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体育と教育実習生

 今日最期の授業は、体育だった。

 授業開始の合図である、チャイムも鳴り…

 今日体育が行われる場所、体育館に俺たちは集まっていた。

 

 ただ補足として、一緒に集まっているのは男子生徒だけだ。

 女子生徒は女子生徒で、どうやら俺たちとは違うことをするみたいだ。


 そして俺たちは座り、目の前には…

 去年から授業を担当する田中先生と、その隣にもう一人…

 先生が二人…?

 めずらし…

 

 二人いることにクラスの何人かが疑問に思っている中、先生からのアナウンスが入る。


 「えー、今回は前回と同様、体力測定の続きをしてもらう。具体的に言うと、シャトルランだな。」

 先生のその言葉に、ちらほらとため息と嫌そうな声が上がる。

 でも先生は、そんな俺たちの反応を気にする様子もなく…

 「あとな、今日からそこそこの期間、教育実習生の先生にも手伝ってもらうことになった。

 じゃー先生、挨拶を…」


 田中先生はそう言いながら、目配せと合わせて新しい先生に合図をした。

 その合図に、新しい先生は元気よく…

 「はい!!」

 と返事をしてから、一歩前に出た。

 

 身長は平均より大きいくらい…

 きっと180センチないくらい。

 ただ筋肉剛隆で横に太く、そして前にも分厚い。

 髪型はショート、もう少し言うとスポーツ刈りだろうか。

 横は剃っていて、上だけは残っている。

 でも見た目は、たまにテレビとかで昔こんな髪型があったと特集されるリーゼントという髪型と近い気がする。

 ただ毛量や長さがそこまでで、横も剃られているからリーゼントとは言えないのだろう。

 だけどが上だけ平べったく残っている様から、テレビで見たリーゼントにやっぱり近い気がする。

 いや、それの出来損ないか…

 そして顔は少し四角くて大きい。

 だから髪が合わさって、顔がより大き…

 これ以上は、言ったら失礼か。

 

 まぁ総合すると…

 格闘技をしていたであろう、筋肉モリモリの体育会系のお兄さんだ。


 ん-、短い。

 最初から、この説明だけで良かった気が…


 そしてその先生は、一歩前に出てから…

 「えー、今日からこの学校でお世話になることになりました。豪炎寺です!!

 座右の銘は、筋肉…

 筋肉は世界を救うです!!

 これから短い間お世話になりますが、どうぞよろしく!!!」


 その声は、すさまじかった。

 本当にうるさい。

 もうほんと、見た目も合わさてザ・体育会系だ。

 

 あと、筋肉が世界を救うって何…?

 暴力ってことか…?

 暴力で黙らせるってことか…?

 くそバイオレンス過ぎだろ…

 でもそれ、平和になるのか…?

 いやなるのか…

 だって、他のやつを黙らすんだから…

 

 そんな豪炎寺先生の挨拶も終わって、田中先生から…

 「まぁ、そんな感じだ。

 じゃー、シャトルランやる前に準備体操な。

 では豪炎寺先生、あとはお願いします。」

 そう言って、田中先生は壁の方へと去って行った。


 えっ…?

 田中先生、まじか…?

 まじなのか?

 いきなりこいつにやらすのか…?


 どうしようもない不安が、急に俺を襲ってきた。

 

 そして、田中先生から指示を受けた豪炎寺先生は…

 「はい!!」

 去って行く田中先生に向かって、良い返事をしてから…

 「じゃーみんな、体操をするから隣と当たらないくらい広がってくれ。」

 そう、俺たちに指示を飛ばしてくる。


 その指示通り、俺たちは広がって…

 そして準備体操をしていく。

 

 その準備体操は普通だった。

 思ったよりも普通だった…

 いや準備体操が異質だったら困るし、おかしんだけど…

 それでもただ普通で、ほんと良かった…


 周りからも…

 

 「ふ、普通だったな。」

 「あぁ…」

 とか…

 「良かった…」

 「ほんとにな…」


 安堵の声、それとほっとしたため息が聞こえてくる。

 みんな、思ったことは同じだったようだ。

 

 ただその中で、気になる会話が聞こえてきた。

 

 「なぁ師王…、そのさ、もしかして…、朱沢さんと喧嘩でもしたのか…?」

 その声は、何故か恐る恐るといった感じだった。


 ただその尋ねられた内容は、すごく興味を引いてくるものだった。

 

 だって、さっきの授業での一幕…

 いつもだったら、当然のように朱沢さんとペアを組む柴田…

 だけどさっきの授業では、ペアを組まなかった。

 もっと言うと、柴田が朱沢さんを拒んだようにも見えた…


 俺の勘ぐり過ぎかもしれない…

 ただ、タイミングが嚙み合わなかっただけなのかもしれない。

 でもそれでも、気にはなる。


 急に周りも…

 正確には、さっきの男子生徒の問いかけが聞こえた範囲だけが静かになった。

 俺と同じで、きっとみんな気になるんだろう。


 そんな…

 静かでみんなから注意が向けられている中、柴田は…

 「いや、喧嘩とかはしてないぞ?」

 そう返事した。


 その柴田の返事に、周りを騒がしさを取り戻し始める。

 なんでもない…

 そういう意図を示した柴田の返事に、みんな興味がなくなったみたいだ。


 俺もそう思った。

 でも気になるのは…

 喧嘩とか”は”だ。

 

 喧嘩以外はしたのだろうか…

 何かあったのだろうか…

 

 だって何でもないなら、もっと他の言い回しをするんじゃないだろうか。

 なのに、何かを少し含むような言い方…

 そしてさっきの授業での一コマ…

 柴田には我慢できないことがあって、朱沢さんの何か嫌な感情でも抱えているのではないだろうか。

 俺はそう勘ぐってしまう。


 分かってる…

 分かってるんだ。


 柴田と朱沢さんとの間に何かあって欲しい…

 俺がただそう心の中で願っているだけなのは…

 だってそれほどに、柴田と朱沢さんの関係は頑強で…

 誰一人として入り込めないような、そんな頑健な関係…

 

 ただそれでも、ただただ諦めるなんてしたくなくて…

 だからどうしても…

 疑ってしまう…

 勘ぐってしまう…

 願ってしまう…


 意味なんて、きっとないのに…

 そんなこと思っても、きっと全くの無意味なのに…

 なのにどうしても…


 はぁ、良くない。

 考えすぎだ。

 今へらったらダメだ。

 前みたいに落ちてしまう…


 前は、夢葵がいてくれた。

 でも、今はいない。

 いないんだ。

 だからダメだ、これ以上はダメだ。


 俺は大きく息を吸う。

 頭の中を真っ白にするため…

 

 だけどダメで、どうしても頭の中に柴田と朱沢さんのことが浮いてくる。

 俺はもう一度、呼吸を意識しながら吸う。


 楽しいことを考えろ…

 楽しいことを…

 それは…


 思い出したのは、日曜日の出来事だった。

 夢葵のために買ったケーキ…

 そのケーキを、夢葵は頬をとろけさせながらおいしそうに食べていた。

 一口一口嬉しそうに、おいしそうに声を上げて…


 気づくと、もう平気だった。

 心が落ち着いていて、穏やかになっていて…

 今から気持ちが落ちることはないのが、自分でも綽綽と分かった。


 平静に戻った俺は、準備体操に意識を戻す。

 無意識に近い状態でずっと、半自動的に身体が準備体操をしていてくれたみたいだ。

 残り少ない準備体操を、俺は意識的に進めていく。

 どことなく清々しくて、良い気分だった。


 こうして、体育の授業は過ぎていった。




 そしてここからは、後日談的なものを…


 俺たちは準備体操を終え、豪炎寺先生から最初に出た言葉は…

 「じゃーみんな、まずここから、腹筋をしようか!!」


 えっ…?

 急に俺、そしてクラスのみんなの空気が止まった気がした。

 ただ、豪炎寺先生はそんな俺たちの空気に気空いた様子はなく…

 「じゃー、まずは30回な。」


 俺たちは今も壁に背中を預けている田中先生を見る。

 頼む、頼むからこいつを止めてくれ…

 そういう視線で…


 ただ、ちゃんと俺たちの視線に気づいていた田中先生からの反応は…

 ただの苦笑いだった…

 つまりは、俺たちを救ってくれる気はないらしい。


 だから俺たちは流されるまま、泣く泣く豪炎寺先生の指示に従った。

 そしてそこからは、もっと悲惨だった。


 「次は、背筋な。」


 「次は、腕立て…」


 「次は、スクワット…」


 「次はもも上げ…」


 「次は、うさぎ跳び…」


 こんな豪炎寺先生の指示を、涙しながらもちゃんと受け続けた俺たち…

 そんな俺たちは…

 ここ10年で、シャトルランの過去最低平均をたたき出した。


 そしてそれをショックに受けた豪炎寺先生は…

 「おいみんな、たるみ過ぎだ。

 今から、グランド10s…」


 「豪炎寺先生、ストップ!!!」


 さすがにここで、田中先生が止めてくれた。

 止めてくれたけど…

 どう見ても…

 どう考えても、遅すぎだよ…


 先生…

 頼むからもっと早くに止めてよ…

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