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第一章 機械人形と砂漠の歌姫

 巻き上げられた砂の覆いが、風によって取り払われます。向こう側に陣取ったフィオ国の兵士たちが、よく見えるようになりました。兵士たちはみな、イズンと呼ばれる機械人形です。対して、ロメン国のイズン兵たちは、うしろに並んだ格納庫にしまわれたままです。


「行進、始め!」


 フィオ国の将軍の勇ましい声が、拡声器によって砂漠にひびきました。その声に反応して、イズンたちがぞろぞろと前進してきます。


「アリア、準備はいいか?」


 ロメン国の将軍、セブが、そばにひかえていた女性にたずねました。セブ将軍や、他の将校たちはみな、赤銅色の肌に灰色の髪と目をしています。しかし、生粋のロメン民族である彼らとは違い、女性はショートカットの青い髪に、切れ長の目は澄んだ青色でした。


「もちろんです、セブ将軍。それでは『歌姫』を起動します」


 アリアと呼ばれた青い髪の女性は、となりに立っていた少女の、うなじのあたりをなでつけました。アリアの娘でしょうか? 神秘的な紫色の長い髪に、砂漠に似つかわしくない、陶器のような白い肌をしています。かわいらしく整った顔は、アリアと同じ美しさに、あどけなさも感じさせます。しかし、そのひとみに輝きはありませんでした。アリアがうなじのあたりをなでるまでは。


「さぁ、目を覚まして」


 アリアの言葉と共に、少女はゆっくりと顔をあげました。ひとみの奥に、火のような明かりがともります。髪と同じ紫色の、まるで宝石のように美しい目です。アリアはその目をのぞきこみ、少女の耳元でつぶやきました。


「歌いなさい、レクイエムを」


 アリアの言葉を聞いて、少女は一歩前に踏み出しました。セブ将軍が、ちらりとうしろの格納庫を確認します。どれも固く扉が閉まっています。音を通さないように作られているのです。アリアは少女の前に、手に持っていた拡声器をあてがいました。それを合図に、少女は歌いだしたのです。その歌は、はるか昔に歌われていたレクイエムでした。拡声器によって、歌がフィオ国のイズンたちに届くと……そこで異変が起きたのです。


「始まったようだな」


 セブ将軍がにやりと笑いました。それまで見事な行進を見せていたイズンたちが、急に立ち止まったのです。やや間をおいて、フィオ国の将軍がとまどった声をひびかせます。


「なにをしている? 行進しろ! ロメン国のイズンどもを倒すのだ!」


 フィオ国のイズンたちがざわめきだします。心を持たない機械人形の彼らが、おしゃべりなどするはずはありません。しかし、ざわめきは収まりませんでした。双眼鏡で相手陣営を見て、アリアはぐっとこぶしをにぎります。


「うまくいっています! 歌姫の、ティーナの歌が、彼らに心を与えたのです!」


 セブ将軍もうなずき、自らも拡声器を口にあてがいました。


「銃を捨てろ! せっかく与えられた心を、失いたくないのならな」


 セブ将軍の威厳に満ちた声がひびきました。すると信じられないことに、機械であるはずのイズンたちが、持っていた銃を置いて、その場にひざまずいてふるえだしたのです。セブ将軍は再びアリアに目を向けました。


「よくやった。歌姫とともに下がってよいぞ」


 アリアは静かにおじぎをすると、ティーナと呼んだ少女のうなじに、再び指をふれました。ティーナのひとみから光が消えます。動かなくなったティーナを抱きかかえて、アリアは格納庫へと向かいました。入れ違いに格納庫からは、不格好ながらも人型の、銅でできたイズンたちが次々と出てきます。


「よし、進軍しろ。フィオ国のイズンをすべて破壊するのだ!」


 セブ将軍の冷たい声を聞き、アリアの顔から血の気が引きました。目を背けずに、アリアはイズンたちのゆくえを見守るのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] それまで宿っていなかった心を吹き込まれ、その直後に破壊される。 これは機械人形にとって、普通の戦闘で破壊されるよりも恐ろしい仕打ちになりそうですね。
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