夢葵と土曜日と
朝食を終えた俺は、自分の部屋でせっせと学校の宿題に取り込んでいた。
今週は宿題が多い。
だから必死だ。
そして朝から頑張った甲斐があって、あとは現国の宿題のみ…
のみなんだが…
後ろ…
正確に言うと、俺のベットの上から…
「ふーふ~ん…」
こんな鼻歌や…
「おお~、なるほど~…」
こんな感嘆の声…
「にゃ゛ぁぁぁぁぁぁ…」
悲鳴…
「ライ〇ぁぁぁぁぁあぁああああ!!!!」
人名の叫び声…
ベットの上から可愛い妹の声が飛んでくる。
目に入れたら痛い妹…
いや、入れたら絶対に痛いからね。
でも入れろと言われたら、きっと入れようと頑張れるくらいには可愛い妹…
それくらい可愛い妹でも、さすがにそんな感情豊かな声を叫ばれるとすごく気になる。
というか、すごく邪魔…
ほんと邪魔だった。
「なぁ夢葵…」
「なぁに?お兄ちゃん…」
夢葵の声はすごく甘えた声だった。
「すごい気が散るからさ、自分の…」
「嫌。」
一瞬だった。
最後まで、言わせてくれる気配すらなかった。
これは、いくら言っても自分の部屋に行ってくれそうにない。
なら…
「分かった。じゃー、静かにしてくれない…?」
「えー、夢葵、ずっと静かだったよっ?」
この子は、自分のことを全く客観的に見れていないらしい。
どう考えてもうるさかったし、うるさくなかったら今こんな話してないし…
もう、攻める切り口を変えるしかないのかもしれない。
「夢葵は勉強しなくていいのか?今年受験なんだし…」
そう、夢葵は中学3年生…
そして俺の通ってる高校に、夢葵も来たいらしい…
なら、夢葵も受験というものを避けては通れない。
だからこの文句は確実に夢葵に聞くはず…
俺はそう思った。
思ったんだ。
「夢葵、お兄ちゃんの高校くらいなら、A判定貰ってるよ?」
A判定…
模試での、志望校への合格ラインかどうかの判定…
そしてA判定は、合格率8割以上。
この妹…
頭良すぎないか…?
お兄ちゃん、当時BとかCとかでけっこう苦労したのに…
しかもこいつ…
今お兄ちゃんの高校くらいなら、そう言ったよな…?
くらいならって…
その言葉、すごく傷つくんだけど…
お兄ちゃん、当時くそ頑張ったのに…
それなのに、くらい…
もっとさ、お兄ちゃんのクソザコメンタルを傷つけない言葉使って欲しいんだけど…
「いやでも、勉強しないと落ちるかもしれないぞ?」
「ん-、そんなことないと思うから、たぶん大丈夫。」
この子のこの自信は、いったいどこから来るんだろうか…
そして今は、夢葵は手にある漫画へと視線を落としている。
その姿は、自信の表れにしか見えなかった。
「でも、もし落ちたらお兄ちゃんと同じ高校に行けないよ?」
ピクッ…
分かりやすく、夢葵の肩が動いた。
ほ~ん…
「あーあ、お兄ちゃん、夢葵と一緒の学校に行きたかったのになぁ。
でも、落ちちゃったら行けないのか…
それは残念だなぁ…」
少しわざとらしかったかもしれないが、俺は抑揚をたっぷり込めてそう言った。
そしてそれは利いたみたいで…
夢葵は立ち上がった。
そして…
「夢葵、お兄ちゃんとのラブラブの高校生ライフのために勉強する!」
そう宣言した。
良く分からない箇所があったものも、どうやら勉強する気になってくれたみたいだ。
「そっか…、頑張れ。」
「うん!」
元気よくそう返事した後、夢葵は部屋から出て行った。
その時の夢葵の顔には、強い意志が籠っていた。
そして夢葵が出て行って静かになった部屋…
単純に、人が減ったからかは分からない。
でも、いつもよりも少し広く感じて…
なんとなく寂しい気持ちが襲ってきた。
でもまぁ…
これで静かになったことだし、俺も勉強に集中するとしま…
ガチャ…
何故か、扉が開く音がした。
当然気になって、音がした方を向くと…
そこには、勉強道具を持った夢葵がいた。
「夢葵、どうした?」
「勉強する。」
「それは分かるんだけど…、でも、なんで俺の部屋に…?」
だって…
勉強するなら、普通は自分の部屋で…
「ここで勉強する。」
「ここで…、ん?」
何を言って…
「だからお兄ちゃん、そこのいて。」
「のいて…。はっ!?」
「夢葵が机で勉強するから、お兄ちゃんは別の場所でして。」
「は…?べ、別の場所…?ど、どこで…?」
「ベットの上。」
「はっ!?」
「お兄ちゃんはベットの上で勉強して。」
「はは…、まじ…?」
俺の質問に、夢葵は平然と頷いた。
マジか…
マジでか…
そして、夢葵に俺の勉強道具をベットまで移動させられ…
俺の部屋のはずなのに…
夢葵は俺の机、そして何故か俺はベットの上で勉強をさせられた。
これ…
なんかおかしくね…?
俺はそう思いながら、勉強した。
昼を食べ、その後も勉強を続けている俺たち…
もちろん…
俺がベットの上で、夢葵が俺の机でだ。
この事態に、最初はおかしいと思っていた。
でも、もう慣れてしまった俺もいた。
でも、やっぱりおかしいよな…
そして時刻は15時を回っただろうか…
俺もだが、夢葵も集中が切れてきたみたいで…
「夢葵、つかれたー。」
夢葵の物言いは、駄々っ子みたい言い方だった。
ほんと、小さい子供みたいな…
そしてすぐに俺の背後まで移動してから、俺の肩を持って…
いや、軽く揺さぶりながら…
「つかれた、つかれた、つかれた、つかれた、つかれた、夢葵つかれたーーーーっ。」
ほんと、子供みたいだった。
でも、夢葵の気持ちも分かる。
今が15時…
だから合計で、4、5時間は勉強している。
疲れも来る頃だろう。
しょうがないな…
「お兄ちゃんも疲れたし、休憩しようか。もう、15時だし。」
「だよね。お兄ちゃんも疲れたよね。もう、15…。はっ、15時!?」
そう言った夢葵は、ニマッとしてからドタバタと部屋を出て行った。
そして1分もしないうちに帰ってきて…
「お兄ちゃん、アイス食べよ!!!」
夢葵はそう宣言した。
そっか、15時だからおやつにちょうどいいのか。
俺はそう思いながら、ベットの上に座り込む夢葵の隣にへと移動して…
そして夢葵の手元を見た。
そしてそこには、何故かバニラ味のカップアイスが一つしかなくて…
「夢葵、なんで一個だけ…?」
「えっ?お兄ちゃんと二人で分けようと思って。」
「はー…」
「だって、アイス一個って多いもん。それに半分だったら、切り捨てたらカロリーゼロだし…」
そう言葉にしてから、夢葵は何度か目をパチパチさせて…
そして、こっちに元から大きな目を見開かせてから…
「はっ、これきたっ!?
これ、いくら食べても太らないやつ来たっ!?」
謎のことを言いだした。
しかもテンション的には、すごいひらめきをしてしまった…
そんな感じのテンションで…
「いや、普通に太るからな…?」
「ぶー…」
「はいはい。それより、早く食べないと、アイス溶けるよ?」
「はっ!?」
夢葵も気づいたらしく…
白い雪の塊みたいなアイスをスプーンで掬ってから、口に投入した。
すると…
「んん~~~~~~~っ!!!」
可愛い悲鳴を口にした。
そして目も頬もうっとりしている。
「おいしい~~~っ。お兄ちゃんもはい。あ~~~ん。」
やっぱり、あ~んのようだ。
仕方なく口を開けて…
そしたらそこに、夢葵はスプーンを突っ込んできた。
口の中に、冷たい何かが入ってくる。
最初は、個体のように硬さがあった。
でも一緒に、なめらかな口触りもあり…
だけど俺の皮膚と触れ合うことで、段々とそれは溶けていき…
口の中に、甘さだけが広がっていく。
そして当然、その甘さは…
「おいしい…」
「だよね?すごくおいしいよね?もうほんと、すごくおいしいよね。」
夢葵の語彙力が死んでいた。
でも…
「すごくおいしいな。」
「ね!」
俺の語彙力も死んでいた。
この後、夢葵に食べさせてもらう時間…
そして食べさせる時間が続いた。
その時間はすごくゆったりとしていて…
いつもと同じくらい、アイスは甘かった。
こうして、俺たち俺と夢葵の一日が過ぎていった。
そして翌日の朝…
今日は日曜日で、みんなとの約束の日だ。
今から俺は家を出るところで、夢葵からの見送りを受けているところだった。
「じゃ―お兄ちゃん、なるはやで帰ってきてね。」
見送ってくれる夢葵から、可愛い言葉と笑顔が向けられる。
「うん、分かってるよ。」
俺のその言葉に、夢葵は嬉しそうに笑顔を見せてくれる。
ただ…
「あっ…」
何か思い出したみたいで、夢葵が俺を手招きしてくる。
俺はその手招きに従い、夢葵へと顔を近づける。
すると夢葵は、玄関には他に誰もいないのに、コソコソ話を始めた。
俺はしょうがなく、そんな夢葵に付き合う。
「………いい?」
夢葵が確認を取ってくる。
でも言われた内容はしょうもないことで、すごくどうでもいいことだった。
しかも、起こるかも分からないこと…
「いいけど…」
俺は困りながらも、そう返事して…
そして俺のその返事に、夢葵が念を押すように…
「あれと夢葵、どっちが大事って話だからね?」
そうなのか…
とりあえず、俺は夢葵のお願いに…
「分かったよ…」
そう言葉を返した。




