ソース癖、辟易。
「そんなにソースをかけんなよ。俺の料理が気に食わなくて味を変えているように見える」
はしを口へ運びはじめて数分もしないうちに手製のハンバーグにドボドボと瓶を傾けた私に対し、テーブルを挟む増島くんは辟易の混じった笑みを向けてきた。
「ごめん、つい」と謝ると、「まぁ、無意識だもんな」と彼はまだソースの触れていない自分のハンバーグを半分に割って私の皿に寄越してくれた。
食卓において、何にでもオタフクお好みソースをかけてしまうのが私の癖だった。
私を語る上で、オタフクお好みソースのことは欠かせない。テーブルの上に置いてあればはしを持った次に手が伸びるし、置いてなければはしを持つ前に冷蔵庫へ取りに行く。トンカツやハンバーグなどはもちろんのこと、その他の肉、魚、野菜料理全般、ご飯にもかける。
あるとき安かったからとお刺身を買って食べることにした。食事の準備で食卓へはしを運んできた私に、突然「血迷ったことはするな」と必死の形相で増島くんが制止してきた。何のことかと思いきや、私は知らずのうちに片手にオタフクお好みソースを握っていた。間一髪、私はお刺身にまでもソースをかけてしまうとこだったのだ。
いつから君はそんなにソースをかけるようになったんだ、と以前に増島くんに聞かれたことがある。私のソース癖をさかのぼれば、それは私が小学生の一年のときになる。
といっても、オタフクお好みソースに私がはまった直接的な原因は記憶にない。気づくと家庭の夕食で私はソースをたらしまくっていた。小学一年のときの、強烈なエピソードが頭の中に今も根づいているのである。
「一体、どんなことがあったんだ?」と増島くんは身を乗り出した。
「大したことじゃないけど」などと一応前置きをする。「ソースが入ってたの」私はその記憶を話した。「ランドセルの中にね」無意識だった。
ハンバーグを頬張り、白ご飯を口に含む。ゆっくりと咀嚼しながら、前にいる増島くんは満面の笑みを浮かべた。普通、自分の料理したものをこれほどまでにおいしそうに食べれるのだろうか。
増島くんの食べっぷりに感心してた私は、自分が食べるのも忘れていた。「さあ、食べよう」とはしを持ち直した私は、そのままソースへ手を伸ばしさっき増島くんに分け与えてもらった純粋なハンバーグにそれをまたドボドボかけてしまった。無意識だった。
「あ」と私は声をもらした。
「おい」と増島くんはまたあの辟易混じりの笑みを私に向けてきた。