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帰りと燎斗

 ちまたでたまに耳にする話…

 

 結婚願望はあるが、結婚をしていない…

 いやできてない、30歳を超えてしまった人たち…

 そういう人たちは決まってどこか、個性的で変わっている。

 そういう話はたまに耳にする。


 で、こういう情報をたまに耳にしたときには…

 へーそうなんだ、ふーん…

 それくらい熱の全く籠ってない、温度と感覚…

 自分にとってはどうでもいい、ただの知識として聞き流すことが多いと思う。

 

 もしかしたら違うかもしれない。

 でも、少なくとも今日までの俺はそうだった。

 そうだったんだ。

 

 だってこういう知識を実感するには…

 身の回りに、結婚していない30歳以上の人がいる必要がある。

 だけど俺はまだ高校生…

 なので当然、身の回りの人は同年代の人ばかりで…

 だから今の今まで、俺にはそれを実感する機会がなかった。

 

 でも違った。

 実際は機会がないのでなく…

 ただただ俺の視野が狭く、そして周囲を見てなかっただけだった。

 いやもしかしたら、運が良かっただけだったのかもしれない。

 ただただ幸運なことに…

 

 でもちゃんと、彼彼女らはいたんだ。

 きっと今までも、俺のそばに…

 ただ、俺が気づいていないだけで…


 俺は今日、それを理解した。

 理解してしまった。

 おかしなことに、何故か学校の英語の時間で…



 

 前置きが長くなってしまった。

 今俺と燎斗の二人は、そんな英語の授業ともう一つ授業を終え…

 帰宅部の俺たちは、学校から家への帰路についている。

 そしてそこで…


 「幸成、今日はお疲れだったな…」


 変わり者の早乙女先生に振り回され…

 そして未だにその疲れが残っていて…

 はぁ…

 そんなため息を吐いた俺を、燎斗が労わってくれた。

 

 「ほんとな…、あの人やばくないか…?」

 

 俺の言葉に、はは…

 燎斗はそう小さく笑ってから…


 「やばかったな。さすが、あの年で結婚できてないことはある。」

 「たしかに…」


 俺は燎斗の言葉に納得しつつも、隣にいるやつに…

 ひでぇな…

 そう思ってしまった。

 

 だって、もしさっきの燎斗の言葉を早乙女先生が聞いてしまったら…

 たぶんだけど早乙女先生、悲し過ぎて泣くぞ…?

 

 いやでもそれよりも、そんな言葉を吐き捨てた燎斗に…

 先生は傷ついたんで矢代君、責任を取って先生と…

 

 とち狂って、そういうことを言いだすかもしれない。

 というか、こっちの未来の方が想像できてしまう俺がいた。

 そしてそういう未来が来たら面白そうだな、とも思ってしまう。

 というかぜひ来てほしい…

 だって、見てる分には面白そうだからね。

 見てる分には…


 そしてそんなことを、燎斗を見ながら考えていたからだろうか…

 俺は燎斗に聞きたいことができてしまった。


 「で、燎斗は早乙女先生と結婚するのか?」

 「はっ!?」


 俺の問に、燎斗は大きく目を見開かせた。


 「だって、早乙女先生が燎斗にすごくご執心だったからさ、燎斗はどうするのかなーって思って…」

 「すると思うか…?」


 燎斗の声は、いつもより少し低く聞こえた。

 迫力があると言い換えられるかもしれない。

 でも…


 「えっ!?し、しないのか!?」


 そんな言葉を、口から吐いた俺を…

 じとーっと、燎斗が責めるように見つめてくる。

 でも、そんなのを気にする俺ではなかったみたいで…


 「いいな…、ほんとモテるやつは…、羨ましいわ。」

 「幸成、お前…」

 

 そう言った燎斗の目は、やっぱり責めるような…

 いや、何か言いたげな目だ。

 そしてそのまま俺を睨みながら…

 

 「お前がそういう態度なら、いいよ。俺だってしてやるよ…」

 「何をだ…?」


 その言葉に、燎斗はニターっと笑ってから…


 「夢葵ちゃんに言いつけてやる…」

 「何を…」

 「君のお兄ちゃんが、君以外の女の子にご執心だってことをな…」

 「はぁ…」


 燎斗の言いたいことが、俺にはよくわからなかった。


 「えっと…、で?」

 「いやいや、それ聞いたら夢葵ちゃん、絶対怒るからな…」


 ん?

 

 「えっ、いや、夢葵は良い子だから、そんなことで怒らんと思うけど…」

 「お前、まじか…」


 燎斗は目を見開かせて、頬が半端に吊り上がっている。

 まるでその顔は、目の前に信じれないものがあるみたいな顔で…


 「えっと…?」

 「いーわ。幸成は見ててくれ。」

 「はぁ…」


 そう言う燎斗に、俺はとりあえず了承を示した。

 


 

 そしてタイミング良く、もう夢葵の通う中学校の前…

 その校門が見えてきた。


 そこからは、大勢の人がまばらに出てくる。

 一人で帰る人、数人固まってグループで帰る人、男女二人で帰る人…

 その様子は、様々で…


 なのに人が流れ出てくる校門の前、そこに一人だけ動く様子がない人影があった。

 

 未だに、校門から止まることなく出てくる人の波…

 その波と、その波に逆らうように動かない人影…

 その対比で、俺たちには動かない人影がより目立って見えた。

 

 「夢葵ちゃん、いたな…」

 「あぁ…」

 

 そして俺たちから見えるということは、当然向こうからも俺たちのことが見える。

 つまり…


 さっきまで、全く動く様子がなかった夢葵…

 そんな夢葵は…

 こっちを振り向いたと思ったらすぐ、俺たちの方に向かって動き出した。


 トテトテと可愛らしく走ってくる。

 その様子は、可愛らしくて愛らしい…


 そんな夢葵は段々と近づいてきて…

 そしてそのままの勢いで、俺の胸に飛び込んできた。


 バッ…

 お腹やら胸やらに、弱くはない衝撃が走る。

 ちゃんと痛い…

 なのに、すぐに気にならなくなった。


 「お兄ちゃん、遅いよー。」


 そう言ってくる夢葵の表情は、少しふくれっ面だった。

 

 「ごめんごめん…」

 「いーよ。でも、次からはもっと早く迎えに来てね。」

 「頑張るよ。」

 「うん。えへへへ…」


 夢葵は満面の笑み…

 いつもの、俺たち兄弟の時間が過ぎていく…

 そこへ、燎斗が入ってきた。


 「よっ、夢葵ちゃん…」


 手を軽く揚げながらの、燎斗の挨拶の言葉…

 その言葉に夢葵は、一瞬だっけ燎斗の方に視線を送った。

 だけどすぐ、向き直って…


 「ねぇお兄ちゃん、帰りどこか寄るー?」


 そう言ってきた。

 つまりは、燎斗をガン無視だ。


 だから夢葵のその態度に、ピシャッと燎斗の動きが停止した。

 なのに燎斗のそんな様子を、夢葵は気にする素振りも見せず…


 「じゃーお兄ちゃん、行こっか。」

 「えっと…」


 さすがに、気まずい…

 いや、燎斗に申し訳なさ過ぎて…

 何か言葉をかけようと思って、燎斗へと俺は視線を向けた。

 

 だけどすぐに、グイっと夢葵の方から袖を引っ張られ…

 反射的に、夢葵の方に顔を向けたら…

 そのままの勢いで引っ張られ…

 そして半強制的に、家への帰路につかされた。


 最後に俺が遠くから見た燎斗の姿、それは…

 夢葵に始め挨拶するために上げた手もそのままで、燎斗の時間の何もかもが停止してしまっている姿だった。

 その姿はほんと無惨で、ただただ申し訳なかった。

 

 えっと…

 燎斗、すまん…


 俺は久しぶりに、燎斗に謝った気がした。

たぶん、もう一話を今日のどっかで…

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