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眠れる魔法と星の記憶  作者: 咲夜ソラ
第1章 世界への旅立ち
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第1話 森に眠る少女

朝の光が、森を優しく包んでいた。高く伸びた木々の合間から差し込む陽光が、草露にきらめきを宿し、鳥たちが囁きあうようにさえずっている。



少女は、その森の中で目を覚ました。冷たい地面、濡れた苔の感触、頭上に広がる葉の天蓋。見知らぬ場所。けれど、恐怖はなかった。ただ、空っぽの胸の奥で静かに波打つ何かを感じていた。


名前が――思い出せない。なぜここにいるのかも、自分が誰なのかさえも。


少女はふらりと立ち上がる。白いワンピースが朝露に濡れていた。足元には踏み跡もなく、誰かと一緒だった気配もない。ただ、胸の奥には不思議な感覚が残っていた。「ここに来た」ではなく、「ここにあった」。まるで最初からこの森の一部だったような錯覚。



やがて彼女は、小さな小屋を見つけた。森の奥、苔むした石畳を踏み分けた先に、それはぽつんと佇んでいた。木と石でできた古びた造りだが、どこか温かさを感じさせた。なぜか――懐かしかった。



扉を開けると、そこには簡素な家具と、魔法道具のようなものが整然と並んでいた。瓶に詰められた薬草、輝く石のかけら、不思議な紋章が描かれた本――どれも見たことがないはずなのに、触れれば使い方が自然と頭に浮かんだ。



「……私、魔法が使えるの?」



ぽつりと呟いた声が、小屋の中で寂しげに響いた。言葉の意味をすぐに理解できたわけではなかったが、胸の奥に感じるその力に、少女は確信を持っていた。


この力は、間違いなく自分のものだと。


その日から、少女は森の中でひとりの生活を始めた。


水を汲み、木の実を集め、妖精のような小さな存在と会話を交わす日々。妖精たちは彼女の友であり、彼女の魔法の力に反応してくれる。森の中のすべての生き物たちが、まるで彼女を知っているかのように寄り添ってくれる。


まるでこの森がーー彼女のすべてを受け入れてくれているようだった。


その中でも特に、妖精たちとは親しく過ごしていた。


彼女の周りには、花が咲き、草木が優しく揺れ、動物たちも彼女に寄り添うように現れる。

妖精たちは、どこか人間に似た顔を持ちながらも、微細な羽根が舞うような姿をしていた。


その姿を見ると、少女はふと、自分も何かに導かれるような気がしてならなかった。


ある日、いつものように妖精たちと話しながら森を歩いていた少女は、ふと目に留まるものを見つけた。


それは、彼女の腕に刻まれた奇妙な紋様だった。鮮やかな緑と金色が交わる美しい模様が、腕を縁取っていた。


まるで命を持つように微かに光っているようにも見えたが、彼女はそれを不思議とは感じなかった。


「これ、なんだろう?」


思わず口にしてしまった言葉に、妖精たちは一斉に反応した。その目が少女の腕に集まり、みんなが何かを言いたそうに顔を寄せてきた。


「それは……あなたの力の証」


ひとりの妖精が、静かに言った。その声は、まるで森の風のようにささやかで、どこか遠くから聞こえてくるようだった。


「私の力の証?」


少女は腕をじっと見つめ、もう一度その紋様に触れた。何かが心の中でざわめくが、彼女はその答えをまだ見つけられなかった。


その後も、少女は自分の力について探り続けた。魔法の本や道具を使い、日々の生活に魔法を取り入れていった。自然との調和、妖精たちとのやり取り、そして時折感じる力の高まり。すべてが繋がっているような気がしてならなかった。



だが、そんな日常が続く中で、少女の心には次第に疑問が湧いてきた。この力はどこから来たのか。なぜ自分はここにいるのか。そして、この紋様が示すものは――。




その夜、再び夢を見た。今度は前回よりも鮮明だった。炎に包まれた塔、悲鳴、誰かの名を呼ぶ声、そして崩れゆく空。


それはまるで過去の記憶のように、何度も何度も繰り返し流れた。



「――逃げて……!」



目を覚ましたとき、少女の手には古びた書物が握られていた。それは彼女の小屋にはなかったもの。どこから来たのかもわからない。


ただ、その表紙には鮮やかな魔法陣が描かれており、少女の心に響くような感覚があった。


「この本は、お前の記憶を導く」


その言葉が、少女の心に深く刻まれた。


その日から、少女は新たな決意を持って歩み始める。彼女の中に秘められた力、そしてその力の起源を知るために。


すべての答えを見つけるために。

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