16.喧嘩するほど仲がいいの当人たちは否定するもの
「それにしても、今日はいい天気だなぁ...」
カインに次々と強制空中散歩に連れて行かれる新人たちを眺めながら子供たちを待つ。
空はいつも通り曇天に覆われているが、普段の部下たちが起こす騒ぎで雷や霰、時々業火が降ってくるため数人が宙に舞うくらいなら本日は実に平和なお天気なのである。
この前の騒ぎはシチューのライスを一つの皿に入れるか、皿を分けるかでの言い争いがヒートアップして業火と氷柱が降るハメになった。
そしてそこに第三勢力のパン派が加わり三つ巴の戦いに、なる前に満面の笑みを浮かべた(ブチ切れ)チェスターがやってきて全員を沈めたあと、罰として二択を与えていた。
味覚音痴代表エイブラム流ホイップクリームとストロベリージャムを添えてシチューを食べるか、マッドサイエンティストのマーシーの実験台となるかである。
どっちも限りなく死刑に近い宣告だ。
「お待たせしました!」
子供たちが全員参加ということでファルルもシアを抱えてやってきた。
子供たちは全員緊張しながらも好奇心が隠しきれていない。
「アーキスとマーシェはハミルトも知っているから、そこの三人はまず挨拶だな」
まず体格のいい黒いアザ持ちの子が先に挨拶をする。
「俺はテッド、こいつはジェイクで、こっちがキイラ。
俺ら三人強くなりたくてここに来ました。よろしくお願いします。
俺は腕っぷしには多少自信があります! ジェイクは冷静で頭がいくって、キイラは無口であんま喋んないけど気遣い上手です」
「どうもジェイクです」
「......」
ジェイクとキイラが軽く頭を下げたのを確認し、今度はハミルトの紹介にうつる。
「こっちが君たちを鍛えてくれるハミルトだ。
真面目で堅物なやつだから最初は取っ付きにくいかもしれないが、面倒見がいいから安心して頼るといい」
「ハミルトって、あの!?」
アーキスが驚いた声を出す。
あの!? 何だ?!
カインだけじゃなくハミルトも有名なのか?
「軍神ハミルト様だ!!」
続いてマーシェもはしゃいだ声を上げる。
「なに!? ハミルトそんな風に呼ばれていたのか!」
「いえ、俺も初めて呼ばれました」
ハミルトは僅かに目を開いて軽く首を振る。
ハミルトの性格上、自分からそのように名乗るものでもない。カインのように自伝を出すのはもっとあり得ないしな。
「それならオレが自分のを出すついでにお前の分の本も出しといてやったぜ! 感謝しろよ、ハミルト!
ゼノ様、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。
もしや、このガキ...んんッ、お子様たちを鍛えればよろしいので? それならこのカインにお任せください!!! 必ずやゼノ様の配下に相応しい者に仕立て上げて見せましょう!!」
カインの仕業なら納得だ。
意外と文才があるのか、本を出すにあたって文を書くことなど苦手そうなのにマメなことだ。
「この子たちの面倒ならハミルトに頼んだばかりだから、カインには引き続きある程度基礎が出来ている者たちへ実戦経験を積ませてやって欲しい。
あと、本人の許可なく伝記を出すのもどうかと思うが、なぜそんなことを?」
ハミルトに対抗心を燃やしているカインがわざわざ相手の知名度を上げるなんて、そんな面倒なことをするだろうか。
「知名度が上がればオレかハミルト目当てでここに入る者も増えるでしょう。
それで少しでも骨のあるやつが集まればと思いまして」
「そんな殊勝な考えを君が持っていたとは知らなかったな。
見直した。カイン、今まで見くびっていてすまなかった」
「うるせえよ。
オマエ目当てで来たやつも本物のオレを見ればオレのファンになること間違いなし!
オマエのファンを根こそぎ奪ってやるぜ!!」
「やはりそっちが本音か。俺の知っている単純な君のままで安心した」
それには俺も同意だ。
さっきの言い分はチェスターあたりの入知恵だろう。
今言ったことの方がカインらしい理由だと思う。
「やっぱオマエ喧嘩売ってんだろ」
「喧嘩を売ってなどいない。そんな暇があったら鍛錬をしている」
「オレの相手する時間がもったいねえって言うのかあ?」
「二人とも落ち着け」
「俺は落ち着いてます」
「オレだけが落ち着いてないって言いてえのか!
ちっ! 今回はゼノ様に免じて見逃してやるよ」
突然入り込んで来たカインは去るときもあっさりと離れ、また他の者たちに絡みに行った。
自分と正反対だからなのか昔から二人は馬が合わない。
だが良きライバルでありお互いの実力は認めあっているようで、それぞれ相手の戦い方から学ぶことも多いらしい。よく喧嘩という名の手合わせをしている。
ハミルトが子供たちに向き合う。
ようやく特訓が始まるようだ。
「まずは軽く手合わせをして君たちの今の実力を見よう。
では時間が惜しいからな。全員一斉に来るといい」
「はい。
よろしくお願いします」
「よっし!!」
「「「......」」」
アーキスとマーシェはやる気十分。
他三人は少し気圧され気味といったところか。
まず真っ先にマーシェがハミルトへと向かって行く。
ハミルトは軽くいなすが、マーシェは少しもめげずにタフに何度も立ち向かう。
攻撃は単調だが、負けん気は人一倍強いようだ。
正面から突っ込んでいくマーシェと、その合間から攻撃を仕掛けて行き、常にハミルトの死角に入るように移動するアーキス。
アーキスはマーシェを利用しての立ち回りが特に秀でている。
マーシェのフォローもしつつ自身もチャンスがあれば攻撃を仕掛けるが、接近戦は苦手なようだ。
そんな先二人の様子に怖気付いた様子の三人に声をかける。
「君たちは行かなくていいのか?
ここで踏み出さないようなら今までと何も変わらない。
だがそれが君たちの選んだ選択というのならそれでもいいがな」
「やる! 今までと同じはいやだ!」
「そうだ、変わるんだ...!」
「......!
三人も同時に駆け出す。
魔族の子たちは幼い頃より同年代の子と遊んだり、親から扱かれたりと慣れていることが多い。
それに比べると人族は自ら騎士や冒険者を幼い頃より目指していない限り戦いとは無縁だ。動きは完全に素人といったところだが、逃げ回っていた経験からか身のこなし、特に避けることに対しては比較的上手く動けている。
「今後の成長が楽しみな五人だな」
それまで攻撃を流すだけだったハミルトの動きが変わる。
マーシェの攻撃を交わしながら力を横に受け流す。そのことで同じようにハミルトへと向かって行ったテッドとマーシェがぶつかり合い転がっていった。
そしてそれにより連携が乱れ、アーキスの雷魔法がジェイクとキイラの方へ向かっていく。魔法攻撃が向かって行くが完全にジェイクとキイラは固まってしまっている。
俺が障壁を出そうとしていたところで、ハミルトは今まで使わずに腰に刺してあった剣を取り出してジェイクとキイラの方へ投げた。
剣は二人の目の前へと突き刺さり、彼らに攻撃が当たる前に雷は剣へと引き寄せられて弾ける。
剣を避雷針にすることでハミルトは二人に攻撃が当たることを避けたのだった。
「大体君たちの実力は把握した。
ご苦労だったな」
一瞬の出来事に方然とする子供たちを見て、ハミルトはそう告げた。
これにて子供たちの適性試験が完了したのだった。




