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転生魔王は勇者ああああを子育て中  作者: リリリリリム
子育て奮闘編
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10.他人につけられたあだ名は大抵ろくでもない

 宴もたけなわなところ、前々から考えていたことがついぽろっと口に出てしまったのは、酒と場の雰囲気に酔ってしまったからだろうか。



「......名を変えたい」




 そう呟きを漏らした瞬間、それまでの喧騒が嘘のように会場内が静寂に包まれた。


 ぱりん、とグラスの割れる音が響く。


 押し寄せるように配下たちが俺の近くへと集まり次々に声をあげた。



「ゼノ様...! それは一体どういう意図でおっしゃられたのでしょう!?」


「うん? どうした、何をそんな血相を変えて」


「大事な! 大事なことなのです!!」


「やはり皆もそう思うか。名を変えるなら早めの方がいいよな。


 それに今なら皆集まっているしすぐに伝えられる」


「そんな...! お心はもうお決まりなんですか?!」


「ああ、これも不甲斐ない俺自身が招いたこと。自分の手で拭わねば」


「ああっ...!」



 娘の名前がああああではさすがに申し訳ない。

 名前を呼ぶたびに罪悪感が刺激されてしまい、ずっと名を変えてあげたいと思っていたのだ。



 皆も賛同してくれるかと思っていたのだが、なぜか会場のあちらこちらで嘆く声が聞こえてきた。



「娘の名前がああああではさすがに可哀想だと思うのだ。


 名前は時にいじめにもつながるという...」



「へ......娘?」




「あの、失礼ですがゼノ様は魔界における名の重要性をどこまでご存知なのでしょう?」


「ゼノ様はそういえば魔界生まれではなかったな......それならば知らないのかもしれない」



「魔界では名前に何か重要な意味があるのか?」



「はい、魔界において名はその者の魂を縛るものでございます」



 おっと、たまに出てくる異世界っぽさはこの世界で長く経つが今だに慣れないな。



「と、言うと?」


「名を変えるというのはそれまでの自己を否定される行為。


 魔界においては隷属を表すものでもあります。

 これは配下に降るのとは違い、自分がそれまで得たネーム全てが破棄されるためでもあるからです。力は大きく失われますし、まず自らこれを選択する者はおりません。大抵は力を削ぐため捕虜などが無理矢理名を奪われることが多いのです」



「ほう...そんな意味があるのか。知らなかったな」


「先ほどは皆、ゼノ様ご自身が隷属に下るおつもりなのかと驚いたのです。


 その後、お子のことだとは分かりましたが、それをなさいますとゼノ様はお子を自らの隷属とする形になります...」



「それは本意ではないな...」



 名を変えるのは無理だとしてもこの先ずっと娘のことを"ああああ"と呼び続けるのも辛いものがある。


 何かいい方法はないのだろうか。



「ああ! それならあだ名はどうだ?」



「あだ名ですか?」


「名前以外にその者を示すものだ。通常呼ばれるような、すぐに誰のことか分かるものだな」


「通り名とかでしたらありますが」


「そんな感じだとは思うが、例えば誰か知っている者で通り名があるのであれば教えて欲しい」


「そうですね。


 チェスター様やカイン様ならそれこそ通り名をお持ちですよ。


 傀虐(かいぎゃく)のチェスター、殲滅(せんめつ)のカインと言えば有名です!


 特にカイン様は自叙伝をお出しになられているので、特に有名かと! 先ほども子どもたちにサインを強請られて本にサインをしていましたし!」



 思っていたのと違った...。


 友人同士でやりとりするようなもっと軽いものを想定していたんだが、知り合いの思いもよらぬえげつない通り名を聞いてしまったぞ。


 昔はやんちゃしてましたみたいなノリなのか、ガチなのかが恐くて聞けないやつだ。



 カインにサイン貰ったのはアーキスだろう。


 やはり魔界人気は危ない男なのか?




「もっと、気軽に呼べるようなものはないのだろうか。


 名前を略称したり、一部を変えて呼んだりなどの簡単なものでいいんだが」


「擬態するために使用する偽名みたいなものでしょうか?」


「違うな...」



 魔界にあだ名文化はないのか。


 俺はこれからも"ああああ"と呼び続けなくてはいけないのだろうかと思うと非常に気が重い。


 名前を書くとき、今何回あを書いたっけ、とかなるんだろうな。



「ふむ、ではシア様というのはどうかね?」



 突如聞こえてきた声の主を見る。


 普段から引きこもりで滅多に人の前に出ないというのに、今日は珍しく出席しているようだ。



「エイブラムか、会話をするのは久しぶりだな。元気にしていたか」


 大きな髭を蓄え、エイブラムは愉快そうに笑いながらこちらへとやって来た。


「おかげさまで。

 より広くなった分蔵書も増えまして、毎日楽しく過ごさせていただいていますぞ」


「それでシアというのは、娘の名のことか?」


「そうですな。


 人族の中でも過去に廃れた文化ではありますが、ゼノ様の言うようなあだ名があったと聞いております。


 我らには馴染みのない文化ですが、馴染みがないといえば前にゼノ様が『蟻が10匹でありがとう』などという非常に興味深い謎かけをしていたのを思い出しましてな。


 それを参考にしてみたのですがどうですかな?」



 さらっと俺の黒歴史を暴露してくれてありがとうよ、エイブラム。


 だが俺の黒歴史由来を除けば普通の名前っぽくて非常にいい。

 こじつけ感はあるものの原型をかろうじで留めてはいる気がする。



「気に入った。それにしよう」



 俺は立ち上がり会場の皆に届くよう声を張る。


「皆、聞け!


 俺の子に関し、名は変わらず"ああああ"だが、呼びかけるときにシアと呼ぶよう徹底するように!


 名を変えるわけではなく呼び方を変えるのだ」



「新しい視点ですな。実に面白い」



 側に来ていたチェスターにも、ここにいない者も含めて伝えるよう言付ける。



「それと、チェスター。


 お前に通り名があったとは長い付き合いだというのに知らなかったぞ。教えてくれてもよかったのにな。

 少し寂しいじゃないか。


 なぁ、傀虐のチェスター?」


「そうですか。


 わざわざお耳に入れるほどのことではないと思い伝えずにいたのですが、ゼノ様がそのような通り名を好むとは知りませんでした。


 次からはお教えするようにいたしますね、破炎(はえん)のゼノ様」



 ぐうっ......!


 いつも冷静なチェスターを揺さぶってみようと思っただけだったのだが、思わぬカウンターを食らってしまった。



 俺にもそんな通り名がつけられていたなんて知らなかったよ...

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