聖女と騎士は夜光草の洞窟へ行く
お越しいただきありがとうございます。
乗合馬車に、初めて乗った。一緒になったおばあさんが、ニコニコしながら飴らしきものをくれる。
なんだかキラキラしていてとても綺麗。
「美味しいです。このキラキラしているのはなんですか?」
「夜光草を乾燥させたものが入ってるんだよ。夜になると光るから、見てみるといい。もう一つあげようね。」
「わぁ、ありがとうございます。」
ミサキは、ポシェットに入った紙でその飴を大事に包んで仕舞い込んだ。
(さすが異世界。今まで、神殿の食べ物はごく普通だったから、あまり感じなかったけどファンタジーな食べ物探しが楽しそう。)
左横にはヴィルヘルムが座っている。腕を組んで、下を向いている姿は明らかに機嫌が悪そうに見える。
しかし、眉間に皺を寄せて唇を引き結んでいるが、多分いつもよりとても近いこの距離感に緊張しているだけなのだろう。
(乗合馬車は、距離が近すぎて、ヴィルヘルムさま向けではないわね。)
そんなことを思いながら、ミサキは外の景色をぼんやりと眺めた。
まず最初の目的地に選んだのは、薄暗くいつでも星のような光が見られるという幻想的な星の降る洞窟。
(あぁ、そう。この飴に入っている、夜光草が光るんだったわ。ということはたぶん、この飴もお土産に売ってるはず。買っておかないと。)
「ヴィルヘルムさま?大丈夫ですか?」
乗合馬車を降りると、ヴィルヘルムはいつもの距離まで離れた。大きなため息をついている。
「次から徒歩にしましょうか…?」
(徒歩なら色々な場所が見られるし、急ぐ旅じゃないのだから。)
「…ミサキ殿を歩かせるわけには行きません。大丈夫です。」
「きっと、楽しいですよ?」
(顔色まで悪くてあまり大丈夫には見えないわ。…何故ヴィルヘルムさまは、こんなにも人と関わるのが苦手なのかしら?)
一定の距離をあけて、2人は目的地を目指す。今日の距離は、ほんの少しいつもよりも遠い気がする。
「ほら、着きました!わぁ、ここが有名な…。んん?」
洞窟の中が、青白く眩く光りはじめた。それこそ煌々とという表現当てはまるほどに。薄暗いと思って入ったら、急に明るくなったので、逆によく見えない。
(薄暗い中に、夜光草が青白い光を放って、星座が輝く夜空のようだと神殿の本に書いてあったのだけど、これでは夜空どころか、眩しすぎてよく見えないってやつだわ。)
―――せいじょさま、きた。せいじょさま、きて。
「ミサキ殿!」
ミサキは少し離れて歩いていたはずの、ヴィルヘルムに手を掴まれる。
(あれ?ヴィルヘルムさま、離れていたのに急にどうし…)
その瞬間、足元の感触が急になくなり、体や浮遊感が襲う。
「ひっ、な、なに…わっ。」
体がどこまでも落ちていく。ただ落ちるのとは違うこの上も下もわからないような感覚をミサキは知っていた。
(これ、3年前のあの時に似てる。)
急速に意識が遠のく不安の中で、誰かに抱きしめられてとても安堵したような気がした。
「ミサキ殿…ミサキ殿っ」
「んぅ。」
なんだか窮屈。でも暖かくて懐かしい。幼い頃、お父さんがこんなふうに…。
(お父さん…)
ミサキは、その頼りになる背中に手をまわそうとした。しかしそこで急速に意識が浮上する。
「んぅ?」
うっすら目を開けたミサキの鼻先近くに、ヴィルヘルムの顔があった。普段感情を表に見せないその瞳は、不安そうに揺れている。
もう一度、幼い頃に経験した懐かしい感触がした。
(だ…抱きしめられてる?!)
ミサキは思わず、身をよじろうとしたが力が強くそれは叶わない。それに。
(震えているの?ヴィルヘルムさま。)
ヴィルヘルムが、ミサキの肩元に顔を埋める。
「良かった…また、失うのかと。」
「……。」
ふと、蘇った思い出のままに、ミサキはヴィルヘルムの背中をやさしくポンポンとたたいた。
洞窟にいたはずが、何故か上には満天の星空が見える。下には夜光草が一面に咲き、輝く絨毯を作っていてとても幻想的だ。
―――聖女に、あと一人おもしろいモノが紛れ込んだようだな。
顔を上げたミサキの前には、ヴィルヘルムと同じ、青白い輝くような長い髪をした男の人が立っていた。
最後までご覧いただきありがとうございました。ブクマや★評価下さると嬉しいです♪