21 アイソレ 新たなる希望
開眼すると三つに割れたペン先から青白いレーザーが現れ、天井へ突き刺さり空間に波紋が広がった。
「う、うわぁあ!?」
自分が持つアンテナが小刻みに震え、棒の先が意思を持ったように揺れ動く。
本城さんは「引いて!」と指示したので、僕は両手で持ったアンテナを真下へ引く。
サメとタコの合成獣、ジャマーは再び姿を現し天井から落下。
レーザーはアンテナとジャマーを繋いだままだ。
本城さんの「振り回せ!」と言う指示に従い、アンテナを闇雲に振り回す。
それに連れてレーザーに捕まったジャマーは実験台や壁に激突。
設置した鏡や金属のトレーやボウルにぶつかると、苦しそうに叫ぶ。
さっきまでの怪光線の乱反射で察しがついた。
電波の体を持つジャマーは金属や鏡に当たると、電波の体が反射し、弾かれてダメージを受ける。
このままアンテナを振り回し続ければ倒せるかもしれない。
勝機が見えかかった瞬間、アンテナとジャマーをつなぐ青白いレーザーはプツリと途切れた。
急にアンテナから感じていた重みが無くなり、僕は後ろへ倒れてしまった。
なんてことだ。
勝利が目前に見えたことで、雑念が入り集中の糸が切れてしまった。
後、少しだったのに――――。
実験台に頭を打ち付け床へ伏せると、激痛と脳震盪で起き上がれない。
動けない獲物は捕食者に取って、かっこうのえじき。
ジャマーは触手を踊らせ牙をむいて襲い来る。
逃げられない――――――――。
怪光線の攻撃から回復した本城さんが、身動きが取れない僕へ、庇うように覆い被さる。
四メートル。
ジャマーは触手を風船の形に膨らませ、しぼませるとロケットのように向かって来る。
三メートル。
覆い被さる本城さんは後頭部に片手を当てて、装着していたエクステを外すと、角度を付けて肘から腕、腕から手首に力を伝えて、手裏剣の要領でエクステを飛ばす。
二メートル
投げたエクステはブーメランのように回転しながらジャマーへ立ち向かうが、電波の体を持つモンスターをすり抜けてしまい、明後日の方向に飛んで行ってしまった。
――――もう駄目だ!
僕は本城さんの腕に守られつつも、自分の最後を悟った。
こんな状況でも、彼女だけは絶望に陥ることはしなかった。
電波監視官の美女は不適な笑みを浮かべて一言。
「nоw yоu dоn,t! (ほら、消えた!)」
何かの映画のセリフなのか、そんな気取った言い回しを残すと、風圧に乗り回転したエクステは黒板側のドアへアーチを描きながら飛び、ドア付近にある蛍光灯のスイッチに命中――――理科室は明るく照らされる。
一メートル。
赤く発光するジャマーは感電したように動けなくなった。
全ての答えは彼女が知っている。
「な、何が起きてるの!?」
「こっちの攻撃でアイソレを起こしたジャマーは極端に弱ってる。蛍光灯が放つ電磁波にも抵抗できないわ」
スイッチを点灯させたエクステは理科室を一週して、本城さんの手元へ帰って来ると、再びエクステを頭の後ろへ装着した。
いつぞや、本城さんの髪を掴んでエクステを引っ剥がした時に《エクステは女の子の秘密道具。だから、この事は内緒よ》と、言われたが、本当に秘密道具だったなんて。
当のジャマーはドーム状に配置された鏡や銀のボウルとトレーに集束し放たれる、蛍光灯の光線を一気に浴びて苦しんでいた。
すっかり勢いを無くしたジャマーは、触手から順に燃え上がり、やがて胴体へ炎が移る。
蛍光灯の電磁波で焼かれているのか?
火の粉がジャマーの全体から吹き出し、そのシルエットは次第に崩れて行く。
しかし、ジャマーが雄叫びを上げて暴れ狂うと、炎は飛散して鎮火。
電波の化け物は健在。
完全に調子を取り戻した本城さんは、悩ましい顔を作り想像と現実の差異に、困惑の声をこぼした。
「あれ? 今ので消えるはずだったのに、しぶといわね」
本城さんが立ち上がろうすると、残炎を身にまといながらもジャマーは飛びかかって来る――――。




