騎士の戦いと聖女の祈り
お越しいただきありがとうございます。今回は(も?)かなりのシリアス展開です。心はゆるふわを求めているんです。
ガタガタと馬車は進む。執事さんはなんとセバスチャンと言うらしい。
「ヴィルヘルムさま。行きたいところはないんですか?」
「…ミサキ殿と共にならどこへでもお供します。」
うん、守護騎士らしい模範的な答えだわ。とミサキは思った。
先日の出来事から、なんとなくヴィルヘルムにまたしても距離を取られている気がする。とても寂しい。
(おや?とても寂しいのか、私は。)
ミサキは自分の心境の変化に、こてんと首を傾げた。
「ヴィルヘルムさまと距離が離れてしまってなんだかとても寂しいです。」
「えっ、は?急に何を…。」
ヴィルヘルムが目に見えて動揺している。ミサキはつい本音がぽろっと出てしまう傾向にある。
そのあと、2人の距離はさっきより開いてしまった。さすがにミサキは少し反省した。
「ミサキ殿は………。」
気を遣ったらしいヴィルヘルムが、大変珍しいことに自分から話しかけようとしてくる。ミサキはじっと待つことにした。
「………。」
「………。」
「はぁ…。ミサキ殿は、先日の上位精霊が言ってたこと、気にしないんですか?」
「えっ?」
「…ミサキ殿は、俺のこと怖く、ないんですか?」
何故そんなことを言うのか分からないが、もちろんミサキの答えはひとつしかない。
「これっぽっちも怖くないです。」
「………ミサキ殿。俺は、自分のことが…怖い。」
(私はヴィルヘルムさまのこと、何も知らない。)
ミサキの体は、自然にヴィルヘルムに寄り添った。
「いつも私を守ってくれるヴィルヘルムさまが、どうして怖いのか、私にはわかりません。あなたが恐れていることは、なんですか?」
その時、ガタンと馬車が揺れて停まった。
「坊っちゃん、聖女さま。…囲まれております。」
「そうか。ミサキ殿は決してここから出ないでください。セバスチャン、頼むぞ。」
「はっ、お任せください。」
(ヴィルヘルムさまが、行ってしまう。)
「聖女さま。坊ちゃんはお強い。大丈夫です。ただ、戻ってきた時……いえ、差し出がましいことでした。」
それ以上、セバスチャンは口をつぐんでしまい何も言わなかった。
しばらく金属の音や、誰かの怒声が聞こえていたが、やがて静かになった。
(ヴィルヘルムさま。どうして戻って来ないの?)
静かになったのに、なかなか戻らないヴィルヘルムにミサキの不安はどんどん強まっていった。
「…もう、大丈夫でございますよ。」
セバスチャンの声を聞いて、思わずミサキは馬車から飛び出した。そこは、敵が倒れ凄惨な状態になっていて。その真ん中に俯いたままのヴィルヘルムは、表情を無くして立っている。
(どうしてっ。)
ミサキは、服が汚れるのも構わずヴィルヘルムにしがみついた。
「ミサキ殿…。汚れてしまいます。」
ミサキは首を振り、ヴィルヘルムにもっと強くしがみつく。
「もう、俺はなんとも思いませんよ?」
「…わかりました。たしかにヴィルヘルムさまは、怖いんですね?」
「……ミサキ殿。」
「大丈夫。まだ、息がありますから。…セバスチャンさん!!この人たち、ちゃんと縛ってくださいね!」
ミサキは、魔力を全部使い切る覚悟で癒しの力を使った。凄惨な状態を塗り替えるようにあたりを薄ピンクの花びらが埋め尽くしていく。
セバスチャンは、ミサキの予感通り素晴らしく手際よく、敵を捕縛していく。
「はあっ。はあ…。ヴィルヘルム…さ、ま?」
「ミサキ殿!」
「ね?もう怖くないでしょ?」
「なんで、そんな無茶を。」
ヴィルヘルムが、泣いている。
「あれ?泣かな…。」
(…笑って欲しかったのに、難しいなぁ。)
そんなことを思いながらミサキは意識を手放した。
ミサキたちを襲った盗賊は、視察に来ていた領地の有力者の妻も攫っていた。ミサキは、盗賊まで慈悲を与える聖女としてより名声を高める。もちろん、ミサキを守る騎士ヴィルヘルムの勇姿も。
涙ながらに感謝を述べる領主にお礼をたくさん貰い、ますますミサキの財布は豊かになってしまった。
そしてやはり、聖女と聖女を守る勇ましい騎士の銅像が広場の真ん中に建立されたらしい。街では騎士に憧れる子どもたちが急増していると言う。
「この国の人は、銅像が好きなのかな?」
馬車はガタガタと次の目的地へ。相変わらず、ミサキとヴィルヘルムの距離は離れている。それでも、以前のように拒否はされていないのではないかな?と感じているミサキだった。
最後までご覧いただきありがとうございます。次回ゆるふわを求める方は、ぜひブクマと評価をください。次回こそは…。