表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れる魔法と星の記憶  作者: 咲夜ソラ
第1章 世界への旅立ち
3/24

第2話 古書のささやき


朝露がまだ葉の先に残る時間、少女は古びた書物を抱えたまま、小屋のテーブルに座っていた。



昨夜、夢の中から現れたその本は、重厚な革表紙に銀の糸で魔法陣が刻まれており、ただの魔導書とは違う気配を纏っている。ページをめくるたび、淡い光がふわりと立ち上がり、指先をくすぐった。


「これは……わたしの記憶を導くって……?」


少女は静かに呟いた。声に出してみても、自分でもまだ信じ切れていない。


ページをめくると、見知らぬ言語と、紋様に似た図形、魔法陣が描かれていた。それらはどこか懐かしい。意味も知らぬはずの文字が、なぜか頭の中で自然に響き、理解できてしまう。


「読める……?」


書かれていたのは、世界の理、魔法の起源、そして“魂の記憶”についての記述だった。


“魂は記憶する。肉体が滅びようとも、深く刻まれた想いは、時を超え、巡りゆく”


その言葉を見つけた瞬間、少女の胸がふっと締め付けられた。


「想い……?」


そのとき、小さな羽音とともに、見慣れた妖精たちが窓辺から入り込んできた。



「おはよう、森の少女」


一番近くにいた淡い水色の妖精が、にこりと笑って舞い降りる。彼女――「リン」と名乗るその妖精は、少女の傍にいつも寄り添っていた。



「その本、特別なものね。とても、古い記憶の匂いがする」


「記憶の匂い?」


少女は目を見開いた。


「そう。森に流れる風や草のささやきには、いつも過去が宿っているの。でも、その本からはもっと強く、何かを伝えようとする力を感じるの」



リンは書物の上にそっと手をかざすと、小さな光の粒が立ち昇り、空中に魔法陣の幻が浮かび上がった。


「この印……あなたの腕の紋様に似ている気がする」


「えっ……」


少女は慌てて袖をまくる。そこには、あの日見つけた緑と金の紋様が、微かに光を宿して浮かんでいた。


「これは……」


「あなたが、どこかで受け継いだものだよ。血ではなく、魂が選んだ証」


リンの言葉は、まるで風が囁くようだった。



その後も少女は日々、書物を読み進め、森の自然と語らいながら、魔法の練習を続けていった。魔法は言葉よりも感覚で覚えるものだった。花を咲かせ、風を呼び、火を灯す。それらが彼女には驚くほど自然にできた。


けれど、魔法の力を使うたびに、胸の奥がわずかに痛んだ。


それは、誰かの名前を呼ぶ声。忘れてはいけない何かを、ずっと置き去りにしているような、そんな気配だった。


「わたしは……何を思い出さなきゃいけないの……?」


風が木々を揺らす音の中で、少女は小さく問いかけた。


すると、リンがふと浮かび上がり、そっと少女の肩に乗った。



「それは、あなた自身が選ぶ道。けれど、近いうちに“誰か”があなたを見つけるわ。そのとき、世界はまた動き出す」



「……誰か?」


「ええ。森の外からやってくる。あなたの魂が、待ち続けてきた人よ」



少女は何も言えなかった。ただ、小さく息をのむだけだった。


そうして、また一日が終わり、夜の帳が森に降りる。少女は静かに魔法陣の光を見つめながら、知らぬ記憶の扉の前に立ち尽くしていた。



その先に何があるのか――まだ、誰も知らない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ