17.気が早いと言われても子離れは憂鬱
「強くなるにあたって、まずは自己を知り改善すべき点を見つけること。
今ので君たちは自己を知り、改善点も見えたことだろう」
マーシェとテッドは自分が突っ込んで行くことに一生懸命になりすぎて周りが見えていない。
アーキスはその点周りをよく見ていたが、予期せぬ出来事が起きた時の臨機応変さが足りていない。
ジェイクとキイラは動けないという戦闘時において致命的な状態に陥った。こればっかしは戦闘に慣れて身体を動かせるようにしていくしかない。
課題は多いが最初のうちはこんなものだ。
「俺、全然ダメだった...」
「僕なんかあのままだったら怪我してたよ。......強くなりたいってのに情けない」
「......」
「マーシェ、怪我は?」
「全然平気! マーシェが丈夫なの知ってるでしょ?」
方や盛大に落ち込み、方や安否確認と和気あいあいとしている。
温度差がすごい。
「ゼノ様、今のを見られていかがでしたか?
このまま俺のやり方で問題なければ彼らを請け負います」
「問題など何もないぞ。
実に素晴らしかった。流石に教え慣れているな」
「ありがとうございます。
では君たちは明日から他の者たちに混じって訓練に参加するように。
今日はもう休み、反省と自分の獲物を何にするか考えておくように。
これといって思い浮かぶ物がなければ武器庫を見に行くといい」
そう言ってハミルトはまた全体の方へ戻って行った。
子供たちの方を見ると反省会を開いていた。
これから切磋琢磨する仲間同士だ。今後彼らは互いの良い点悪い点を指摘し合って成長していくだろう。
自分にはそんな存在がいなかったので羨ましい気持ち半分、微笑ましく見守っていると離れたところから子供たちを見守っていたファルルがやって来た。
「ゼノ様、今お時間よろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。何だ?」
するとファルルはいい笑顔で腕を伸ばして抱いていたシアをこちらへと近づけた。
「せっかく外にいるのですから、シア様に高い高いをしてあげてみてはいかがでしょう!」
「!」
迂闊だったと思っても後の祭り。
俺はすでに時間があると答えてしまった手前断りにくい。
NOと言えない前世の性格がこんなところで邪魔をしてくるとは。
「そうだな...じゃあ、シアと遊ぼうかな...うん。
よろしく頼むよ、ファルル」
「はい!
では、シア様はまだ幼いのでシア様だけを飛ばすよりは一緒に飛んであげた方がよろしいでしょう。
大きくなれば一人で飛ばさせ、空を飛んでる魔物を倒して空中戦に慣れさすのですが、今回はゼノ様が抱っこしたまま浮遊することに慣れるところから始めましょう」
「うむ...」
シアを見れば本人はきょとんと俺を見上げている。
今回こそ泣いてしまうだろうか。
浮遊魔法を自身にかけ、シアに防御を張る。
今回は俺が抱いたままなので防御はそこまでしなくても助けられるからいいだろう。
後はシアが高所恐怖症にならないことだけを祈る。
「では少しだけ飛んでくるが、どれくらいがいいだろうか」
「そうですね、せっかくですからシア様に雲の上の景色を見させてあげるのはどうですか?
まだ見たことありませんからきっと喜ぶと思います」
雲の上?
ちょっと想定していなかった返事が来たぞ。
「そっ、それが子育てでの通常なのだろうか?」
「まあ、最初ですからこんなくらいでしょうか。
教育熱心なご家庭とかですと最初から天体観測も兼ねてさらに上まで行きますね」
この世界にオゾン層があるのかは分からないけど、その高さも突破して大気圏まで突入するのか~。
雲の上って大分優しいんだなぁ~。
......現実逃避したい。
やっぱり異世界流の子育てについていけない。
「では行ってくる」
「はい、ではごゆっくり~」
ファルルが手を振り、非常にいい笑顔で見送ってくれる。
シアをしっかりと抱き直して俺は自主的空の旅へと向かった。
足元がふわりと地から離れ、徐々に加速させて行く。いきなり雲の上に行く前にゆっくりと途中途中シアの様子を見ながらだ。
泣いたら即帰ろう。
城の全貌を上から見下ろせる位の高さで一度留まる。
「んだぁ~! うあ~、あ!」
さっきまで自分がいた場所だと理解しているのか、興奮した様子で城を指差している。
「そうだ、あれがシアの住んでいる場所だ」
「だー!」
「あれは冥闇の森、あっちには人族...俺の故郷であり、シアの生まれた場所があるな」
気になるものがたくさんあるのかシアは次々と指差していく。
言葉はまだ理解できないだろうが、指の先にあるものを教えていけば嬉しそうにしている。
そしてもぞもぞと腕の中で身動きし、俺の後ろを指差し一層はしゃいだ声を上げた。
「ん? 他に気になるものでもあったか?
どれどれ、あれはな...」
第二弾、カインの案内による空の旅御一行。
俺たちに気がついたのかあちらから元気よく手を振ってくる。
「うん、シアとおんなじ空飛んでるな~、一緒で嬉しいか~、そうかそうか良かったな~」
仲間がいて喜ぶシアには悪いが、あれは教育上よろしいのかぜひファルルに問うてみたい。
さ、あいつらが見えないところへさっさと行こ。
俺はこの城を覆う黒い雲へと突っ込み、さらに暗い雲の中を移動する。
暗いぐらいではシアも平気そうで、むしろ不思議そうに口をぽかんと開けたままだ。
「もうすぐ雲の上に着くぞ」
シアには少し眩しいかもしれないと思いシアの頭上へ少し外套を引き寄せる。
久しぶりの太陽だ。
雲の上には眩く光る太陽があり、俺たちに強い光が降り注ぐ。
「ぁぅ...」
感動したように、瞬きすら忘れてシアは太陽をまっすぐ見つめていた。
今はまだ幼いため俺の手元で育てているが、シアにはやはり魔界よりも太陽の降り注ぐ人族の国の方が良いのだろうか。
この子がいつか自ら俺の元を離れて行くまで、それまではしっかり育て上げてあげないとな。
この子を育てると決めてから、ようやく俺は親であることに自覚を持てた。
「師匠たちの分までシアの幸せを俺が守ろう」
腕の中の温もりをしっかりと抱きしめて、俺は再度決意するのだった。




