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G/SieMENS (ジーメンス) 極超短波少年と電波監視官の美女  作者: にのい・しち
インシデント・1 僕と彼女の最初の怪事件
19/70

19 ヘキサグラム・リフレクション 六芒星の檻

 本城さんは僕の頭を押さえ、かくまうように実験台の下へ潜った。

 すると、例のアイツ(・・・)が締め切った理科室のドアに現れる。

 ドアの窓ガラスへ頭を突っ込み、すり抜けて侵入。

 八つの触手を各実験台の天板に滑らせて周囲を調べている。


 本城さんと実験台の下へ隠れた僕は、彼女に付いて行き、ジャマーの死角になるよう台の間を移動していた。

 ジャマー退治の専門家、本城さんはさすがに慣れていて、ジャマーが首を振り明後日方向を見た隙に台から台へ素早く移動する。

 ジャマーの動きを観察して、その目を盗み、僕へ手招きして移動をうながす。


 この一連の行動が奇襲に繋がった。

 黒板とは反対の壁まで移動すると、ジャマーの背後を取った。

 本城さんは実験台の影から飛び出し、アルミ箔で作り変えられたビニール傘を広げる。

 

「かかったわね?」


 その動きを察知したジャマーは振り向き、サメの顔が口を開く。

 開口部が発光すると紫色の怪光線を吐いた。


 一直線に放たれるジャマーの怪光線は、アルミ箔に覆われたビニール傘に命中すると飛散。

 その光景はホースの口を塞いで噴射される流水が、傘に跳ね返っている状態に似ていた。


 本城さんは姿勢を低くして、跳ね返った怪光線に当たらないよう注意を払う。

 ジャマーは何度か光線を放ったものの、手応えを感じられないのか小首を傾げている。

 それでも絶え間なく口から怪光線を放ち、シールドとなった傘に当てる。


 僕は傘に身を隠す彼女の背後に張り付き、ジャマーから発せられる攻撃の恐怖に耐えながら、本城さんへ問う。


「な、なんで光線が効かないのぉ!?」


「電磁波はガラスや壁を貫通するけど、金属やアルミは通らないから跳ね返る!」


 本城さんは光線を防ぎつつ手を後ろに回し「私から離れないでよ」と、声をかけてゆっくりと横へ移動していく。


 僕は是が非でも本城さんから離れたくないと思い、ジリジリと足をズラして移動。

 すると、光線を放ちながらジャマーも動きはじめた。


 電波監視官の美女の策略に踊らされているとは知らずに。


 ジャマーの移動した位置を確認すると、本城さんは怪光線が途切れたタイミングを見計らって傘をひっくり返し、傘の端を両手で掴みジャマーへ狙いを定める。

 アルミ箔で包まれた傘はシールドから、パラボラアンテナに切り替わった。


 すると、紫色の光線はパラボラ状の傘に跳ね返り、そのまま撃ち返した。


 跳ね返された光線はジャマーに命中すると、火花を散らし敵を吹き飛ばす。

 思わぬ反撃を喰らったジャマーは床でのたうち回る。


 体制を立て直したジャマーはまたも光線を照射すると、本城さんが構える手製のパラボラアンテナに当たり跳ね返る。


 でも、即席で作成した武器なので、反射した時の命中制度は低い。

 ジャマーから逸れてしまう。

 が、それも本城さんには織り込み済みだった。

 

「Jack pot!(大当たり!)」


 ターゲットは今、苦労して設置した陣形の中心にいた。


 外れた光線は壁に取り付けた手鏡に当たると跳ね返り、はす向かいに取り付けたステンレスのトレーに当たる。

 トレーに当たった光線はさらに反射して、対照的に設置された銀のボウルへ当たると、ジャマー目掛けて矢を射るように真横から飛ぶ。


 幾重に反射した光線に当たり、殴られたように吹き飛ぶジャマーを見た僕は、自分がどんな仕事をしたのか、ようやく理解できた。

 取り付けたステンレスのボウルは小さなパラボラアンテナの役割を持ち、三角形になるよう設置した手鏡やトレーは反射板になっていたのだ。


 奇襲を受けたと錯覚したジャマーは攻撃を受けた側へ、怪光線を放つ。

 怪光線は銀のボウルへ当たると手鏡へ光線を移し、先ほどの奇襲とは逆の順序で反射。

 屈折した怪光線は本城さんが構える傘へ到達すると、跳ね返し敵へ撃ち返す。


 奇襲で背面を見せたジャマーに光線が命中して火花がほとばしる。

 何が起きているのか困惑するジャマーは、手当たり次第に口から怪光線を乱射。


 放たれた怪光線は次々に反射していき、光の三角形をいくつも重ね合わせ、瞬間的な五芒星(ペンタグラム)六芒星(ヘキサグラム)を浮かび上がらせる。

 放たれた光線はすべて、トラップの中心にいる敵へ集束していった。


 跳ね返る光線が標的に当たる度、眼を焦がすほどのストロボが断続的に発生し、ジャマーは悶え苦しむ。


 本城さんはこの反射の檻を計算して、ミリ単位で取り付けの指示をしていたのか。


 僕は怪光線で描かれる六芒星(ヘキサグラム)に恐怖しつつも、その神秘的な閃光のアートに魅了されていた。


「…………すごい」

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