第30話 星を継ぐもの
炎の消えた村は、しばらくざわめきに包まれていた。
けれど、夜が更ける頃には静けさが戻り、風の音だけが耳に残った。
エルフィナは長老の家の寝台で目を覚ました。
天井の梁の隙間から、淡い月光が差し込んでいる。
隣ではリュシオンが椅子に腰かけ、心配そうに彼女を見つめていた。
「……気がついたか」
その声を聞いて、エルフィナはゆっくりと体を起こす。
身体の奥に、まだ冷たい余韻が残っていた。
「ごめんなさい……私、何かを……」
「無理に話さなくていい」
リュシオンは首を振った。
「火を消したのは、きっと君だ。でも、誰も傷つかなかった。……それだけで十分だよ」
その言葉に、エルフィナの胸がきゅっと締めつけられる。
恐れよりも、どうしようもない“寂しさ”が押し寄せていた。
(どうして、私が……)
その答えを求めるように、彼女は長老の方へ目を向けた。
炉の火が、静かにぱちぱちと音を立てている。
長老はその前に座り、杖を両手で支えながら言った。
「――星の光が、お前を選んだのじゃろう」
「え……?」
エルフィナが息をのむ。
長老はゆっくりと顔を上げ、炎越しに彼女を見つめた。
その眼差しは、まるで遠い過去を見透かすようだった。
「星の魔法は、昔からこの地に伝わる力じゃ。
夜空に流れる光は、ただの飾りではない。
星は記憶を持ち、命の循環を見守っておる」
「記憶……?」
「そうじゃ。星々はこの世界の“記録者”であり、“導き手”でもある。
その力を受け継ぐ者を、人は“星継ぎ”と呼んだ。
――そして、今夜の出来事が示す通り、その力が再び目覚めた」
エルフィナの胸が小さく脈打つ。
自分の中に、星の記憶が……?
信じられない気持ちと、どこか懐かしい感覚が交錯する。
「でも、私は……そんなもの、知りません」
「知らぬのも当然じゃ。お前の記憶は、まだ封じられておるからの」
長老の言葉に、リュシオンが息を呑んだ。
「封じられている? それは、誰が……?」
「……それを知るには、まだ早い」
長老はゆっくりと立ち上がり、窓の外に目をやる。
夜空には、流星がひとすじ、尾を引いて消えていった。
「覚えておくがよい、エルフィナ。
星の力は、望まぬ者にも訪れる。
だが、それは災いではない――導きの始まりじゃ」
言葉の意味をすぐには理解できなかった。
けれど、エルフィナの胸の奥で、微かな光がふたたび揺れた。
それは恐怖ではなく、静かな確信のようだった。
自分の中の“何か”が、確かに動き始めている。
リュシオンが彼女の肩にそっと手を置いた。
「……大丈夫。君がどんな力を持っていても、僕は君を信じる」
その言葉に、エルフィナは小さく微笑んだ。
「ありがとう……リュシオン」
長老は二人を見つめ、炉の火に手をかざした。
炎が一瞬だけ青く輝き、夜の静寂を包み込む。
「星は語らぬが、必ず見ておる。
エルフィナよ――その光を恐れるでない。
やがて、真実の夜が訪れたとき、お前の名が意味を成すだろう」
その言葉は、祝福にも予言にも似ていた。
そしてエルフィナの胸に、静かな光が宿った。
それは、星の記憶のように――
消えることのない輝きだった。




