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登校と燎斗

燎斗:やくと

夢葵:ゆあ

 夢葵を中学校まで送った俺…

 そんな俺は本来の自分の目的地である高校に向かって、校門から一人で歩を進めていく。

 

 まだ中学校の前…

 つまり、周りにはまだまだ人通りは多い。

 そしてそのほとんどが中学生…

 だから周辺にいる人の目的地は、当然中学校…

 俺は周りとは逆行するように、目的地へと進んでいく。


 そして今では、夢葵と手を繋いでいた時に感じていた視線は当然のように消えてしまった。

 それに寂しさも覚える。

 だけどそれ以上に、ストレスフリーだった。


 そしてそんな快適さを感じている俺に、逆行してくる女の子たちの会話が聞こえてきた。


 「さっきの人…」

 「見た見た。すごくかっこよかったよね?」

 「ほんとほんと!」


 こんな感じの会話だ。

 俺は聞こえてきたそんな会話に、少し寂しさを感じた。


 彼女たちの瞳には、俺が映っていない。

 それは至極当たり前でいつも通りのこと…

 それでもかっこいいって言葉は向けられたいし、そういう目で見て欲しい。

 そう言う思いは心のどこかにある。

 そして彼女たちの言葉に、そんな心の奥の重い何かが刺激されてしまった。


 生まれてからずっとこの顔…

 周りからの点数は、内心でだいたい分かっている。

 だから周りからの評価を受け流すということも少しはできるようになった。

 

 でも悔しいし、なんか腹立つ。

 だから…

 

 まっすぐ進んだ先の角…

 そこで…


 「よっ。」

 そう声をかけられた。

 そしてそんな声をかけてきたやつに俺はこう返す。

 「死ね。」

 さっきの鬱憤の発散だ。

 どうせ、俺が小さな劣等感を感じたのはこいつのせいだろうし。


 「いきなり死ねってお前…」

 「すまんすまん、燎斗。お前の顔を見た瞬間、なんか腹立ってな…」

 「友人の顔見て腹立つってなんだよ…」

 「さぁ…?」

 「さぁって…」


 いきなりの言葉に、目の前のやつは困惑気味のようだ。

 当たり前か…


 そしてこいつの紹介を…

 八坂燎斗、以上。


 いや、さすがに短すぎたな。

 

 身長は俺と同じくらい。

 いや少しだけ、ほんの少しだけ俺より高い。

 でも、そこまで逸出した高さではない。

 きっと180ないくらいだろう…

 

 顔は少し縦に長いように感じる。

 でも輪郭がシュっとしていて、顔が大きいわけでもないから欠点になっていない。

 なってないどころか、もしかしたらそれが長所になっているのかもしれない。

 ただ少し目に力強さがないからか、それとも茶髪の髪を少し伸ばしているせいかで、どことなく暗い印象がある。

 でも、むかつくことにイケメンだ。


 そして何故こいつが中学校の前にいたかと言うと…

 俺が夢葵を中学校まで送るのは、学校のある日は毎日のこと…

 そして夢葵が通っている中学校は、こいつの家と俺たちの通う高校の通り道…

 だから俺たちはいつも、さっき合流した場所を待ち合わせ場所にしている。


 そして合流した俺たちは今、高校へと歩みを進めたところだ。


 「それにしても毎日、ご苦労様だな。」


 燎斗からの言葉…

 きっと、夢葵を中学まで送ることについてだろう。


 「そうか?」

 「あぁ。だって、10分くらいの遠回りだろ?ほんと毎日感心するわ。」


 そう…

 夢葵を中学に送るのに、10分くらい余分に時間がかかる。

 でも…


 「たった10分だろ?」

 「たった…、たったか…」


 燎斗的には、”たった”というのが引っかかったみたいだ。

 でも…

 

 「だって、たった10分だぞ?それで夢葵が喜ぶなら安くないか?」

 「このシスコン。」

 「シスコンか?言うほどだろ?」

 

 俺の言葉に、燎斗は顔をしかめる。

 俺的にはシスコンって言うほどでもない気がするけど、燎斗は違うみたいだ。

 まぁでも…


 「夢葵はブラコンだとは思うけどな…」

 「それは確かに…。いやでもあれは、シスコンを越えてヤン…。いや、なんでもないわ。」

 「ヤン…。なんだよ。気になるだろ?」

 

 「いやー…」

 そう口にして、燎斗は小さく首を傾けて視線をよそにやる。

 で…

 「やめとくわ。変なこと言って、妹大好きなお兄ちゃんに絡まれたくないし。」

 

 妹大好きって…


 「いやだから、俺は…」

 「はいはい、分かった分かった。違うのは分かったから。」

 「言い方腹立つな…」

 「それはすまんな。」


 謝ってきた癖に、燎斗の顔は笑顔だ。

 さてはこいつ、謝る気はそんなになかったな…?

 さすが…


 「性格は屑…」

 「なんか言ったか?」

 「いや何も?」

 「いや幸成、ちゃんと聞こえてるからな?俺のこと、性格がk…」

 

 おっと、まずい…


 「そういやさー…」

 「お前…」

 「そういやさー…」

 

 二回重ねた。

 何も言わさねーよ?


 俺の行動に、燎斗がじっと見つめてきた。

 そして…

 「ほんと、良い性格してるわ。」

 ため息を混ぜたように、そう言葉にしてきた。

 

 いや、お前には言われたくねーよ。

 

 「で、何だ?」

 

 燎斗はそう尋ねてきた。

 どうやらちゃんと聞いてくれるみたいだ。

 で、俺が話したいことというのが…


 「変な夢みたんだけどさ…」

 「夢か…、どんな夢見たんだ?」

 「お前と二人で酒飲む夢…」

 「きしょ…」

 「なんでだよ!!」

 「いや、夢の中で二人ってなんかきもいなって…」


 ほんと、こいつ口悪いよな。

 でも…

 

 「それは確かに…」

 「だろ?幸成お前、どんだけ俺のこと好きなんだよ…?」

 「いや全然…」

 「それはそれでひでーな…」

 「いやだって、ほんとのことだから…」


 「お前…」

 俺の言葉が利いたのか、そう呟きながら燎斗は顔を歪ます。

 そして…

 「で、夢の中の俺たちは、酒飲みながらどんな話してたんだ?」


 何話してたっけ…

 もうだいぶ、夢のこと忘れてるな。

 たしか…


 「朱沢さんの話…、だったかな…」

 「ほんと好きだなー。」


 燎斗の返しの言葉に、少しドキッと…

 頬が熱くなる。

 そしてそんな俺の状態をもう察知したのか、燎斗はニマニマとした顔を向けてくる。

 それがうざいし、腹立つ…


 「死ね。」

 「はいはい。で、どんな話だ?」

 

 燎斗の、俺見透かしてます感がほんとうざい…

 そしてそれが当たってそうなのがより一層…

 

 いいや…


 で、なんだっけな…

 たしか…


 「なんか、朱沢さんと柴田が上手くいかなかったって話、だったかな…」

 「それはまた…」

 

 燎斗は、眉間に皺を寄せて複雑な顔になった。

 でもすぐに、いつもの表情に戻って…


 「あんま想像できないな…」

 「だろ?」

 「あぁ。」


 お互いに、相槌を打ちあう。

 そしてあんまり意識していなかったが、もうすでに高校…

 正確には、自分たちの教室の前にいた。

 ガラガラという音をさせながら…

 燎斗はドアを開け、中へと足を一歩踏み入れ…

 そして…


 「でもそれ、もしかして正夢だったりな。で、幸成にとってはチャンスかもな…」


 そう言葉にして、燎斗は教室に入った。

 そして俺も、彼の後を追うように2-2の教室へと足を踏み入れた。

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