17 脳波ジャック 未来人は厨二病?
この人なら信用して話ていいのかもしれない。
「本城さんに聞いてほしいことがあります」
「な〜にぃ? 本城・愛お姉さんに愛の告白? これだからイイ女はツラいわぁ……」
「僕は十年後の未来から、時間を超えて過去に来たんです」
これまでは、こっちが本城さんへ質問して返ってくる答に毎回、面をくらい目が点になっていたが、逆に今は僕の言葉で彼女の目が点になっている。
「未来の僕は、その、引き……こもっていて、多分、ジャマーに襲われた時に外へ出て、いろいろ事故に合って死んじゃって、気がつくと今の自分に転生してたと言うか……」
「ウソ……よね? もしかして……」
いきなり『僕は未来人だ』なんて、信じられないよね。
でも、この人はジャマーから助けて護衛までしてくれた。
きっと信じてくれる。
だから、全てを正直に話した。
彼女は目を細め疑う視線で問う。
「こじらせてる? 厨二病」
「そう、厨二――――はい!?」
「ごめんね。通報とかで、よくいるのよ。自分が誰かにいつも見られているとか、電波攻撃を受けてるとか、それ、精神病か厨二病だから」
信じた僕がバカたった!
膨れっ面を作り「もう、いいです」と返して作業を再開した。
僕のつっけんどんな態度が気にかかったのか、彼女は会話を広げた
「そうねー、仮に君が未来から時空を超えて来たとして、ありえるとしたら未来の君が、何かのきっかけで強い思念波を発したことね」
「しねんは?」
「脳波のような物で一種の電波に近いのよ。人の脳は神経に電気を流して思考し生きている。電気はそれ自体が電磁波を放出しているから、脳波は生態電磁波とも考えられるわ。人間の身体は時間を超えられないけど、光や電波のような粒子とも波長とも言える存在は、時間の壁を破る可能性があるの」
「ほ、本当に?」
「実証は難しいけど、もし未来の君が過去の自分へ魂と一緒に脳波を送信して、その脳波を今の君が受信したなら、タイムスリップができたと言ってもいいかもね」
「あの、僕をWi-Fiみたいな言い方するの、やめてもらえますか?」
「それか……」
本城さんが口を閉ざす素振りを見せたので、閉ざす前に追及する。
「言いかけた次は何ですか? 気になるじゃないですか? 教えて下さい」
「言いにくいんだけど、仮に未来の君が絶命間際に発した情報が、モールス信号のように今の君の脳に送信されて、その影響で君は自分を、大人の自分だと勘違いしたのかも」
「つまり記憶だけ送信して、魂を送った訳じゃない、てことですか?」
「まぁ、これも厨二病みたいなものね。アニメやゲームに影響を受けて、自分をフィクションの主人公と重ねわせてる。それと似てる」
「似てるって、厨二病扱いかよ……じゃ、じゃあ、未来の僕は事故で、そのまま死んだってことに……」
僕はすでに未来で死んでる。
未来からタイムスリップした訳じゃなく、記憶だけ送りつけられて自分を大人だと勘違いしていた。
最悪だ。最悪の結末じゃないか。
「あるいわ、君は何者でもない何か、ね」
「は?」
「もし未来から送信された脳波が赤の他人のモノで、電波体質の君がその脳波を受け取り、見ず知らずの人物を自分だと勘違いしてるのかも」
「ぼ、僕が別人!?」
「別人だと思いこんでるなら、まだマシかも。赤の他人に君の脳を電波ジャックされて、自我を乗っ取られているかもしれないわ」
「今度は電波ジャック?」
「だとしたら怖いよね~? 自分は自分だと思いっていたら、全く見知らぬ人間に脳を支配されてて、手も足も人生すらも操られているなんて」
そんな、そんなの嫌だ。
僕のアイデンティティーはどこにあるんだ?
その後、付け足した本城さんの話は、僕に届くことは無かった。
「なーんちゃって! そんな簡単に時間を超えることは出来ないわよ? それこそ人間はWi-Fiじゃないんだから、人の脳を支配するなんて……君、話聞いてる?」
「今の僕は僕じゃなくて未来から来た僕じゃない人の脳波が僕を乗っ取って、それを僕だと思い込んで、だから未来の僕だと信じ込んで、僕が僕である為に……」
「おーい、話聞いてますかー? ねぇ、私の電波届いてる?」
本城さんは僕の脳天をぶっ叩いて正気に戻した。




