宿題と問題
放課後の食堂で集まってから、そこそこの時間が経った。
赤い顔になってしまっていた日谷さんも、もう既にいつも通りクールな彼女に戻っていて…
そんな俺たちは、現国の宿題にせっせと取り組んでいた。
だけど…
「はぁ、終わんねぇな…」
燎斗の口からそんな、宿題が嫌になったという意味の言葉が漏れ出す。
そしてそれは、きっと燎斗以外のみんな…
当然俺も思っていて…
「だな…」
俺を始め…
「「うん…」」
日谷さんと清家さんも、燎斗の吐き出した言葉に同意した。
みんなでそう難色を示し合うくらいには、俺たちのグループは宿題の進行に難航していた。
残っている問題は、あとほんの数問…
数問なんだけど…
かなりの時間を費やしたのに、今つまずいている問題が一向に終わりそうにない。
もう諦めて、今の問題を飛ばして次の設問に…
そういう話も、グループの中ではあった。
あったんだが…
ただ、次の設問…
それは、今苦戦している設問…
それに対して、何故筆者はそう考えた…
そう言う感じの問題だ。
だから、飛ばして次ということができない。
次という話になった時、みんなして次の問題を見た時は…
もうみんな、乾ききった笑いしか出てなかったよね…
ははっ…
ということで…
俺たちは今の問題を解こうと、必死に粘っている。
ただやっぱり、今回の宿題は難し過ぎる。
だから…
食堂内には、他クラス他学年を含めてたくさんの生徒がいるのだが…
その中には、同じクラスの人らの顔がちらほらとあって…
自分たち以外の他のグループでも、今回の宿題に手を焼いているようだ。
そして、気づくと燎斗はぼけーと他所を…
隣にいる俺とは逆の方を、肘をつきながら見ていて…
その見ている方に向かって…
「あそこは楽そうだよな…」
そう呟いた。
燎斗の言葉…
そして視線の先が気になって、俺も燎斗の見ている先へ顔を向けると…
そこにいたのは、柴田と朱沢さんのグループだった。
他二人と赤沢さんには、勉強できる印象は全くない。
だからさっき燎斗が言った言葉は、普通なら不釣り合いに感じる。
ただそれでも…
燎斗が楽そうと言葉にしたのは、どう考えても柴田という存在の大きさからだろう。
「まぁ、柴田がいたらな…」
「だよなー…」
そして、俺らがこんなしょうもない言葉を送り合っている間…
向こうのテーブルでもおしゃべりがされていて…
「いやー、部活休めてラッキーだわ。」
「わかるー。ウチんとこも休みなさ過ぎて、まじで辛いんよ。」
「だよねー。星のとこもほんとそれー。」
「やんなー。でさ………」
こんな感じで、他二人と赤沢さんとで会話を楽しんでいる。
すごくウキウキに、日頃の愚痴的なものを吐き出している。
でも少し不思議なことに、他三人の会話の中に柴田は入ってはいかない。
ただ、楽しくないという話ではないみたいで…
他三人の話に、笑顔を浮かべている。
そしてそんな彼らの光景が、燎斗には羨ましく見えたらしく…
「いいよなー。余裕のあるとこは…」
小さな声で、そう吐き捨てた。
燎斗がそう言いたくなる気持ちも分かるんだよな。
俺たちはけっこう頑張ってはいるけど、終わるまでにはまだまだ時間がかかりそう…
なのに向こうのテーブルは、余裕かつ楽しそうで…
そんな姿が目に入ってしまったら、羨ましくないわけがない。
ただそれでも、やらないわけにはいかないだよな。
「はいはい。いいからやるぞ、燎斗…」
「はぁ…」
やっぱり、やる気にはなれないらしい。
しょうがない…
「燎斗、考えてもみろよ?」
「何をだ?とーさん…」
「誰が父さんだよ!!誰が!!!」
「ははっ…」
嬉しそうに、燎斗が笑みを浮かべてくる。
「ったく…。」
俺は一度ため息を吐いてから、続けて…
「この宿題が、何の授業のものなのかをだよ。」
「はぁー?」
これだけでは、伝わってくれなかったみたいだ。
ほんと、しょうがない…
「この宿題、現国のだろ?」
「そりゃーな。」
燎斗が見てくる目は…
何当たり前のこと言ってるんだよ、という感じだ。
「現国の先生さ、もし俺たちがこの宿題をきっちりしてこなかったらなんて言うと思う…?」
「それは…」
燎斗の顔は…
何度も瞬きをして、何かを考えている表情…
ただすぐに俺が言いたいことが分かったらしく、苦々しい顔へと移り変わっていった。
どうやら燎斗は、俺が言いたいことを気づいてくれたみたいだ。
そしてそれは何をかと言うと…
現国の先生の口癖、それは…
”こんなのも解けないようでは、私みたいに〇大にいけませんよ?”だ。
もう分かってくれただろうか。
俺たちが宿題を半端でやっていく、もしくはテキトーにやっていく…
どっちだったとしても、確実に先生からのクソムカつく一言が飛んでくる。
そんなの、どう考えてたって…
そして苦々しい表情だった燎斗は、頭をゴシゴシと雑にかいてから…
「はぁ…、やるか。」
燎斗のその言葉を聞いた後、俺は日谷さんと清家さんの二人に…
二人とももいい?
そう言う意味を込めて目を合わせると、二人ともから深い頷きが返って来た。
どうやら現国の先生の口癖は、二人からしても嫌みたいだ。
こうして俺たちは、再び宿題へと取りかかった。
そして、勉強を再開してからしばらくの時間が経った。
俺たちが必死にやっていた宿題も、もうあと少しで終わる。
だから、あともうひと頑張り…
俺たちみんながきっとそう思っていた、そんなとき…
問題…
というか、いざこざというものはいきなりやってくるものらしく…
「星!!お前のせいで全く進まないだろ。いい加減にしてくれ!!!」
すぐそこのテーブルから、そんな怒った声が聞こえてきた。




