13 僕と彼女の最初の怪事件
僕が黙ったのをいいことに、その防衛兵器とやらの性能を解説し始めた。
「窓から飛んできたビームは、正式名称“ウルティマヘテロダイン増幅ゲイン砲”。ゲインはアンテナの一種なんだけどけど、街に備え付けられたパラボラアンテナや、地デジ用のUHFアンテナ、通信事業者の電波塔からジャマーが嫌う高周波を発していて、電磁波だから普通の人には見えないわ」
「街のアンテナから攻撃?」
「縮めてゲイン砲なんて呼んでるわ。ジーメンスが所有する秘密のアプリで操作するのよ」
それにしても……良く語る人だ。
しかも喋る度に一々、決めポーズをしたがる。
「ゲイン砲はスーパーヘテロダイン方式の応用で、直進する電波に電磁波をかき消すウェーブをスパイラルさせ、振動数が短い短波のストロークを伸ばすことができるわ。"重ね会わせの原理"も兼ねているから、ジャマーに対し、一定のダメージが――――」
本城さんの話は延々続きそうなので、この辺で一旦止めよう。
「あわわ、解りました! 先端技術のオンパレードって感じで凄いです!」
彼女は説明に勢いが付いたにも関わらず、唐突に静止され口をパクパクと空振りさせた。
そろそろ僕のターンでいいよね?
「さっきスマホを使ってたのは、その防衛兵器を使うから?」
「アプリで街中に設置されたアンテナにアクセスできるのよ。私達の組織は、その為の特別な権限を与えられているから」
彼女はポケットから電源の入らないスマホを取り出し、おもむろ呟く。
「まぁ、ジャマーの攻撃でスマホはしばらく使えないけどね」
思いの外、危険な状況に追い込まれているらしい。
この人が言う極秘機関については、なんとなく解ったような解らないような気がするから、例の化け物について聞きたい。
ようやく答えを教えてくれる人物に出会えたのだから。
「砂嵐というより、そのジャーマァー? とか言うのに飲み込まれた時、全身が焼けるように熱くなって、息ができなかったです。あの怪物が電波なのに、そんな死にかけることなんて、あるんですか?」
「それは電磁波過敏病によるアレルギー反応なの。あのまま憑りつかれていたら危なかったわね」
「電波にアレルギーとかあるんですか?」
「あるわよ」
「あるんだ……もし取り憑かれたら、どうなるんですか?」
彼女は腕を組み険しい表情で答えた。
「ん~そうね~……まず目眩、肩こり、頭痛腹痛、発熱、吐き気、不眠症、呼吸困難、総うつ病……後、心臓麻痺かな、最悪死に至るわね。君みたいな電波体質の人間は命に関わるわ」
聞いているだけで目眩がしてきた。
まだまだ聞きたいことがある。
聞けるだけ聞いておきたい。
「何で電波が僕にだけ見えるんですか?」
「君だけじゃないわ、私も電波が見えるの」
「え!? 本当に?」
「でなきゃ、電波怪獣ジャマーとなんて戦えないでしょ?」
「そ、それもそうか……」
「例えて言うなら昆虫や爬虫類は紫外線が見えるの。渡り鳥やイルカは地球の地軸を読み取り移動する方角を決めてるし、海洋生物のサメは電磁波を知覚して獲物を捉えたりするわ」
毎回、唐突に知恵袋から解説が始まるのは、この人のクセかな?
おとなしく聞いておくけど。
「それと同じで、人間にも紫外線が見える人が稀にいるわ。その延長線上に電波が見える人間もいて、それが私や君みたいな人なのよ。恐らく昔の人はそういう人物を、イタコとか巫女とか言って崇めたのかもね」
常識と照らし合わせて考えると、全く理解できない話をしている。
普通なら頭がおかしい人間の戯言だけど、今置かれている僕の状況は、どう考えても異常。
渋々、その話を呑み込むしかない。
今さらだが、視力の悪い僕はメガネを無くし視界はボヤけて周囲が見辛い。
今も校内は霞がかった世界だが、この本城さんという女性だけは、その外郭、顔、目鼻立ちと細かな部分までくっきり見える。
彼女の言う通り電波が見えるなら、この女性からもジャマーと同じような、電波を発しているということなのか?




