表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
G/SieMENS (ジーメンス) 極超短波少年と電波監視官の美女  作者: にのい・しち
インシデント・1 僕と彼女の最初の怪事件
15/70

15 極超短波少年の憂鬱

 四階から階段を降りて一階へ来ると、階段下の影に溶け込むように隠れた。

 一階の廊下は教師達が慌てて駆けつけ、割れた窓ガラスと蛍光灯を見て絶句している。

 割れた窓からは豪雨で校内へ侵入してくる雨水に、教師達は右往左往しながら対処していた。


 遠目で様子をうかがう本城さんは「これで、厄介な教師の目を惹き付けられたわね」と、さも計画通りにことが運んだように言う。

 極秘機関のエージェントと言うわりに、彼女の行動は大胆すぎる。

 何故、今までその存在がバレなかったんだ?

 

 本城さんはこちらへ視線を向け、人差し指で自分の口を塞ぎ、開いたら手を見せると、身振り手振りで「静かに、ここを動くな」と指示した。

 僕が小さく頷くと彼女は姿勢を低くしたまま、潜航する潜水艦のように下駄箱まで移動し、姿が見えなくなった。

 白いコートに身を包む謎の美女がいなくなると、とたんに不安な気持ちにさいなまれる。


 ソワソワと周囲を気にしだした頃に、彼女は一本のビニール傘を持ちながら階段下へ戻って来て、またも身振り手振りで指示。


 指一本を上へ向け階段を上る。

 多分「上へ行くよ」という合図なので、僕が黙って彼女の後をついて行くと、本城さんは合間に解説を挟む。


「幸い授業中で廊下を歩く生徒はいないわね。ジーメンスは隠密行動が基本だから、一般人に見られる訳にはいかないのよ」


「いや、思いっきりガラス割って校内へ侵入して、残骸が教師に注目されてましたけど?」


「君、あまり細かいこと気にしてると、大人になった時、女子に持てないわよ~」


「よ、余計なお世話です!」


 思わずムキになりそっぽ向いた。

 十年後、二十四歳の万城目・縁司は家から一本も出ず、見てくれも白髪混じりで頭髪も伸ばし放題。

 服は汚れてても気にしない、引きこもり廃人となっている。

 そりゃ、女子は未来の僕に近寄りたくないはずだ。

 本城さんの返しは痛烈な皮肉となり、胸の内をえぐる。

 この話は切り上げたいので、僕はもっと目前に迫った将来について聞きたい。


「本城さん。わざわざ一階まで下りてきて、

傘一本を取りに来たんですか?」


「そーよ。わざわざ傘一本を取りに来たのよ」


「先生とジャマーに見つかるかもしれないのに?」


「そのジャマーを倒す為の秘密兵器よ」


 また秘密兵器か?

 今度はビニール傘がマシンガンになったり、高出力ビームが出たりするのか?


 質問はまだある。

 そもそも何で僕のことを知っているんだ?

 名前も家も通っている学校まで。


「僕の家の前にいたのって、もしかして本城さんですか?」


「えぇ!?」


 彼女は慌てた表情で顔を背けて視線を泳がせた。


「その反応。やっぱり本城さんですよね? そうですよね!?」


 こちらが追及すると電波監視官は白状した。


「ご、ごめんなさい!」


「は? え?」


「任務で君の自宅を張り込みしてたのよ。ジャマーが狙って君の所へ行くかもしれないから……ただ」


「ただ?」


「私、あまり張り込みが得意じゃなくてー……」

 

「なんとなく、わかります」


「不審者に見えたかな?」


 そうか、勝手に幽霊だと思い込んでいたんだ。

 僕は率直に答えた。


「見えました」


「はぁあ~~そうだよねぇ……」


 本城さんは肩を落として深いタメ息をついた。

 心なしかエクステのポニーテールが、しんなりしていた。


「これでもジーメンスで張り込みの研修を受けたんだけどな~」


 極秘機関と聞いた時は謎多き秘密の組織で、闇夜に紛れ都市伝説として蔓延(はびこ)り、見た者は口を閉ざし姿を消される。

 そんなイメージを持っていた。

 研修と聞いてジーメンスとやらが急に、お役所仕事に思えてきた。


 張り込みと言うよりアレではストーキングだ。

 幽霊だと思っていたものはストーカーだった。

 点と点が結びつき謎めいていたことがつまびらかになるが、次から次にことの運びが気になり始める。

 となると、気になるのは――――。


「なんで本城さんは僕の名前も家も知ってたんですか?」


「君は、なんで、なんでが多いわね?」


「そりゃ、そうでしょ? いきなりジャマーだのジーメンスだの出て来たんだし」


 彼女は振り向き真顔で一言。


「Don't think, feel……考えるな感じろ」


「ふざけないで下さい」


「はいはい。そんなの決まってるでしょ?」


 彼女は片手を胸に当てると、さも当然と答えた。


「私を派遣した組織の元締めは、人口の統計データを絶えず集計している総務省よ? 個人情報なんて、すぐ割り出せるわ」


 プライバシーの侵害だ!?


 映画の名言のごとく後の説明は野放しにして、本城さんは歩みを進めるので、質問を諦めて後を付いて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
∀・)硬派なSF作品を始められたなぁと思って読み始めましたが読みやすく親しみやすい……ノリなんですよね(笑)にのい・さんらしさがなくなってないというかね(笑)笑えるトコではちゃんと笑わせてくれる(笑)…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ