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辛さと優しさ

 俺は今寝支度を終わらせ、ようやくベッドの上に転がった。


 

 帰り道…

 元気のない俺に燎斗は…

 何かあったのか…?

 そんな心配の声をかけてくれた。

 

 独り泣いていた朱沢さん…

 そんな彼女に、俺は声をかけ…

 

 でも彼女が必要としてたのも、必要だったのも俺なんかじゃなく柴田で…

 俺はどうしようもできず、何もやってあげられず…

 ただただ、自分がすごく無価値な存在に感じていた。


 ただ、そんな俺への燎斗からの心配の声…

 そしてそんな声をかけてくれる存在は、俺の身にすごく染みた。


 誰からも必要とされず、そんな無価値な人間なんじゃないのか…

 どうしてもそんな嫌な考えが浮かんで…

 でも、それを否定してくれているようで…

 自分という存在の勝ちが、最低限保証された…

 空しくも、俺の心の薄い防波堤になってくれている気分だった。


 ただ、彼には申し訳ないことに…

 いや、腐れ縁の彼だからこそかもしれない。


 弱音を吐きだしたら泣き出してしまいそうで…

 そして泣いた姿を決して見られたくなくて…

 俺は、何でもない。

 尋ねてくれた彼に、そう噓をついてしまった。


 ほんと申し訳ないと思う。

 でもこんな惨めな存在にも、惨めなプライドはあって…

 でもそれだけは、これだけは譲れなかあったんだ。



 そしてベッドに就いてやっぱり思い出すのは、今日あった朱沢さんと柴田のことだった。


 泣いていた朱沢さんがいて…

 俺は彼女に何も励みになる言葉をかけてはあげられず、何もできず…

 結局柴田がやってきて、俺は蚊帳の外…

 それすら傍で見てるのが辛くて、逃げ出して…


 思い返すと、やっぱり自分が無力で無価値なんだと再確認させられてしまう。

 燎斗の件で、帰りはなんとか持ち直せた。

 でも今は一人で…

 ただだからこそ、もう我慢しなくてもいいんだ。


 俺は自分でかけた心の緊張を解いて…

 そしたら、色んな思いが出てきた。


 好きな女の子に、何もしてあげれなくて…

 そして、逃げ出して…

 弱くて意気地なしで…

 なんで、こんなやつがのうのうと生きてるんだ。

 早く死ねばいいんじゃないか。

 死ねばいいじゃないか、こんな無価値なやつ。


 真っ暗な天井を眺めるのを止めた。

 そして、枕に顔をうずめる。

 そしたら、目が熱くなって…

 目から何か垂れているのに気づいて…

 でも、やっぱり考えることは…


 死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ…

 こんな無価値なやつ、早く死ねよ。

 好きな子に何もできず、何もやってあげれず…

 ただダサくてかっこ悪い俺なんか、早く死ねよ。

 早く消えろよ、消えていなくなってしまえよ。

 きもいきもいきもい…

 

 なんでこんなに何もできないんだよ。

 なんで、あんなにかっこよくないんだよ。

 なんで、あんな誰から必要とされてんだよ。

 なんであんなに、何でもできんだよ。

 不公平だろ、不公平不公平不公平…

 くやしいくやしいくやしい。

 なんでなんでなんで、なんであいつはあんなに、何でもできんだよ。

 なんでだよ。

 どうしたらできんだよ、あんなに何でも…

 どうしたら、あんなにモテんだよ。

 誰か教えてくれよ、誰か…

 だれでもいいからさぁ…

 どうすればよかったんだよ。

 何をすればやればよかったんだよ。

 どう声を掛けたらよかったんだよ。

 何が、正解だったんだよ。

 わかんねぇよ、わかんねぇよ、全くわかんねぇよ。


 無力感、無価値感…

 そして、今日…

 いや、日頃から感じてた劣等感が湧いてくる。

 

 ループして…

 ごちゃまぜで湧いてくる。

 何度思い出しても…

 心で吐き出しても…

 ずっと、彼と彼女の二人が…

 二人だけで支え合っている絵が蘇ってくる。


 もう嫌だ。

 気持ち悪い。

 気分が悪い。

 

 それでも、俺の意思とは関係なく出てくる。

 さっきからあふれ出てくる涙の様に…


 もう嫌だった。

 ほんとに、嫌だった。

 死んでしまいたかった。


 そんなとき…

 誰かが、俺の頭を撫でる感覚があった。


 俺は涙でぼやけた視界で、その誰かを見た。

 そしてそこにいた誰かは、夢葵だった。


 

 視線を向けた瞬間、夢葵と目が噛み合った。

 すると夢葵は、笑顔を浮かべてくる。

 いつもの、可愛らしくて愛らしい笑顔ではなく…

 微笑むように、ただただ優しい笑顔を…


 初めて見る夢葵の笑顔は、ただきれいだった。

 いつも幼くて可愛い妹…

 そんな妹の大人びた笑顔…

 それに俺は、少し驚いてしまった。


 ただ、すぐに今の状況…

 泣いているところに、撫でて慰められていることを思い出して…

 それがどうしようもなく、恥ずかしくて…


 「夢葵、出て行ってくれ。」

 俺は涙ぐむ、弱弱しい声でそう言った。


 ただ彼女は、やっぱり笑顔で…

 「なんで?」

 首を小さく傾けた。

 

 なんで…

 分かって言ってるのだったら、それはずるい…


 自分は泣いている姿が、恥ずかしくて見られたくない。

 だから部屋から出てくれ、そう言ったのに…


 それを分かったうえでの”なんで”だったなら…

 ただでさえ恥ずかしいのだから、何も言えるわけがない…


 だから、俺が返せる数少ない言葉は…

 「いいから!!!」

 理由も教えず、ただ追い出すだけの言葉だけだった。

 でも…


 「嫌。」

 「なんでだよ…」

 

 「そんなの…」

 じっと、夢葵が俺の目を見てくる。

 元が愛くるしくて、可愛らしい大きな瞳…

 その瞳に、今は優しさと譲らないという強い意志を持って…

 「お兄ちゃんが泣いてるからだよ。」

 

 その言葉は、ちゃんと胸の奥にまで届いた気がした。


 ただ自分を…

 困って辛い自分を、優しく心配してくれる存在。

 邪見に扱おうとしても、それでも傍に…

 横にいて、慰めてくれる存在。

 そんな彼女の存在は、俺にはどうしようもなくありがたい存在だった。


 そしていつもの彼女とは違った…

 愛らしくて可愛らしい彼女…

 そんな彼女が、今日はきれいで優しくて、強い目をしていて…

 そして、ただただ美しく見えた。


 今目の前には、彼女がいる。

 だから、頑張って涙をこらえていた。

 でももう限界で…

 いますぐにでも、また泣いてしまいそうだった。


 ただ、俺はそれをなんとかこらえる。

 でも…


 「我慢しなくてもいいよ。泣いてもいいよ。夢葵が、慰めてあげるから。」


 身に染みた。

 言葉が、彼女の表情が、もう俺に我慢なんかさせてくれなかった。


 だから俺は泣いた。

 ずっと泣いた。

 我慢なんか諦めてしまって泣いた。


 そして俺が泣き疲れて寝てしまうまでの間、彼女はずっと俺のそばで頭を撫でてくれていた。

気が変わらない限り、ここで終わりです

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