数学と優秀さ
現国が終わった次の授業…
今日…
いや、今週最後の授業は数学だった。
金曜、そして一日の最後の授業…
それだけで苦しい時間だが、ただただ数学というだけでも苦しい時間だ。
二年になってからの数学の授業…
高校に入ってからも、数学の授業のレベルが一段階上がった気がしたが…
一年生から二年生になっても、また一段階難易度が上がった気がする。
そんな難しい授業…
そして先生が黒板に書いた問題…
その問題を、飄々とした表情で軽々と回答を書いていく男がいた。
そう…
「正解です。さすが、柴田君。良く予習されていますね。」
そう、柴田だ。
彼はスマートに問題を解いてみせた。
そして…
「いえ、先生の分かりやすい教鞭のおかげです。」
先生への返事までもがスマートだ。
その言葉に、先生は嬉しそうに頬を緩ます。
顔なのか、雰囲気なのか…
それとも、ただ純粋な優秀さなのか…
もし俺が同じことをしたら、先生は同じ反応をしてくれるだろうか…?
たぶんだが、きっとしてくれないだろうな…
そう感じてしまう。
そう思うと、きっと先生を絆しているのは、きっと彼自身が産まれもって手に入れているもので…
その彼の生まれ持った天性のものが、俺は少しだけ羨ましく思ってしまう。
スマートの彼は問題を解き終え…
先生と数回言葉を交わした後、席へと戻った。
そして…
「さすが、師王だね。」
「そうか?そんな大したことじゃないよ。」
「謙遜しちゃって。でも、ほんとすごいね。」
「そうかな、ありがと…」
楽しそうに、朱沢と会話する。
彼の姿には、余裕が見て取れて…
悔しいことだけど、男の俺ですらかっこいいなと思ってしまう。
そして男の俺ですらそう思うのだから、きっと異性の女性からしたらより一層そうだろう。
だから、彼がモテることにすごく納得している自分もいた。
柴田が板書の問題を解いてからしばらくがたった。
今はクラスみんなで、さっき先生から説明があった箇所の問題を解いている。
そしてこの問題は、なかなかに難しい。
今やってるのは当然新しい内容…
そしてそれは、ただただ公式に当てはめる問題でもない。
だからどうしても…
何度も手が止まっては、その度に頭を悩ます時間が過ぎていく。
きっと他のクラスメイトも、俺とそう大して変わりないだろう。
なのにこんな時でも、分かりやすく余裕のある男がいた。
そう柴田だ。
その柴田は…
後ろにいる男子生徒に、勉強を教えている。
きっと自分のことはすでに終わってしまっていて、それくらい余裕があったのだろう。
そしてその生徒からは…
「は~、なるほど~…」
そんな言葉が聞こえてくる。
どうやら、教えるのも上手いらしい。
そして一つ気になるのは、先生が彼を注意しないことだ。
今彼がやっているのは、たぶんだが私語の範疇に入るだろう。
それなのに注意されない。
普通に考えるのなら、この光景はどう見てもおかしい。
もしかしたら…
先生が彼を注意する必要がないと思うくらいには、すでに先生からの信頼を勝ち取っているのかもしれない。
もしそうであるのなら、俺は彼が本当にすごいと思う。
そして後ろの彼に教え終わったら、前の生徒にも…
それが終わったら、左横にいる…
「良かったら、日谷さんも教えようか?」
彼女にも声をかけている。
ただ、彼女は少し異質…
いや実際には、どっちが異質なのかは分からないが…
「遠慮しとく…」
彼女は、柴田の申し出を断った。
それに、少しだけ"ざまぁ"と思ってしまう俺がいたが…
ただ、それでも柴田は爽やかな笑顔だった。
「そう…?教えてほしくなったら、また声かけてね。」
「ありがと…」
その余裕な姿は、かっこよすぎてすごく悔しい。
そして…
「ほんとすごいな…」
俺の口から、そう漏れてしまっていたらしい。
気づくと…
前にいた、中身のない…
残念なイケメンが、俺の方に振り返っていた。
「ほんとすごいよな。あいつ…」
燎斗からもそんな言葉…
その言葉に俺も…
「だよな…」
そう返す。
そしてまだ燎斗は話を続けたいみたいで…
「あいつの親、すごく勉強熱心らしいわ。」
「へー、そっか…」
だからあんなに勉強できるのか…
てか…
「なんで燎斗がそんなの知ってるんだ?」
「バイトの先輩から聞いた。」
「な、なるほど…」
それはまた…
「世間は狭いな…」
「ほんとな…」
「で、そんな物知りな燎斗君は終わったのか?」
当然それは、今俺たちがやらないといけない数学の問題のことだ。
そして俺の言葉を受けた燎斗は、視線を分かりやすくどこかへとやった。
「あ、あぁ、よ、余裕だな。」
この表情と、動揺した言葉…
できてないのが丸分かりだ。
「しゃーないな、教えてやるよ。」
「ほんとか!?さすが幸n…」
燎斗は、嬉しそうな顔をした。
だけど、俺たちはけっこうな声量で話をしてしまっていたらしく…
「矢代君と幸城君、私語は厳禁ですよ!」
先生からのお怒りが飛んできた。
「すみません」
「は~い。」
俺たちは謝る…
片方は謝ってないけど…
でも、しょうがないこと…
だけど俺たちの一つ席を挟んだ場所では、今も柴田レッスンが行われていて…
この扱いの差に、俺は少しやるせなさを感じた。
こんなことがありながらも…
今週最後の授業は、終わりへと向かった。




