英語と授業
朝から振り注いでいた、太陽の光…
その光によって…
朝からまだ少し肌寒いながらも、ポカポカとして暖かかった気候…
さらにそんな気候は…
太陽がてっぺんへと高く昇り、そして強く日を降り注ぐことで…
より、心地よい暖かさを増した。
いや、増してしまったの方がいいのかもしれない。
そして、太陽が高く昇っている…
そのことで気づいたかもしれないが、今はもうお昼過ぎ…
お昼休憩というご飯タイムに、きっとほとんどの人はお昼を食べ終えたはずだ。
だからそのせいで、どうしても眠くなってしまう時間…
そしてそんな眠たい時間に、追い打ちでこの暖かさ…
どう気を張り巡らしても、睡魔という俺たち学生の敵が襲ってくる。
そしてそんな、地獄とも天国とも言える時間…
その時間に、俺たちのクラスでは今英語の授業が行われていた。
教鞭を取るのは、三十路に入ってしまった女性の先生…
きつい目つきで、その上から四角い眼鏡をかけている。
その姿見からは、どう見たって男受けは…
そして生徒間での裏のあだ名は、三十路の処…
いや、これ以上言うのは良くない。
ほんと良くない。
だってこれ以上は、さすがに先生が可哀相すぎる。
でもこれ、もう既にほぼほぼ答え言ってしまってる気も…
まぁいっか。
そして一応ここで補足として…
俺たちが通うこの高校の話がしたい。
この高校は、一応進学校ではある。
あるのだけれど…
そこまで高いレベルというわけではない。
決して低くはない、けど高いわけでもない。
どこにでもある至って普通の高校…
だから…
スピー…
俺の目の前にいるやつの様に、授業にそこまで熱心じゃないやつもたくさんいる。
しかも今は、魔の睡魔タイム…
だから、熱心じゃない生徒がたくさんあぶり出てくる。
単純に、眠気の限界が来てしまったという奴もいるだろうけど…
いや、それが熱心じゃないということか…
まぁそれは、人によって意見が変わる話だろう…
知らんけど。
クラスを見渡すと、そこそこの人がやっぱり眠ってしまっていた。
そんな中、授業は進んでいった。
授業の時間が半分ちょい進んだ頃…
むくっ…
俺の前の席で寝ていた、怠惰な人間が身体を起こした。
そして後ろへ…
俺の方に振り向いてきた。
「今どこ…?」
ほとんど開いていない目、それなのに細かく何度も瞬きを重ねている。
一目で、眠たいということが伝わってくる。
でも、一応は授業を受けようという意思はあるみたいだ。
「ここ…」
俺はそう言葉をささやきながら…
今どこをやっているのか、燎斗に見えるように教科書を少し動かして指さした。
どこの学校でもたまに見られるような光景…
俺はそんな行為をしただけ…
それだけなのに…
「そこ!幸城君、静かにしてください!!!」
先生が大声で注意してきた。
この時の俺の心情は…
ミー…?
だった…
だって…
俺寝てたわけでもないし…
後ろ振り返ってもいないし…
俺から話しかけたわけでもないし…
なのに、俺っ!?
いや、確かにしゃべりはしたけど…
でも、俺!?
ちょっと納得できなかった…
「えっと、俺ですか…?でも、矢代だって…」
「いいのよ、矢代君は…」
何故か、燎斗はいいらしい。
でもいったいなんで…?
俺の心の中で、そう疑問が湧く。
そしてその疑問の答えを、先生が勝手に自らで口にしだした…
「だって、矢代君はイケメンなんだから…」
イケ…、メン…
はぁっ!?
はぁーーーっ!?
思考が分からない…
いったいあのおばさんはどういう思考をしているのだろうか…
教師という立場なのに…
そしてそう思ったのは、俺だけじゃなさそうだ…
だって…
クラスのみんなして、先生をポカーンと見つめているみたいだったから…
そんな俺たちをどこかに置いてしまって、先生が嬉々としてしゃべり出した。
「いいですか?幸城君…
イケメンというのは、存在するだけ…
そこにいてくれるだけで尊いのです。
第一に目の保養になり、第二に目の保養に、第三にも目の保養になるんです。
とても、とても尊い存在だと思いませんか?
そして今矢代君に優しくしておけば…
もしかしたら将来、先生とそういう関係になって、先生が幸せな恩恵を享受できる可能性だってあるんです。
分かりますか?
イケメンには、優しくし得なんです。
これは全世界での心理なんです。
なので、先生は矢代君に怒る気は毛頭ありません!!!」
この人…
ちょっとやべーよ…
というか、だいぶやべーよ…
それに矢代が結婚するときは、先生四十路とかで…
無理だろ…
絶対無理だろ。
自分の年も考えずに夢見すぎだろ…
さすが…
「三十路の処女眼鏡…」
俺はついつい呟いてしまった…
先生の可愛いあだ名を…
すごく可愛らしいあだ名を…
そして呟き終わった後に、自分がやらかしてしまったと自覚した。
俺は俺の呟きが先生に聞こえていないことを祈って、恐る恐る先生へと顔を向ける。
向けた先…
そこにいた先生の顔は、ポカーンと呆気にとられたような顔だった。
でもすぐに、まるで無理やりにでも作ったかの様な笑顔に移り変わっていく。
「幸城君…、何か言いましたか…?」
そう言葉にする先生の顔はやっぱり笑顔…
そのはずなのに、眉間の辺りが何故かピクピク動いている気がした。
「い、言ってません。」
もちろん…
俺の回答はこれだった…
というかこれしかなかった…
「本当ですか…?」
まだ笑顔の先生…
そんな先生に俺は再度…
「はい…」
そう返事した。
したんだけど…
「嘘つけぇぇ、聞こえとんじゃわれぇぇぇ!!!!!」
やっぱ、聞こえてた…
「き、気のせいです。」
「何がだぁぁぁ!!!」
「俺…、先生のこと、三十路の処女眼鏡なんて言っていません。」
「い今、今言ってるからなお前ぇぇ!!!!」
「き、気のせいです…」
「何が気のせいじゃおんどりゃぁぁぁ!!!!」
やばい…
先生がご乱心だ…
何か…
何か手は…
「えっと…、えっと…。そもそも先生って処女なんですか?」
この言葉で、乱心中だった先生がピクッと止まった。
それを俺はチャンスとばかりに、言葉を続ける。
「処女じゃないなら、そもそもそこまで怒らなくても…」
その言葉に、先生は眉間にたくさんのしわを作る。
それはまるで何かを…
止まりそうにない、湧き出てくる怒りを必死に我慢しているようで…
「先生は、処女ではありません。」
先生は平静を繕った。
そして、そのまま続けて…
「幸城君…、先生へのイタズラはダメですよ?
先生だって、人間…
怒ってしまうことだって、きっとあるんですから…
でも今回だけは、大目に見てあげますね。」
どの口が…
俺は先生の言葉にそう思った。
いや、それしか思わなかった。
だって、さきまでめっちゃ怒ってたし…
「あ、ありがとうございます…」
「いいんですよ。」
先生の顔は、造形はともかくきれいな笑顔…
その笑顔で…
「いいですか、皆さん…
先生は処女じゃありません。
決して処女ではありません。」
何の宣言なんだろうか…?
そしてクラス一同…
先生の言葉を黙って聞いていた。
そこへさらに…
「私、早乙女は処女ではありません。
リピートアフターミー…
早乙女先生は処女では…」
誰も、先生の言葉についていかなった。
だから…
「皆さん、リピートアフターミー!!!」
先生は声を張り上げた。
そしてその勢いに、クラス一同は釣られてしまって…
「早乙女先生は処女ではありません。」
「「「「「「早乙女先生は処女ではありません。」」」」」」
そう、唱えさせられた。
そしてタイミング良くチャイムは鳴り…
こうして、今日の英語の授業は終わりを迎えた。
何これ…?