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G/SieMENS (ジーメンス) 極超短波少年と電波監視官の美女  作者: にのい・しち
インシデント・1 僕と彼女の最初の怪事件
20/70

20 電波少年VSプレデター

 サメとタコを合成した電波怪獣の体が赤く発光し始めた。

 ジャマー退治の専門家は勝機を見出だす。


「アイソレが起きて赤くなった。ジャマーの身体が崩壊しかけているわ」


 ジャマーは怪光線の照射を止め、雄叫びを上げると爆発。

 思わず驚きの声を上げてしまった。


「爆発した!?」


「電磁波が拡散しただけで、本当に爆発したわけじゃないわ」


 確かに周辺にはキズ一つなく爆風で飛ばされた物はない。

 あくまで、電磁波が肉眼で見える人間に爆発として見えた、ということか。


 拡散した電磁波は煙のように漂い、ジャマーの姿を隠した。

 煙は晴れていき戦闘後の様相が見えると、凶悪なジャマーの姿は見る影もなく消失していた。


「た、倒した……」


 僕が安堵から脱力しかけた瞬間。真上の天井からツルのような触手が垂れ下がり、静寂に紛れて落下しながら、僕へ襲いかかって来た。


 このジャマーは、さっき起きた電磁波の煙で姿をくらまし、天井に張り付いてそのまま、こっちの頭上まで接近していたのだ。

 そんな推測を立てる前にジャマーは落下。


「危ない!?」


 とっさに本城さんは僕を突き飛ばして、パラボラ状の傘を真上の向けて、ジャマーを受け止める。

 電磁波と摩擦が起きているのか、アルミ箔に乗っかるジャマーはフライパンで焼かれた肉のように、焼き焦げる音と煙を放っていた。


 電波生物の動きを傘のシールドで封じているものの、ジャマーの触手は傘の外側を乗り越え、本城さんの首や腕に巻き付く。


 被害を受けている本城さんは、過呼吸のように浅いうめき声を出した。

 彼女は腕を痙攣させてシールドの傘を手放してしまう。

 その隙を逃さなかったジャマーは、怪光線を本城さんの胸に目掛けて発射。

 触手から逃れたものの、まともに光線をくらった電波監視官の美女は後ろへのけ反り、倒れてしまった。


「本城さん!?」


 彼女は全身を痙攣させたまま立ち上がることなく、見開いた眼をこちらへ向ける。

 その隙にジャマーはいつの間にか姿を消し理科室に潜んだ。

 姿は見えないけど、肌で感じるジャマーの電磁波。

 体毛が引っ張られる感触と日焼けした肌の感覚に似た熱。

 ――――ヤツはいる。


 それこそ肉食の動物が草や岩影に隠れて、小動物を狙っている状況と同じだ。


 本城さんが倒れた拍子にコートに隠し持っていた、秘密道具が散乱。

 電源の切れたスマホやカバーの形をした解錠キー、伸縮するボールペン。


 身を守る為に無意識に使えそうな道具を選定。

 僕はボールペンを掴むとペン先を掴んで伸ばす。

 延びきるとペン先が花びらのように三つに割れた。

 これが輝いて光の剣になればいいけど、延びきった後は、うんともすんとも言わない。


「あれ、あれ? 何か反応してよ!」


 ジャマーとの戦闘が落ち着き、飛び交う電磁波で照らされていた理科室が、元の薄暗さを取り戻すと恐怖が増す。

 真後ろから静電気の弾ける音が――――。


 僕が振り向くと蛍光灯から水滴がしたたる。

 

 これは経験済みだ。

 ジャマーが砂嵐の怪物に戻り電灯に隠れている。


 バチン、と物音を響かせると水滴は消える。

 今度は右側からバチバチと音が聞こえた。

 もしかしたら、これはジャマーの足音かもしれない。

 振り向くと、また水滴に擬態したジャマーが視界に入り、消えた。

 次は左から、また右から、そして後ろから、振り向く度に電磁波の水滴は消え、また現れる。


 来る、来る!


 僕は祈るようにアンテナを振りかざすも、当のアンテナはしなりながら(くう)を切るだけ。


 倒れこむ本城さんは調子を取り戻しつつあるものの、痙攣が治まり震える四肢で立ち上がろうとしながら助言した。


「その、アンテナはただの装置よ。必要なのは……君の感覚」


「か、感覚?」


「全身でジャマーの気配を読み取り……脳内で位置と敵の形をイメージするの……」


「そんなこと言われても」


「考えるな……感じろ!」


 あまりにも酷だ。

 中学生の身体を持つ男が、狂暴な化け物と戦わないといけないなんて。


 どこから襲われるかわからない恐怖で、僕はまぶたを強く閉じてしまう。

 暗い暗い、まぶたの裏側に火花がほとばしる。

 繰り返し火花が散ったかと思えば、ゆっくり火花が散り、火の粉が静かに広がった。

 モールス信号のようなトン・ツー・トンのリズムとも、脈拍とも捉えることができる。


 これは――――ジャマーの心臓なのか?


 動けなくなった身体の代わりに、自分の意識だけを、その不思議な火花へ向かわせると、閃光に僕の意識が呑み込まれた。


 

 ――――見えた――――。

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