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G/SieMENS (ジーメンス) 極超短波少年と電波監視官の美女  作者: にのい・しち
インシデント・1 僕と彼女の最初の怪事件
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1 砂嵐は襲い来る

 灰色の雲が星空を覆い、異常気象からなる豪雨を降らせる。

 雷は野生の猛獣が喉を鳴らしているように、恐ろしく吠えている。

 この不気味な世界以上に、僕が居る部屋は闇に覆われ光を閉ざす。

 一人部屋は電気を消しカーテンを締め切り稲光すら遮っている。

 スマートホンから放たれる映像の光が、室内を淡く照らしているのだ。


 この暗い部屋に閉じこもり十年が経過した。

 長年置いてある学習机の側で、僕は二十四歳を迎えた。


 偶然、目についたニュース記事の解説では、現在、日本の引きこもりの数は増加し続け、その総数は二一七万人にまで達した。

 総務省統計局が調査したデータまで添えている。

 引きこもりの話題は耳に入れたくないので、イラ立ちフリック操作で記事を消す。


 部屋に閉じこもる自分は、その何百万人の一人に過ぎない。

 他人はその数字を見てどう思うか?

 情けない連中ばかりだとか、日本の将来はどうなるとか、大雑把にしか受け止めないだろう。

 でも、その百万を越える人生が閉ざされているのだ。

 人生が狂い暗黒の未来だけしか想像できない。


 僕達の世代はそうだった。

 震災、感染、経済不況。

 子供の頃は話だけで関係ないと思っていても、社会に出るとそれが現実として襲い来る。

 見えない怪物。

 

 常に見えない何かに怯えていた世代だ。

 今みたいに降り続ける豪雨のように、いつ晴れるか解らない暗澹たる時代で生まれた。

 同じように閉じこもる人々は、どう暮らしているのだろうか?

 テレビゲームやオンラインゲームに居場所を求め、仮想世界で成功者として成り上がろうと、躍起になっているかもしれない。

 はたまたアニメや映画を(たしな)み、SNSへ独自の解釈と哲学を講釈しているかもしれない。


 でも僕はネットやバーチャル世界でも人と関わりたくないから、全く関係ない昔のゲームやアニメ、漫画や小説を読んで取り返しのつかない、詰んだ人生を誤魔化していた。


 もう西暦何年かどうでもよくなってきたな。

 世界は変わって行くのに、僕の中にある世界は変わらないまま。

 外の世界は恐ろしい場所だ。


 何故なら、”アレ”が来るからだ。

 他の籠もりっきりの人々とは違う、見えない恐怖に僕は怯え、外に出られない。


 全てあの日だ。

 十年前、まだ中学生だった自分がアレと出会ってしまい、人生が狂った。

 

 雷が鳴るとあのおぞましい日が蘇るので布団にくるまり、雷鳴が止むまで耐えようとした。

 

 神頼みのようにスマートホンを両手で握りしめ、外界をシャットアウトしようと集中する。

 

 スマホの画面に砂嵐が流れた。

 それを見て僕は過呼吸で息が止まりそうだ。


 ありえない。

 スマホはデジタル信号を受信する機械だ。

 仕組みも信号も違うから、例え終了したアナログの電波が空気中を漂っていても、受信するはずがない。

 なのに、画面は一面灰色の砂嵐。


 ”アレ”だ。

 アレが来る。


 豪雨よりも激しい雑音を流す砂嵐が、歪み渦を巻くと砂嵐の線と線の隙間から、赤い目玉が見開いた。


 赤い目に睨まれ身体が痙攣したように震える。


 「ひぃっ!?」短い悲鳴を上げてしまい、恐怖で心拍が激しく叩く太鼓のように早まる。

 と、同時にスマートホンをぶん投げて床に投げ落とす。


 画面を埋め尽くす砂嵐は、立体的に歪み始め、液晶パネルが膨らんだように見えた。

 それは錯覚でも幻覚でもない。

 砂嵐が画面から這い出て来たのだ。

 スライムがこぼれたように画面から垂れて床に着くと、蛇のように膨らんだ部分を天井まで持ち上げて、立ち上がる。

 大きな砂嵐の陰が僕を見下ろした。


 僕は後退るも背中が壁にぶつかり逃げ場がない。

 

 砂嵐は僕を包み込んだ。

 全身が焼かれるように熱い。

 筋肉、骨、内蔵が火にあぶられ火傷のように身体の内側が熱を持つ。


 窓口の鍵を荒々しく開け、スライドの窓を開けると、そのまま外へ飛び出した。


 僕の部屋は二階。

 そんなことすら忘れて出たものだから、真っ逆さまにコンクリートの地面へ落ちた。

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