見えないモノ⑥
パソコン、壊れそう。
「あ、りがとうございます…。」
消え入りそうな音量の声でお礼の言葉を絞り出した。
現在も私は男性の腕の中にいる。
出来るなら降ろして頂きたい。
「失礼いたしました。」
そう言いながらゆっくりと地面に私の足が着くのを確認すると、わきの下と膝裏から腕を抜いてくれた。
心臓、痛い…。
お殿様に会う前からこんな状態になって、私大丈夫かな…。
息が上がるような細く急な坂を上る。
この先には一体、誰がまっているのだろうか。
怖い人だったら嫌だな…。
そんな事を考えながら、先を歩く黒い着物の男に付いていくのだった。
大きなお屋敷に入り長い廊下を歩いた先には、大きな龍の描かれた襖が目の前に現れた。
そこで立ち止まり、私に向かって黒い着物の男は言う。
「こちらでございます。」
のどが鳴った。
誰がいるのだろう。
入った途端、襲い掛かられるとかないよね?
いやでも、もしかしたらドン引きするくらいに歓迎されたり…は、しないか。
手汗が尋常じゃないくらい出て、ビショビショだ。
襖、滑って開けれなかったらどうしよう。
黒い着物の男が襖の前に正座し、丁寧に両手で開けてくれた。
あ、自分で開けるんじゃないのね…。
安堵と同時に勘違いして色々と考えていた自分が恥ずかしくなった。
通された大広間には、誰もいなかった。
変に緊張していたので、一気に肩の力が抜ける。
だが何畳あるかも分からないくらい広い部屋にぽつんと1人で待つのは、意外に不安が強い。
実に落ち着かないですね…。
黒い着物の男は、龍也を呼んでくる、と言って、どこかへ行ってしまった。
本当に会えるのかな。
そう思いながら待ち続けていると、後ろの襖が開く音がする。
やっと誰か来た、と思い振り返ると、そこには見たことのない綺麗な女性の姿があった。
《容姿端麗》
まさに、この言葉の似合う女性。
髪はダークブラウンで腰辺りまでの長さがあり、胸のあたりで2つに結っている。
女性は私の数メートル間隔を開けた場所に来ると、ゆっくりと正座した。
「姫様、ご無事で何よりでございました。」
『えっ、この人も間違えてるの?!』
そんなに私は、この人たちが探しているお姫様に似ているのだろうか。
反応しない私を見て女性は、不安そうな表情になる。
「私を…お忘れなのですか?」
「いや忘れるというか、そもそも私、姫様じゃ、」
ここまで言うのと同時にスパーンと盛大な勢いで開かれた襖に、私も女性も思いっきり振り返る。
「清歌!!!」
ズカズカと大きな足音を立てて入ってきたのは、これまた知らない男の人。
身長は180センチはあろうかというほど高く、髪は短くツンツンと立っている。
顔は豪快さに負けないハッキリとした顔立ちイケメンで、左頬には大きな傷がある。
「政寛…。もっと落ち着いて襖は開けるものです。」
呆れながら女性は言葉を掛ける。
親しいのだろうか。
「これが落ち着いていれるかよ!!」
ずいぶんと騒がしい人。
女性と同じ位置まで来ると、ドカッと豪快に胡坐をかいて座る。
ジッと見つめられ、身体が強張る。
「姫…、無事で良かった…。」
そう言い大きなため息と同時に、頭を下げた。
ものすごく心配していたのが態度で分かる。
分かるが故に、人違いである事を伝えて残念な思いをさせる事を、心苦しく感じてしまう。
どう伝えようか悩んでいると、開けたままになっていた襖から声がした。
「なんだ。お前ら来ていたのか。」
黒い着物の男性だ。
やっと知った顔に会い、ホッとする。
「おい昌定、姫はやはり…。」
「あぁ、何もかもだ…。」
女性が泣きそうな表情になる。
ますます人違いであることを切り出せなくなる。
どうすりゃいいんだ!!!
3人が並んで座る。
私から数メートル離れた場所に、左から美女、豪快イケメン、切れ長イケメン。
なんですか、この豪華3点セットは…。
「お待たせいたしました。龍也を連れてきましたが、お会いになりますか?」
「もちろんです!!」
そのためにここまで来たんだもの。
拒否する理由はない。
入れ、と声を発すると襖の向こうの廊下から1人近づいてくる。
ドクンと大きく脈打った。
「龍也!!」
思わず抱き着いた。
正真正銘の龍也だ。
内心、不安で仕方なかった。
他に手がかりが無いとはいえ、見知らぬ男性に付いてきてしまった。
しかし、その選択は間違いではなかったようだ。
こうして龍也に再会できたのだから。
「ほんとに…良かったぁ…。」
泣きそうだ。
見上げると、龍也の表情が硬い。
てっきり再会と無事を喜んでくれる、お互いに喜び合えると思っていたのに…。
どうして、と疑問に思っていた時、龍也が私に跪いた。
「何してんの?!」
「数々のご無礼、お許しください。」
「ちょっと、何言ってんの!?」
「姫に対し、家臣としてあってはならぬ不遜をいたしましたゆえ…。」
「龍也まで…。どうしちゃったのよ!!」
頼む、耐えてくれ!




