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美術と印象

 4時間目の授業…

 授業が始まってすぐ、前から順送りでモノが送られてくる。

 自分の分を受け取っては、残りを後ろへと…

 そして列の最後尾の俺…

 そこにいる俺にも、モノが送られてきた。

 そう、鏡が…


 今は美術の授業…

 どうやら、今回も鏡を使うことをするらしい。


 少しだけ補足を…

 この学校では、一年に一授業だけ芸術系の授業がある。

 去年は書道…

 そして今年は美術だ。

 その美術の授業が、今執り行われている。


 そして教室全体に鏡が回ると、美術の先生が声を響かせた。


 「皆さん全員に、鏡が回りましたね?

 今日皆さんにやってもらうのは、自画像です。

 先週にアナウンスをしていましたが、鉛筆、持ってきていますよね?

 今回も先週と同様に、皆さんに自画像を描いてもらいます。」


 この声に、少しだけ空気が重くなった気がした。

 顔をしかめた人…

 小さくため息をついた人…

 そう言う人たちが、ちらほらいたせいだろう。

 

 でも、先週と同じ内容…

 だから…

 俺の気持ちも、嫌な気分を表に出した人とそう変わりない。


 そしてそんなことは、当然先生は分かっていたのか…

 続きの言葉をしゃべり始めた。


 「先週と同じ内容…

 なので、皆さん少しげんなりしたかもしれません。

 ただ、少しだけ工夫を入れてみようと思っています。」


 その声に、みんな顔を上げた。

 その動きを、先生は小さく見渡してから…


 「横の席の人同士で、まず最初にお互いの印象を伝えあってもらいます。

 そしてその印象を元に自画像を描いてもらい、先週皆さんに描いてもらったのとどう変わったのか見比べてもらいます。」


 「「「「「ええーーー…」」」」」


 少しだけ、教室から非難の声が上がった。

 

 それもそのはず…

 隣同士…

 つまり、確定で異性がパートナー…


 これがもし、仲の良い友人なら別に大したことはない。

 それが異性であっても…


 ただ、仲の悪い人、ほぼ交流がない人たちは当然いる。

 だから非難の声が上がるのは、ある程度しょうがないこと…

 だけど先生は、そんな非難を受け流して…


 「では皆さん、横の人にその人の印象を伝えてあげてください。」


 横暴にも、そう言い放った。

 

 そして皆仕方なく…

 当然俺も、隣の人と迎え合わせになった。


 隣に身体を向けたその先、そこにいたのは…

 

 猫背なのか、自信のなさそうに少しだけ身体が前に傾いている少女…

 そしてその姿勢のせいで、弱弱しくて小さく見えてしまう。

 髪はショート…

 ただ前髪だけは長く、目元まで伸びている。

 それのせいで、目がはっきりとは見えない。


 俺はそんな少女…

 清家静奈さんと、美術の授業を頑張らないといけないらしい。

 まぁ、とりあえずは…


 「清家さんよろしく。」

 「よ、よ、ろしく…」


 挨拶で返って来た言葉…

 その言葉は、ぎりぎり聞き取れるくらいの小さくて弱弱しい声…

 そして、断続的で緊張の強い発声…


 それに対して俺は…

 大丈夫かな、この授業…

 それしか思えなかった。


 「とりあえず、お互いの印象を言う…?」

 (コクコク…)

 

 俺の言葉に清家さんは、同意の意を示していると思われる頷きで返してきてくれた。

 

 「じゃー先に、俺から清家さんの印象を伝えるのでいい?」

 (コクコク…)


 言葉消えるの早かったなー…

 俺はそんなことを思いながら、清家さんを観察する。

 そして彼女を見て出てきた言葉は…


 陰キャ…

 地味女…

 暗い…

 友達いなさそう…

 陰キャ…


 どれもまずかった…

 ひじょーーーに、まずかった。

 言い逃れなんてできないくらいに…

 しかも、同じの二回出たような…

 

 これはあれだな…

 友人の悪いところがうつったせいだな。

 そうに違いない。

 俺は元々すごく良い奴だから、俺をこんなにした燎斗が悪い。

 きっと…

 いや、絶対にそうだ。

 絶対に…

 

 俺は心でそんな言い訳をしながら、清家さんを見つめる。

 けどやっぱり、一向にマシなやつが出てこない。


 だって新しく出てきたのは…

 幸薄…

 ダメだダメだ。

 こんなの絶対に言えるか…

 何か、何か…


 必死に考える俺…

 そしてそんな考え続ける俺に少し焦れたのか…

 さっきまで全く合ってなかった目で、清家さんが不安そうに見つめてきた。


 そして段々と悲しそうに…

 顔からより、主張と生気が消えていく。

 このままだとより影が…

 彼女の幸せな未来が薄くなってしまいそうだった。

 

 言い換えるしかない。

 思ったことを、めちゃくちゃいい感じに言い換えるしか…

 

 えっと…

 「すごく優しい雰囲気で、一緒にいてもずっと穏やかでいれそうかな…」


 がんばったと思う…

 内容がまったくないのは自分でも分かってる。

 でも、頑張ったと思う。

 本当に頑張ったと思う…


 俺は俺自身を褒めたたえた。

 だって、それくらい頑張ったんだから…


 そして、そんな俺のしょーもない頑張りが実ったのか…

 まるでプシューと音が聞こえてきそうなくらい、清家さんの顔は赤くなっていった。

 さらには俯いて、猫背と相まってより小さく…

 その姿はまるで、ハリネズミだった。


 いや、ハリネズミは違うか…

 清家さんから、外敵への攻撃性能はどう見ても見受けられないし…

 たぶんこれ…

 ダンゴムシ、かな…

 そうだな、それだな。


 だって…

 目の前で、丸まって小さくなっている清家さん…

 それは弱弱しく貧弱で、少しの刺激ですぐに丸くなるダンゴムシと似ていて…

 俺には、二つの存在の姿が重なって見えた。

 

 でもこれ…

 なかなかに失礼な考えだと、自分ですらそう思った。

 

 でもまぁ…

 言葉に出してないからセーフだよな…

 

 俺は小さな罪悪感にそんな言い訳をしながら、清家さんが復活するのを待った。

 



 そして、赤くなった清家さんを待つこと5分くらい…

 それくらいしてようやく、清家さんは復活した。


 そしてそんな清家さんはすぐ…

 きっと俺の印象を言うため、じっと見つめてくる。


 見つめてくる清家さんの瞳…

 その瞳をいつも隠している髪は、今もその役割をきっちりこなして彼女の目を隠している。

 でも、彼女が動かずにじっと俺をみつめてくること…

 そのことで髪が透けて、彼女の瞳の形相をある程度捉えられているように感じた。

 

 そしてその瞳は…

 内気で自信のなさそうな彼女にはそぐわない、ぱっちりと大きな目…

 そしてその大きな目を俺に向けて、真剣に見つめてきていた。


 猫みたいな、丸くて小さな顔…

 そして、大きくてぱっちりとした瞳…

 もしかして彼女…

 実は顔が良いのでは…?

 

 印象を言うため、じっと俺を見つめてきている彼女に対して…

 邪ながらも、俺はそう思ってしまった。


 


 少しの間、彼女がじっと俺を見てくる時間が続いた。

 だけど彼女の中で意見が纏まったのか、また彼女はうつむいた。


 「清家さんどー?印象固まった?」

 (コクコク…)


 きっと肯定の意味を込めて、彼女は頷いてきた。


 「そっか、どんな感じ…?」

 

 俺のその言葉に、清家さんはやっぱり俯いたまま…

 そして状態のまま…


 「か、顔は…、あ、あんまり良くはないけど、よ、良い人…、かな…」


 小さな声と、途切れ途切れの言葉…

 俺をその言葉を、必死に聞いた。

 そしてその頑張りを後悔した。


 はっ…!?

 今なんて…?


 聞き間違いじゃなかったら…

 顔はあんまり良くはないけど、良い人…

 こいつ今、そう言ったよな…

 言ったよな…


 目の前の内気の彼女から出てくるとは、思えない言葉…

 その言葉に、俺が呆気に取られていると…


 「ははは…、幸成言われてやんの!!!」


 向き的には、今は横にいる燎斗からそんな楽しそうな声が聞こえてきた。

 

 「はぁ゛っ!?」

 「いやすまん…。ププ…」


 言葉では謝りながらも、燎斗はずっと笑ってくる。

 「死ねよ…」

 俺は心の中の鬱憤をその言葉に表す。

 けど燎斗は俺のそんな返しが面白いらしくて、より笑ってくる。

 

 こいつ、マジで正確悪いな…

 俺はそんな気持ちを頑張って瞳に込めて、燎斗を見つめる。

 すると、その視線に燎斗は気づいたらしく…


 「いやいや、言い出したのは俺じゃなくて…」

 燎斗は機嫌の良さそうな声でそう言いながら…

 視線を俺から、俺とは違う別のところに動かす。

 それに釣られて、俺も燎斗の視線の先…

 清家さんへと視線を戻した。


 そして俺たちの視線を受けた清家さんは、バッと下に俯いてから…

 「ご、ごめんなさい…。わ、私…、む、昔から、嘘つけなくて…」

 謝っているようで、全く謝ってない言葉を口にした。

 

 そして清家さんの言葉を受けて燎斗が…

 「ブッ…」

 必死に。笑いをこらえるような音を漏らす。

 でもすぐ…

 「すまん、ほんとすまん…」

 一応謝ってくる。

 でもその姿は、笑いながらで全く反省の色なんて見えない。


 いや、分かってるんだ。

 一々、燎斗が感には触るけど、今回の件で悪いのは…


 俺は燎斗から視線を外して、また清家さんを見る。

 その清家さんは、俺が視線を向けたらまたすぐに俯く。


 そんな彼女の姿は、小さくて弱い…

 俺が何か言ったら、すぐに泣き出してしまいそうで…

 そしてもしそんな未来が起こると、悪者にされるのは確実に俺で…

 そんな彼女が、俺はすごくズルいと思ってしまった。


 しかも俺はけっこう頑張って、まだ良い感じに彼女の印象を言ったのに…

 なのに返って来たのが、これという…

 

 しかも、これを元に自画像を描く…?

 そんなの、描けるかっ!!!

 よりブサイクになんて、描きたくねぇわ!!!!


 声に出して言えない俺は、心の中でそう強く叫んだ。



 

 そしてその頃…

 他の組では…


 一組目…


 「星はな、すごく明るい笑顔かな。」

 「そっか…。師王、ありがと…」


 そんなの、誰でも言えるわ!!!

 柴田、そこ変われや!!!


 二組目…

 俺の前の組では…

 

 燎斗は楽しそうにこっちに絡んで来てる。

 だけど日谷さんは…

 すごく悲しそうな表情で、一人寂しく自画像を描いていた。


 コメントしづらい…

 とりあえず、何があったの…


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