14 ジャマー退治の専門家
僕は呼び名の確認も込めて質問を続ける。
「本城……さん? そのジャ……」
この呼び方は、まだ言い慣れない。
「じゃぁまぁーが変な光線を出したら、蛍光灯が割れました。いくらなんでんも、電波でそんなことできるはずが……」
本城さんは発音よく返す。
「ジャマー! あの怪光線はジャマーが発する強力なマイクロ波なのよ。食べ物を暖める時に電子レンジから出る電磁波ね。蛍光灯の中をマイクロ波が通って発光させるのよ。君、電子レンジに電球を入れて光らせる実験とか、やったことあるでしょ?」
「あるでしょって、ありませんよ?」
「無いの? 今の世代はそういうのやらないのね」
「今の世代って……」
正確に言うなら僕は十年後の未来から、過去の自分へ転生した未来人なので、いろいろ世代は違う。
本城さんは「とにかく」と付け加えて話を進める。
「マイクロ波が蛍光灯を光らせるけど、同時に熱を持つので、ガラス管が熱に耐えられずに破裂したのよ」
「蛍光灯が割れるだけの熱なんて、危険すぎる……」
「だ・か・ら、さっきからジャマーは危険だって言ってるじゃない?」
「まぁ、はい……そうですね」
え? 僕、怒られた?
本城さんは人差し指をこめかみに当てて、考えを口にする。
「このまま屋上に出てジャマーとやり合うのもいいけど、雨が酷いし……」
屋上へ出る扉は風に乗って雨が叩きつけている。
弱い雨足は、いつのまにか豪雨に変わっていた。
それ以前に、この電波監視官と名乗る人物は、無謀な考えをを口走っているから、つい指摘したくなった。
「やり合うって、スマホが故障してるから防衛兵器は使えないですよね?」
「困っちゃうわよねー」
「それだけ? 能天気にもほどがある……」
「ん~、こういう時、極秘機関のマニュアルには本部へ移送して保護してもらうんだけど……校庭へ出る前にジャマーに襲われたんじゃ、元も子もないわ。とどのつまり、ヤツを倒すしかないのよ」
「……どうやって?」
「それは、また後で説明するから」
ここまで話して出し惜しみかよ。
そんな文句を呑み込んだ。
電波監視官の本城さんは愛嬌を見せながら指示した。
「じゃぁ、万城目君はここで隠れててね。私は、ちょーとジャマーを退治してくるから」
なんでそんな重要なことが「ちょーと」になるんだ。
ジャマーもそうだけど、屋上の踊り場は不良達が根城にするから、基本的に生徒は立ち入り禁止なんだ。
教師に見つかったら別の緊急事態が起きる。
僕は慌てて本城さんを止めた。
「ま、待ってよ、置いてかないで! またアイツが来るかもしれないでしょ? もう襲われるのはヤダ!」
「一緒に歩き回るより隠れている方が安全よ」
そう言うと彼女は立ち去ろうとするので、僕は手を伸ばし捕まえようとした。
「待って!」
だが闇雲に掴んだので、彼女の平たいポニーテールを引っ張ってしまう。
が、不思議な事に引っ張っている感覚がしない上、何の抵抗も無く掴んだ髪ごと後ろへ転げてしまった。
「痛たた――――……うわぁ!」
起き上がり自分の手を見ると、茶髪の毛が手にゴッソリとまとわり付いていた。
思わず、まとわり付いた髪の毛を放り投げると、階段に落ちた髪を目の前の本城さんが拾いホコリを払う。
彼女はショートヘアーで短い髪を後ろで結んでいた。
平たいポニーテールはさしずめ付け毛。
エクステンションだった。
彼女は手に取ったエクステを後頭部へ装着すると、こちらを鬼の形相で睨む。
今は電波怪獣より、こっちの方が怖い。
「いい? 覚えておきなさい。髪は女にとって命なの。だから、今度引っ張ったら電磁波で焼き殺すわ」
さっき僕を守るのが任務だって言ったのに……。
必至で首を縦に振り頷くと、本城さんは笑顔を取り戻した。
「エクステは女の子の秘密道具。だから、この事は内緒よ」
そう言うと彼女はウィンクで同意させ、代わりに僕の懇願を受け入れた。
「しょうがないわね。一緒に行く代わりに私から離れちゃダメよ?」




