24 見るモノすべて
チャイムが鳴ると正門で生徒指導の教師が「お前ら! 早く教室に行かないと遅刻だぞ!」と、がなるので慌てて正門へ駆け込んだ。
平穏な日常を取り戻し、人生を一からやり直せる。
奇跡としか言い様がない。
これまでをただ振り返るなら、何もない青い空を見上げるのがいい。
良く晴れた空は青いペンキ一色で塗り手繰ったように清々しい。
そんな青空に異質な物が描き込まれる。
半透明の魚だかクラゲだか判別できない存在。
その掴み所のない風船に思える、フワフワとした異様な動きには、見覚えがあった。
間違いない、アレは――――――――ジャマーだ。
僕は身構え、どこかでまた、あの電波監視官の美女が来るのではないかと期待した。
本城さん、本城さん! 早く来てくれよ!?
ただ、これまでと何か違う。
ジャマーが遠くの空にいるというのもあり、無警戒に空を浮いているように感じられた。
単にエサとなる電波体質の僕に、気が付いてないだけかもしれない。
考えを巡らせながら観察を続けると、ジャマーの尾に食らいつくように後を追う影が。
浮遊するジャマーと同じ形をなしているものの、大きさは二回り小さい外見のジャマーが二匹、飛んでいた。
まるで親鳥においていかれないよう、必死で後を追うヒナドリの姿と重なる。
そう見ると急にジャマーへ対する恐怖が薄れた。
砂嵐に擬態し襲って来たヤツとは真逆で、愛くるしいとさえ思えてくる。
朝、目覚めたばかりの町並みへ視線向け、景色をよく見る為、度が入ったメガネを外す。
数えきれない数の魚が一つの塊になり、それ自体が生き物のように振る舞う、群れのジャマー。
綿毛を咲かせたタンポポが風に飛ばされたように、青空をさまようジャマーの一団。
ひたすら上空を目指し、鯉の滝登りのように天空へ上昇する一匹のジャマー。
そうか、もう普通なんて無いんだ。
万城目・縁司は十年後の世界からやって来た自称、未来人。
その正体は学校での恐怖体験が元で、引きこもっていた二十四歳の廃人。
砂嵐の怪物こと凶悪なジャマーに襲われ、絶命する間近に魂を過去へ飛ばし、十四歳の自分へ転生して人生をやり直そうとした。
そんなプロフィールは勘違いで、未来の僕が死んだ時に記憶を強力な脳波に乗せ、過去の世界へ送信し、今現在を生きる僕がその脳波をダウンロードしたことで、未来人だと思いこんでいる。
あるいわ、全くの赤の他人が朽ち果てる際、同じく記憶を脳波に乗せて送信。
見ず知らずの電波体質を持った中学生が受信して、"僕"だと信じてしまった。
何もかも可能性の話で、僕は僕で、もしかしたら僕じゃないかもしれない。
未来の万城目・縁司は、ずっとあの時、ああしていれば良い人生があったんだと、酷い後悔の念に取り憑かれていた。
普通に生きていたかったと……。
世界に普通なんてない。
普通に生きるなんて、元々できるわけなかったんだ。
それに未来から過去へやって来た時点で、普通じゃないじゃん。
メガネをかけ戻して人の町並みを眺めた。
何がなんだか解らなくなってきたけど、今の僕が導き出せる答えはコレに限る。
立ち尽くしていると親友である戸川の呼び声が聞こえた。
「おーい、万城目? 早くしろよ。遅刻するだろ!」
「ま、待って!」
――――――――とりあえず、前に進もう。




