4人と現国
長いです
気長に読んでください
燎斗:ヤクト
日谷冷夏:ひたにひな
清家:せいけ
5時間目の授業…
それは、現代文だった。
先生から配布されたプリント…
そこの内容を、クラス全員で1文ずつ音読していく。
1文読んでは次の人、1文読んでは次の人…
それを繰り返していき、全員が1周するとまた始めの人から…
これをきっと最後まで…
正直言って、楽しくない。
元々あんまり本を読む習慣がないせいかもしれないが、他の人が読んだところがどうも頭に入って来ない。
音という情報だけが、左耳から入って右耳へとに抜けて行くだけ…
それに他に何かすることもないから、他の人が読んでる時は文字を目で追うだけで妙に手持ち無沙汰…
すごく退屈だ。
それなのに自分の番がいつか回ってくるから、寝ることや内職…
他の授業の課題や予習などもできない。
そんな、どこか勿体なくて虚しい時間が過ぎていく。
ちなみにだが…
今教壇に立っている現代文の先生…
某有名大学を卒業しているらしい。
だから、先生の口癖が…
「こんなのも解けないようでは、私みたいに〇大いけませんよ?」
だったり…
「〇大と比べると、簡単ですね…」
「〇大は、ほんとうに素晴らしい場所で…」
「〇大は…」
いつもそんなことばっかり口にしてくる。
本当に、一々鬱陶…
ちょっと、ほんのちょっとだけ変わった先生だ。
俺は好き…
ってことはない、か…
けど、尊敬…
もしてはいないな…
でも、ちゃんと良い先生だとは思っている。
思っている…?
少なくとも鬱陶しいとかは思ってはいない、はず…
そんな感じの鬱陶しい先生の授業が進んでいく。
あっ、鬱陶しいって言っちゃった。
ところで今は、柴田が文章の音読している。
そして、柴田が読み終わると…
「キリがいいので、ここまでにしましょう。」
先生が、クラス全体にそう言ってきた。
もう終わり…?
俺はもう授業が終わりかと期待して、パッと時間を見る。
するとまだ…
今が、授業が始まってからだいたい20分くらいで…
まだ半分以上の時間が残っていた。
はぁ…
授業がまだ終わらない残念な気持ちと、次の休み時間までの待ち遠しい気持ちが心に湧いてくる。
つまんないな…
早く終わらないかな…
本当にこの言葉に尽きた。
でも俺はそんな気持ちをなんとか心の奥にしまって…
そして残りの時間のことに、思考を向けた。
まだ残りが30分くらい…
音読は先生の言葉通りきっと終わりだろうだから、今からはプリントにある問題とかかな…
俺がそんなことを思っていると、教壇にいた先生から指示が飛んできた。
「では皆さん、前から4人一組になるように机をくっつけてください。」
へっ…
めずらし…
俺は少し呆気にとられながらも、今も先生が飛ばしてくる指示に従って机をくっつけた。
そして机をくっつけた4人一組のグループのメンツ…
それは、俺と燎斗、日谷さんと清家さんだった。
何とも言えないメンツ…
俺と燎斗は仲は良い、だけど残りのメンツ…
日谷さんは…
というか二人とも、ほとんど話したことない。
授業で必要になったら話すくらい…
そしてそれは、女性同士にも言えてるみたいで…
だから…
「現国で、こういうの珍しいな…」
「ほんとな。というか、机くっつけるのいつぶりだ?」
こんな感じで、俺と燎斗には会話が生まれる。
だけど目の前の二人には会話がなく…
日谷さんは…
いや、清家さんもか…
二人して机を見ている。
日谷さんは、ただぼーっと…
清家さんは真剣そうに…
何か面白いものでも、机に書いてあるのかな…?
何が書いているんだろう…
ははは…
いや、気づいているから。
気まずくて…
気恥ずかしくて、ただただ俯いているのに…
正直、気まずい。
というか、普通に気まずい。
これ、俺と燎斗の会話が途切れたらし~んってなるやつじゃん。
くそ、空気重くなるやつじゃん。
あ~、やだ。
めっちゃやだ。
そしてそんな俺たち…
というかクラス全体に、先生が新しく指示を飛ばしてきた。
「まだ4月に入って中旬…
なので皆さん、まだ近くに座っている人とおしゃべりしたことがないという人もいると思います。
ということで、まず最初10分くらいかけて、班内で自己紹介をしてもらおうと思います。」
うわぁ…
「でも、ただ自己紹介をというのでは、何を話すのか難しいと思いますので、自分の印象…
自分自身で捉えている自分というのがどういう人間なのかを、説明してもらおうとと思います。」
自分の印象って…
うわ、めんどくさ…
「そしてそれと、班内での自己紹介が全員終わったら、
他のメンバー全員へ、初めて見た時でも今の印象でもいいので、その印象を伝えてあげてください。
では、皆さん始めてください。」
え、えぐい…
というか、ほんとめんどくさい。
でも、先生からの指示…
だから無視するというのはできなくて、俺たちはその指示に従わないといけない。
先生の言葉が終わったから、4人とも前を向くのを止めて正面…
班に向かって身体を向けている。
でも誰も何も言わない。
だからどんよりと重々しく、静かな空気だけがそこにある。
そして時間が経つにつれて、段々と言葉を口にすることですらダメなような雰囲気になっていく。
ほんと、気まずい…
そんな重い空気に当てられて、4人…
以前に、俺と燎斗ですら会話がない。
皆見ているのは、くっつけられた机の境目辺り…
ほんと嫌な時間…
だけど、このままこれが続くのは息苦し過ぎた。
「えっと…、誰からやる?」
俺はなんとか、そう言葉にした。
言葉…
音一つを発音するのでさえ重々しくて、自分でも分かるくらいに言葉が震えていた。
そしてそんな俺の言葉に燎斗が反応してくれた。
「幸成からで頼んだ。」
くっそ人任せな一言を…
ほんとこいつは…
いや、いいや。
実際に、俺からやるのが一番良さそうだし…
「えっと、じゃ―俺から…、幸城幸成です。」
これ、何言っていけばいいんだ…?
先生は印象くらいしか言ってないし、それだけでいいのか?
いいか…
でも、印象な…
「横にいる燎斗からはブサイクってよく言われるけど、自分ではフツメン…
妹がたまにイケメンって言ってくれるので、自分では密かにイケメンかも、と思っています。」
とりあえずは言い終わった。
少し心臓がバクバクしていて、自分が緊張していたのが分かる。
そしてなんとなく横を見ると…
燎斗が、こっちをニヤニヤ見てきていた。
「なんだ?」
燎斗の表情にイラっとしたから、俺は少し不機嫌な声色を混ぜた。
「いや、なんでも…」
燎斗は言葉では、何でもなさそうな感じだが…
今もニヤニヤとした表情的には、すごく何か言いたげだ。
そして…
「イケメンな…、頑張れよ?」
「何?頑張れって…」
「そりゃ…、すまん…」
ここでの謝り…
まるで、俺がどんだけ頑張っても…
「おい今、何で謝った!!」
「それは…、すまん…」
「また…、さっきからすげぇ傷つくんだけど!?めっちゃ傷つくんだけど!!すっごい傷つくんだけど!!!」
「すまん…」
燎斗は顔を俯かせて、口元を手で隠す。
声もしょんぼりした感じで…
まるでその姿は、何か悲しんでいるようだった。
ただ手で隠れていない部分…
目元や口角には、楽しそうなしわが出来ていて…
こいつの性格の悪さが見て取れた。
はぁ…
ツッコむのもめんどくさいし、いいや…
次行こ…
「燎斗、次頼んだ…」
「あー、はいはい。」
さっきまでのがやっぱり演技だったかのように、燎斗はケロッと顔を上げた。
こいつ、覚えてろよ…
そしてそんな俺の気も知らずに、燎斗が自己紹介を始めた。
「矢代燎斗です。で、印象か…、顔のせいか、なんかモテます。」
どうやら、これで終わりのようだ。
というか…
「自分で言うのか…」
「いや、モテるのは事実だからな。」
俺の言葉に、燎斗はやっぱり平然と返してくる。
これが、自分のことをイケメンと自負している男の言葉か…
さっさと…
「死ねばいいのに…」
「おい幸成、言葉に出てるからな。」
?
「何がだ…?」
「死ねって…」
「出てたか?ごめん、間違えたわ。」
「何がだよ!何を間違えたんだよ!!」
「えっ、あー…」
そんなの…
「死ねって口に出しちゃったことだけど…?」
俺の言葉に、燎斗は一瞬だけ目を見開いた。
「いや、心の中でも死ねとか思うなよ…」
「無理かな…。だって、たまに心の中でそう思ってるし…」
「思ってるのか…、思ってるのかよ、死ねって…」
燎斗は辛そうな顔をした。
だけどまぁ…
こんなやつ気にしなくてもいいだろう。
俺は、いつもよりも少しだけ目を見開かせている日谷さんの方に視線を向けてから…
「次、日谷さんお願いしてもいい?」
そう言った。
すると…
「えっ…」
日谷さんからは、びっくりしたような声…
「俺の扱いよ…」
燎斗からは、どことなく寂し気な呟きが聞こえてきた。
だから俺は…
「じゃー、日谷さんよろしくー。」
「えっ、うん…」
「幸成…、覚えてろよ…」
日谷さんの声と一緒に恨めしそうに言った何かが聞こえてきた気がしたけど、きっと気のせいだろう。
気のせい、気のせい。
「日谷冷夏。周りからは冷たいとか言われるから、きっとそうなんだと思う。」
日谷さんの自己紹介は短かった。
というか、反応しづらい。
自分のこと冷たいとか言う人に、どう反応すればいいんだよ…
うん、これは次だ…
それしかない。
「そうなんだね。じゃ―次、清家さんはお願いしていい?」
俺がそう言うと…
清家さんは不安そうな目をこっちに向けてきてから、すぐにコクっと頷いた。
「せ、清家せ、静奈です…。
お、お母さんからはひ、人見知りって言われるから、きっとそうなんだと思います…」
ん-、コメント難しい。
何返しても、ダメな気がする。
陽キャの人たちは、こういう時どう返してるんだろうか…
一度、ご教授していただきたい…
「そっか、そうなんだね。じゃー次は、みんなでみんなの印象を言い合おっか。じゃ―俺からでいい?」
自分から、先生の指示を口にした。
でも、やりたくない。
すごくやりたくない。
今でさえ気まずいのに、確実にもっと気まずくなる。
ほんとやりたくない。
でも先生は皆が自分の指示通りちゃんとやっているかチェックするために、今も見回っている。
だからさぼるなんてできそうにない。
やるしか…
やるしかないんだ。
そしてみんな俺からでいいっていうのを、頷きで肯定してきた。
だから俺はまず燎斗を見る。
燎斗の顔はやっぱりイケメンだ。
でも自分で自分のこと、イケメンって言うやつにイケメンって言うのは癪だ。
「顔嫌い。」
「はっ!?」
「じゃ―次は…」
「幸成、おm…」
「次は日谷さんだね。そうだな…」
「お~い幸成君。俺の声聞こえてる?聞こえてるよな?」
すごく、燎斗が邪魔してくる。
でも、無視でいいよね…?
「日谷さんは…」
俺がそう言葉にすると、燎斗から…
「こいつ…」
そんな呟きが聞こえてくる。
でも、無視でいいだろう。
俺は日谷さんを見る。
内面のことはあんまり分からないし、会話もほぼしたことないから言えることは外見だけ…
いや、言えることはある。
たぶん彼女は、燎斗のことが好き…
少なくとも、いいなくらいは思っている。
でも、燎斗からの反応は良くない。
それに燎斗のことを好きになるんて…
きっと、男を見る目がな…
運の無い女の子、そんな印象だ。
でもそれを口にするのは、さすがにない。
だから外見を…
造形は良く、きれいな顔をしている。
でも少し目がきつくて、表情が薄い…
硬いといった方がいいのかもしれない。
そんな印象…
でもそれをそのまま言葉にするのはまずい。
だから少し言い換えて…
「クールでかっこいい女性かな。
少し目つきはきついけど、それが大人びた印象とかっこよさを醸し出してる気がする…」
「そっか…」
俺の発言に、日谷さんはプイッと外へと視線を向けた。
ただその表情は悲しそうにも嬉しそうにも見えて、よくわからなかった。
そしてついでに横から…
「俺の時とは、えらい違い様な気が…」
「じゃ―最後は清家さんだね。」
燎斗…
そんなめんどくさい反応を、一々相手になんかしないからな。
そして清家さんか…
これは、美術の時のでいいかな…
その後、彼女からはすごく辛辣だった気がするけど…
「美術の授業でも言ったけど、優しい雰囲気で、周りを穏やかにしてくれそうかな。」
「ありがと…」
清家さんはやっぱり赤く、そして下に俯いた。
よし、これで俺の番は終わりか。
次は…
「じゃー燎斗、次頼むわ。」
「はいよ。」
燎斗はそう返事してから、こっちを見てくる。
ニヤニヤ顔で…
うわぁ、嫌な予感…
そしてその予感は、当たってしまったみたいで…
「幸成はブサイク。」
燎斗はそう言ってきた。
きっと、さっきまでのお返しだろう。
おこちゃまだな~…
俺はイラってする気持ちと子供を見ているような気持ちの二つで、燎斗を見つける。
すると燎斗は…
前者しか俺の顔から情報を読めなかったみたいで、ニヤニヤと嬉しそうな顔を向けてくる。
その顔を見てると、滑稽なものを見ている気持ちになった。
友人に向ける気持ちじゃない?
そんなの知らん!!!
次に燎斗は、日谷さんの方に顔を向ける。
そして渋く、難しい顔になっていく。
きっと、どう言うか悩ましいんだろう。
「美人だけど…」
そこまでの言葉に、日谷さんはぱーっと顔を明るくした。
したけど…
そこに、燎斗が残りの言葉を口にする。
「性格は悪そう…」
日谷さんは明るかった顔の形のまま…
顔色と顔の輝きを失うことで、茫然とした顔になった。
そして段々と、顔が俯いて行ってしょんぼりとしていく。
見ていて辛かった。
燎斗、どうして…
俺はそんな気持ちがあったから、燎斗の方に顔を向ける。
すると燎斗の表情には、申し訳なさそうな罪悪感のある顔がそこにあった。
ただすぐに、切り替わって…
清家さんがいる方に、燎斗は顔を向けた。
「清家は陰…、優しそう…、だな。」
”いん”…
こいつ今、絶対陰キャとか言いそうになってただろ…
やば…
こいつ、まじでやば…
ただ、清家さんは気づいていないみたいで…
「ありがと…」
いつも通りの反応をした。
まぁ、気づいてないならいっか。
いいのか…?
そして次は日谷さんなんだけど…
まだ燎斗の言葉に大ダメージを喰らっているみたいで、心ここにあらずだ。
小さく…
「私、性格悪そうなのかな…。別にそんなこと…」
そんな感じの言葉が聞こえてくる。
きっと、しばらくはダメそうだ。
ということで…
「清家さん、日谷さんがあれだから、次お願いしていい?」
俺は清家さんの視線を日谷さんへと誘導するように、分かりやすく一瞬だけ視線を動かした。
そしてそれに釣られて、清家さんの視線はちゃんと動いて…
そして納得してくれたみたいだ。
いつものように、コクと頷いた。
「えっと、幸城君は美術の時間にも言ったけど、か、顔はあれだけど優しそう…」
優しそうだけでもいいと思うけど、やっぱり顔までつけるのね…
しかも、あれって…
もう少し、言い方をどうにか…
そして横の燎斗からは、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
ほんと、他人事だと思いやがって…
そして次…
燎斗へと行くみたいで…
「や、矢代君は…、顔はかっこいいなって思う。」
顔…
やっぱり顔なのか…
顔のかっこよさなのか…
世の中、不平等すぎないか…?
別に顔なんて、顔なんて…
なんか悲しい気持ちになっている俺を、燎斗が軽く小突いてくる。
そしてそこにあるのは自慢げな顔…
腹が立った…
でも、まだ清家さんには続きがあるみたいで…
「でも、性格はすごく悪いなって思う…」
ほ~ん…
間違ってはない。
全然、間違ってはいない。
というか、すごく合ってる。
俺は今、燎斗がどんな顔をしているかを伺った。
そしたら…
ぽかーんと、呆気に取られているようなあほ面をしていた。
「まぁ、間違ってはないな。」
「はぁっ!?」
「いやだって、実際、燎斗は性格悪いし…」
「そ、そんなことないだろ…?」
ネタっぽい、俺じゃなくて…
ガチそうな…
いや、きっと清家さんからはガチのイメージなんだろう。
だからこそ、燎斗にもここまで響いているわけで…
「わ、私また、余計なこといちゃった?」
清家さんからは、あたふたしたそんな言葉が出てくる。
正直、この人も大概だと思う。
無自覚っぽいのが、余計に…
でも今は…
「いや、別に変なこと言ってないよ?」
俺のその言葉に、清家さんは緊張を胸に下ろして…
「ゆ、幸成!?」
そして燎斗は、ツッコミを入れてくる。
そんな燎斗に、俺はこう返した。
それは昼休み、こいつがいじってきたことの仕返し…
つまりは意趣返しで…
「清家さん、ほんと面白いよな。な、燎斗?」
燎斗も俺の意図にちゃんと気づいてくれたみたいで、彼の顔は苦々しい顔に移り変わっていった。
はは、いい気味。
もう少しだけ、現国の時間は続く。
2話に分けるべきだった気はしてます




