16 アイソレ、なにソレ? 愛だソレ!
あぁー、もう!
話しがややこし過ぎて解らない。
少し頭を整理しないと。
この人は総務省の極秘機関ジーメンスから派遣された本城・愛。
僕の身の回りに付きまとっていた幽霊ではなく、実はストーカーだった。
この電波監視官と名乗る女性が言うには、僕は電波が見えるらしい。
ジャマーは電波怪獣で人の脳波をエサにしている。
僕は電波が見える体質なので、ジャマーからすれば、僕の脳波は格別美味しいらしい。
だから僕を襲いにくる。
本城さんはジャマー退治の専門家で僕を守る人。
外から飛んできた光線はウルちゃらへぺろ――――アンテナビーム砲で通称ゲイン砲。
ジャマーを倒す為の殺獸光線。
ジャマーに憑り付かれると僕は死ぬ…………で、大丈夫かな?
大丈夫じゃないけど。
後、本城さんの平たいポニーテールはエクステで、引っこ抜くと彼女に電磁波で焼き殺される。
これ、重要!
四階は三年生が各教室で授業を受けているので、僕と本城さんは二人して窓ガラスの下の死角となる壁やドアを移動して進む。
女性エージェントの指示で僕が案内を先導すると、目的の場所へ到着。
ここまでの隠密行動を振り返り、本城さんは楽しそうに言う。
「学園オカルト物の定番よね~。幽霊とか妖怪が学校に出ると、なぜか生徒や先生が急にいなくなったり、外で騒ぎが起きても誰も気にしなかったり」
妙な視点で物事を見る人だな。
本城さんが案内を求めた四階の理科室を、ドアの窓からそろりと覗き込み、室内に誰も居ない事を確認。
彼女はドアに手をかけるが鍵がかかっていて、開けることが出来なかった。
すると、電波監視官の美女はポケットから、また秘密道具を取り出す。
手の中に収まる大きさの黒いカバーで、金属性なのか電灯の光でチカチカと光沢を放っていた。
無言でドアの鍵穴にカバーを被せるとスイッチをオン。
カバーから「カチャカチャ」と物音が聞こえる。
カバーの中に小さい作業用ロボットが、あくせく働くイメージが沸いた。
「本城さん。なんですかソレ?」
「解除キー。電源を入れるとカバーの中にある小さい針が、鍵穴に入って解錠してくれるのよ」
ハイテク過ぎる。
と言うか、こんな装置で鍵を開けて、まるで空き巣じゃないか。
人の個人情報を盗み見たり、さっきから、この人はなんのプロなんだ?
「カチャリ」と最後に聞こえてからカバーの物音は沈黙。
解錠に成功したらしく本城さん解除キーをしまうと、ドアに手をかけて開き室内へ入った。
理科室は消灯していて薄暗い。
僕はドアの横に有る電灯のスイッチを押そうとしたのだが「点けるな!」と、突然の怒号に全身を強張らせた。
本城さんが言うには。
「電灯の明かりは電磁波を発しているのよ。ジャマーが感知して見つけに来るわ」
だ、そうだ。
僕は黙って頷きスイッチに伸ばした手を引っ込める。
雨雲で陽が入らない理科室は薄暗く、人体模型やホルマリン漬けのカエルで、ホラーハウスの雰囲気を醸し出していた。
本城さんは明かりのない室内を見回し鼻歌を歌う。
「理科室、理科、りか、リカちゃ~ん! 私、理科室って好きだわ~。引火物とか劇薬とか危ない物あるから、ワクワクしちゃう」
サイコパスみたいな発言が出てきた。
守ってくれるとは言ってたけど、ちょっと距離を取りたい。
これからどうするのか、先のビジョンが知りたい。
僕は準備に取りかかる本城さんへ聞いた。
「どうやって電波怪獣なんて倒すんですか? 幽霊みたいなヤツなのに」
「説明すると……ジャマーが持つ周波に逆位相の周波を一定の期間与え続けて、"重ね合わせの原理"で局所的な電磁場の分離現象、"アイソレーション"を起こし、電子を飛散させて形態の崩壊を起こさせるのよ。その場合、ジャマーの周波数が乱れるから毎秒、同じ周波数を――――」
なるほど、わかっ……るわけない!?
僕の目が点になり思考がフリーズしていることを察して、本城さんは解説を短く切った。
「あー、つまりぃ、一定のダメージを与えると、倒せるようになるってことね。OK?」
「オ、オーケー」
「長ったらしいご高説になるから、私達のような監視官は縮めて【アイソレ】って読んでる。まぁ、工学の分野で使う言葉なんだけどね」
なにソレ?
そんな返しを喉元でグっとこらえてから、納得したように返事した。




