぶ親友の戸川がソーシャルディスタンスを無視して、僕の背後へすり寄って来ていた。
「何が怪獣映画だよ? 万城目はお子ちゃまだなぁ」
「う、うるさいな!」
今の僕は完全に脇が甘かった……いや、尻が甘かったのだ。
お尻に違和感を覚える。
その違和感は次第に形がわかるほどに尻の肌をイジくり回し、気がつけば細くて硬いモノが肛門へ侵入。
「ぬんっうぅぅぁあああーーーー!!?」
自分でも言語化不可能な声を発して叫ぶ。
何が起きたか察しがついた。
「戸川ぁあああーーーー!? ナニしてんだよぉおーー!」
「ステルスおカンチョー。この前、お前におカンチョーをブロックされたから、バレないようにソロリと背後に近づき、こう、片手をケツにそえて、ゆっくりと指の先っチョを穴に入れてみた」
「ふざけるなぁあ!! どんだけ、カンチョーが好きなんだよ!?」
「おカンチョーは俺のアイデンティティーだ!」
例えば売れない芸人がテレビで好成績を残す為には、奇抜なネタで笑いを取ってインパクトを見せつけ、面白いと話題にならなければ、次はテレビに呼ばれないかもしれない。
それと同じとは言わんや、モブキャラ同然の親友が個性を強調したいのであれば、カンチョーに命を懸けるのも頷ける。
いや、そんなわけあるか!
ここは集団行動必須の学校。
騒いでいれば当然、教師に目を付けられる。
案の定、生徒指導の先生は距離を置いた場所から「お前ら騒ぐな!」と叱りつける。
それを遠目から見た女子生徒達がクスクスと笑っていたので、僕は急に恥ずかしくなり言葉を噤む。
教師に叱られたにも関わらず、黙っていられない親友の戸川が寄り道の誘いを持ちかける。
「なぁ、帰り遊びに行こうぜ」
その話を遠くから見張る先生の耳に届き、また注意される。
「お前達、いい加減にしろ! 寄り道しないで真っ直ぐ帰れ」
「んだよ。大人はすぐにあれはダメ、これはダメって言うよな?」
小さく愚痴る戸川に思うところはあるが、口にすれば教師に無駄口と言われるのが目に見えてるので、黙っておこう。
自衛隊員を興味本位で眺めていると、迷彩柄の防護服を着た集団の中に、不自然な人物がいた。
ガスマスクで顔が見えないにも関わらず、どう考えても僕が知っている人物としか思えない、その人は、フードの上にエイやヒラメのように平たく大きなポニーテールを出して……いや、装着している。
他の生徒達も気付いたようで、ポニーテールを見て友達と小さく笑っている。
あれ、変装のつもりかな?




