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G/SieMENS (ジーメンス) 極超短波少年と電波監視官の美女  作者: にのい・しち
インシデント・1 僕と彼女の最初の怪事件
24/70

24 見るモノすべて

 チャイムが鳴ると正門で生徒指導の教師が「お前ら! 早く教室に行かないと遅刻だぞ!」と、がなるので慌てて正門へ駆け込んだ。

 

 平穏な日常を取り戻し、人生を一からやり直せる。

 奇跡としか言い様がない。


 これまでをただ振り返るなら、何もない青い空を見上げるのがいい。

 良く晴れた空は青いペンキ一色で塗り手繰ったように清々しい。

 そんな青空に異質な物が描き込まれる。


 半透明の魚だかクラゲだか判別できない存在。

 その掴み所のない風船に思える、フワフワとした異様な動きには、見覚えがあった。

 

 間違いない、アレは――――――――ジャマーだ。


 僕は身構え、どこかでまた、あの電波監視官の美女が来るのではないかと期待した。


 本城さん、本城さん! 早く来てくれよ!?


 ただ、これまでと何か違う。

 ジャマーが遠くの空にいるというのもあり、無警戒に空を浮いているように感じられた。

 単にエサとなる電波体質の僕に、気が付いてないだけかもしれない。


 考えを巡らせながら観察を続けると、ジャマーの尾に食らいつくように後を追う影が。

 浮遊するジャマーと同じ形をなしているものの、大きさは二回り小さい外見のジャマーが二匹、飛んでいた。


 まるで親鳥においていかれないよう、必死で後を追うヒナドリの姿と重なる。

 そう見ると急にジャマーへ対する恐怖が薄れた。

 砂嵐に擬態し襲って来たヤツとは真逆で、愛くるしいとさえ思えてくる。


 朝、目覚めたばかりの町並みへ視線向け、景色をよく見る為、度が入ったメガネを外す。


 数えきれない数の魚が一つの塊になり、それ自体が生き物のように振る舞う、群れのジャマー。

 綿毛を咲かせたタンポポが風に飛ばされたように、青空をさまようジャマーの一団。

 ひたすら上空を目指し、鯉の滝登りのように天空へ上昇する一匹のジャマー。

 

 そうか、もう普通なんて無いんだ。


 万城目・縁司(えんじ)は十年後の世界からやって来た自称、未来人。

 その正体は学校での恐怖体験が元で、引きこもっていた二十四歳の廃人。

 砂嵐の怪物こと凶悪なジャマーに襲われ、絶命する間近に魂を過去へ飛ばし、十四歳の自分へ転生して人生をやり直そうとした。


 そんなプロフィールは勘違いで、未来の僕が死んだ時に記憶を強力な脳波に乗せ、過去の世界へ送信し、今現在を生きる僕がその脳波をダウンロードしたことで、未来人だと思いこんでいる。

 あるいわ、全くの赤の他人が朽ち果てる際、同じく記憶を脳波に乗せて送信。

 見ず知らずの電波体質を持った中学生が受信して、"僕"だと信じてしまった。


 何もかも可能性の話で、僕は僕で、もしかしたら僕じゃないかもしれない。


 未来の万城目・縁司は、ずっとあの時、ああしていれば良い人生があったんだと、酷い後悔の念に取り憑かれていた。

 普通に生きていたかったと……。

 

 世界に普通なんてない。

 普通に生きるなんて、元々できるわけなかったんだ。

 それに未来から過去へやって来た時点で、普通じゃないじゃん。


 メガネをかけ戻して人の町並みを眺めた。


 何がなんだか解らなくなってきたけど、今の僕が導き出せる答えはコレに限る。


 立ち尽くしていると親友である戸川の呼び声が聞こえた。


「おーい、万城目? 早くしろよ。遅刻するだろ!」


「ま、待って!」


 ――――――――とりあえず、前に進もう。

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