閑話 星々が紡ぐ夜のものがたり
むかしむかし――
まだ世界がいまより若く、
夜空が人のすぐそばにあったころのお話。
空には、いまよりもたくさんの星がありました。
星々はただ光るだけではなく、静かに世界を見守り、
人々の歩んだ道を覚えていたといわれています。
星は語りません。
けれど、すべてを見ていました。
喜びも、悲しみも、祈りも。
小さな命が生まれ、やがて土へ帰るその瞬間まで。
ある夜のこと。
ひとつの星が、ぽつりとつぶやきました。
――人の記憶は、あまりにも儚い。
それを聞いた別の星が、やさしく瞬きます。
――だからこそ、私たちが覚えていればよい。
星々は長いあいだ考えました。
世界のすべてを、どうすれば守れるのかと。
そしてやがて、ひとつの答えにたどり着きました。
――星の記憶を、地上へ託そう。
その夜、ひとすじの光が空を渡りました。
流れ星のように見えましたが、
それはただの光ではありません。
星々が紡いだ“記憶”でした。
光は長い旅をして、やがて静かな森へ落ちました。
深い森の奥、朝露がきらめく草原の真ん中に。
そこに、小さな命が眠っていました。
名もない少女です。
星の光は、そっとその胸へ降りていきました。
まるで帰る場所を知っていたかのように。
すると、不思議なことが起こりました。
少女の胸の奥で、
小さな光が、ぽうっと灯ったのです。
それは星のかけら。
星々が守り続けてきた、遠い記憶の種でした。
けれど星は知っていました。
この光は、祝福であると同時に、
大きな運命でもあるということを。
星の記憶を宿す者は、
いつか世界の夜に向き合わなければならない。
それでも星々は願いました。
――どうか、この光が
闇ではなく、導きになりますように。
風が吹きました。
朝露が草を滑り、
小さな光が、静かに揺れます。
そして星々は、
もう一度だけ、少女へささやきました。
――いつか思い出すだろう。
おまえが何者であるかを。
けれど、それはまだ先のお話。
今はただ、
星々が紡いだ、ひとつの夜のものがたり。
遠い空の上で、
星は今日も静かに瞬いています。
すべてを見守りながら。
そして――
その光を宿した少女が、目を覚ます日を待ちながら。




