20 電波少年VSプレデター
サメとタコを合成した電波怪獣の体が赤く発光し始めた。
ジャマー退治の専門家は勝機を見出だす。
「アイソレが起きて赤くなった。ジャマーの身体が崩壊しかけているわ」
ジャマーは怪光線の照射を止め、雄叫びを上げると爆発。
思わず驚きの声を上げてしまった。
「爆発した!?」
「電磁波が拡散しただけで、本当に爆発したわけじゃないわ」
確かに周辺にはキズ一つなく爆風で飛ばされた物はない。
あくまで、電磁波が肉眼で見える人間に爆発として見えた、ということか。
拡散した電磁波は煙のように漂い、ジャマーの姿を隠した。
煙は晴れていき戦闘後の様相が見えると、凶悪なジャマーの姿は見る影もなく消失していた。
「た、倒した……」
僕が安堵から脱力しかけた瞬間。真上の天井からツルのような触手が垂れ下がり、静寂に紛れて落下しながら、僕へ襲いかかって来た。
このジャマーは、さっき起きた電磁波の煙で姿をくらまし、天井に張り付いてそのまま、こっちの頭上まで接近していたのだ。
そんな推測を立てる前にジャマーは落下。
「危ない!?」
とっさに本城さんは僕を突き飛ばして、パラボラ状の傘を真上の向けて、ジャマーを受け止める。
電磁波と摩擦が起きているのか、アルミ箔に乗っかるジャマーはフライパンで焼かれた肉のように、焼き焦げる音と煙を放っていた。
電波生物の動きを傘のシールドで封じているものの、ジャマーの触手は傘の外側を乗り越え、本城さんの首や腕に巻き付く。
被害を受けている本城さんは、過呼吸のように浅いうめき声を出した。
彼女は腕を痙攣させてシールドの傘を手放してしまう。
その隙を逃さなかったジャマーは、怪光線を本城さんの胸に目掛けて発射。
触手から逃れたものの、まともに光線をくらった電波監視官の美女は後ろへのけ反り、倒れてしまった。
「本城さん!?」
彼女は全身を痙攣させたまま立ち上がることなく、見開いた眼をこちらへ向ける。
その隙にジャマーはいつの間にか姿を消し理科室に潜んだ。
姿は見えないけど、肌で感じるジャマーの電磁波。
体毛が引っ張られる感触と日焼けした肌の感覚に似た熱。
――――ヤツはいる。
それこそ肉食の動物が草や岩影に隠れて、小動物を狙っている状況と同じだ。
本城さんが倒れた拍子にコートに隠し持っていた、秘密道具が散乱。
電源の切れたスマホやカバーの形をした解錠キー、伸縮するボールペン。
身を守る為に無意識に使えそうな道具を選定。
僕はボールペンを掴むとペン先を掴んで伸ばす。
延びきるとペン先が花びらのように三つに割れた。
これが輝いて光の剣になればいいけど、延びきった後は、うんともすんとも言わない。
「あれ、あれ? 何か反応してよ!」
ジャマーとの戦闘が落ち着き、飛び交う電磁波で照らされていた理科室が、元の薄暗さを取り戻すと恐怖が増す。
真後ろから静電気の弾ける音が――――。
僕が振り向くと蛍光灯から水滴がしたたる。
これは経験済みだ。
ジャマーが砂嵐の怪物に戻り電灯に隠れている。
バチン、と物音を響かせると水滴は消える。
今度は右側からバチバチと音が聞こえた。
もしかしたら、これはジャマーの足音かもしれない。
振り向くと、また水滴に擬態したジャマーが視界に入り、消えた。
次は左から、また右から、そして後ろから、振り向く度に電磁波の水滴は消え、また現れる。
来る、来る!
僕は祈るようにアンテナを振りかざすも、当のアンテナはしなりながら空を切るだけ。
倒れこむ本城さんは調子を取り戻しつつあるものの、痙攣が治まり震える四肢で立ち上がろうとしながら助言した。
「その、アンテナはただの装置よ。必要なのは……君の感覚」
「か、感覚?」
「全身でジャマーの気配を読み取り……脳内で位置と敵の形をイメージするの……」
「そんなこと言われても」
「考えるな……感じろ!」
あまりにも酷だ。
中学生の身体を持つ男が、狂暴な化け物と戦わないといけないなんて。
どこから襲われるかわからない恐怖で、僕はまぶたを強く閉じてしまう。
暗い暗い、まぶたの裏側に火花がほとばしる。
繰り返し火花が散ったかと思えば、ゆっくり火花が散り、火の粉が静かに広がった。
モールス信号のようなトン・ツー・トンのリズムとも、脈拍とも捉えることができる。
これは――――ジャマーの心臓なのか?
動けなくなった身体の代わりに、自分の意識だけを、その不思議な火花へ向かわせると、閃光に僕の意識が呑み込まれた。
――――見えた――――。




