ケーキと夢葵
何故か、結局日谷さんと一緒に帰ることになった帰る道…
その日谷さんとも別れ、俺は今家の前まで帰ってきていた。
大きくも小さくもない、少し新しいだけの家…
そんな家の扉にカギを挿入し、回す。
そして扉を開くと…
そこには妹がいた。
しかも何故か、きれいな正座姿で…
「夢葵、何してんの?いや、なんでいるのか、か…?」
正直、何から聞けばいいのか分からなかった。
だからとりあえずは、なんで既に玄関にいたかについて…
そんな戸惑いながら尋ねた俺の問に、夢葵はニコニコとしながら…
「お兄ちゃんの足音が聞こえたから、スタンバってみた。」
「な、なるほど…」
ん-、分からん…
というか…
「家の中から、外の足音って分かるもんなのか?」
「お兄ちゃんのだったら分かるよ?」
いつも通りの表情と声の抑揚…
それらの情報からは嘘とか冗談とかいう気配は全くなく、さも当然という感じだった。
「へー、すごいな…」
「でしょ?」
「あぁ、夢葵はすごい。」
「えへへ…」
そうこうやり取りをした後、俺は靴を脱ぐために玄関へと座る。
すると、夢葵が何故か…
スンスンと、匂いを嗅ぎだして…
「お兄ちゃんから、他の女の匂いがする…」
なんだろ…
さっきまでの、ほんわかしていた夢葵の雰囲気はどこへやら…
今はむすーと、不機嫌そうになった。
しかもそれに伴って、少しだけ玄関の空気も重くなってしまった気が…
気のせいだよな…
きっと、気のせいで…
「えっと…」
とりあえず、夢葵にどうしたのか聞きたかった。
でもなんて聞けばいいのかが分からず、俺は意味になってない音だけを口にした。
そしてそれが、夢葵のなんらかのスイッチを押してしまったみたいで…
「浮気?」
夢葵の声は、今までで聞いたことない声だった。
低くて重い…
そんな声…
そして浮気…
浮気ってなんだっけ…
俺の記憶では、結婚してる人が別の女と良いことをする…
そんな言葉だったはず…
俺、結婚もしてないし…
それに俺生まれてから、誰とも良いことしたことないんだけど…
それなのに、浮気…
ん…?
「えっと、夢葵…?」
「お兄ちゃん、浮気したの?」
夢葵の声はやっぱり低い…
その声はまるで、俺を責めてくるようで…
ただ、夢葵の言ってる意味が分からない。
これ、なんて返したらいいんだろうか…
「えっと…」
「したの?」
「してないです…」
「ならなんて、お兄ちゃんに女の人の匂いがついてるの?」
女の人の匂い…
それってもしかして…
日谷さんのことか…?
「あー…」
なんて言えばいいのだろうか…
今の夢葵の様子だと、ただ一緒に帰って来たで許される雰囲気じゃない…
だからきっと、詳細に説明するべきなんだろう…
未だに正座したままの夢葵の正面に、俺も正座してから…
「今日さ………」
俺は説明した。
帰り道が、日谷さんと被っていたこと…
だから、時間をずらそうと寄り道していたこと…
そして時間をずらしたはずなのに、日谷さんが空き地で捨て猫とおしゃべりしていたこと…
だから流れで、途中まで一緒に帰ってきたことを…
「これが、寄り道の時に買ったケーキです。」
俺は説明し終えると同時に、夢葵様にケーキを献上した。
俺が説明している間は、ずっと俺を疑うように見ていた夢葵。
ただ、俺がケーキを渡すと…
「けーき…?」
その声はまるで、初めてケーキというものに出会ったみたいなイントネーションで…
そしてまた…
「ケーキ!?」
嬉しそうに、夢葵は”ケーキ”と復唱した。
その目は、きらきらと宝石のように輝いていて…
そして頬も、抑えきれないくらいニッコリとし始めた。
「夢葵への、お土産だよ。」
「えっ!???」
驚く声を上げたと思ったら…
俺とケーキを、大きな目で交互に見てくる。
そして…
「え、え、え、えっと、あれだよね。ゆ、夢葵は騙されないよ。
ほ、ほ、ほ、他の女とイチャイチャしたのを誤魔化すために買ったんだよね?」
言葉は、まだ何か疑ってきているみたいだけど…
動揺が隠してくれてなく…
そして表情も、嬉しさからの頬のゆるみが抑えきれていない。
その姿が可愛くて…
そして、おかしくて…
俺は少し笑ってしまいながら…
「違うから。ただの、お土産だよ。」
「ほんと…?」
夢葵からの質問…
そしてケーキの箱を持ったときに気づいたみたいだけど…
「それに、ケーキ一個しか入ってないし…
やっぱり、夢葵を誤魔化すために…」
今日の夢葵は、相当疑い深いらしい。
でも、少し前までの不機嫌そうな顔はもう既になく…
今はケーキへの期待なのか、その表情はすごく明るい。
「あーそれはな、夢葵のどれ買おうか悩んでたら、お兄ちゃん、自分の買うの忘れちゃったんだよ。」
ドジだよな…
自分でそう思っていると…
「ふぇっ!?」
夢葵から、間抜けな声が上がる。
その夢葵の顔は…
びっくりしたかのように、目は大きく見開かれていて…
ただその目は、段々といつもの大きさに戻って行って…
今はまるで、俺だけを映しているみたいだった。
そして…
「お兄ちゃん大好き!!!」
そう言いながら、夢葵が飛びついてきた。
身体の正面に、温い衝撃がぶつかって…
そしてぶつかったと思ったらすぐに、首に手が回ってくる。
俺も習って、優しく抱き返す。
すると、温かい温度が伝わってきてから…
「大好き、大好き、大好き、大好き、だいすきーーーっ!!!」
耳元から、夢葵の声が聞こえてきた。
温かくなった心のお返しに…
「はいはい…」
俺はそう言いながら、優しく背中をさすることで返す。
すると…
「えへへへ…」
夢葵から、ご機嫌な声が漏れ出す。
夢葵はほんと可愛いなぁ…
心からそう思ってしまう。
そして、夢葵の声がけっこう大きかったらしく…
ガチャ…
居間の扉が開く、そんな音が聞こえてきた。
そして、母さんの声が…
「あんたたち、何してんの…?」
どう返そうかと思っていると、俺より先に夢葵が…
「イチャイチャしてる。」
「あんたたちまた…」
また…
またって言われるほど、頻度は多くなんだけどな…
それに、イチャイチャって言うほどでも…
そう思っていると…
「あら…。これ、ケーキの箱じゃない。どうしたのこれ…」
目ざとい母さんは、ケーキの箱を見つけたみたいだ。
「夢葵へのお土産…」
俺がそう正直に答えると、母さんが…
「はぁ…」
ため息をついてから…
「ほんと幸成は、夢葵に甘いわね。
どうせなら、全員分買って来てくれたらいいのに…」
ごもっともだった。
逆に、なんでそうしなかったんだろうか…
「ごめん母さん。今度は買ってくるよ。」
「はいはい。どうせ夢葵の分しか買ってこないだろうから、期待しないで待ってるわ。」
ひどい言われようだった。
俺が苦笑していると…
「あと、いい加減お父さんも待っているし、ご飯食べるわよ。」
「あーはい。」
母さんの言葉に、俺はそう返事する。
だけど夢葵から…
「嫌。先に、お兄ちゃんとイチャイチャしながらケーキ食べる。」
「ダメよ。おやつはご飯のあと。それにどーせ、ご飯食べながらでもあんたたちはイチャイチャするでしょ。」
いや、しないけどな…
俺はそう思ったけど…
「それもそっか。はーい。」
意見の相違がすごかった。
そしてこの後、めっちゃご飯を食べた。




