聖女の旅立ちと大神官の本気
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朝日が昇る中、ミサキは女神像に祈りを捧げていた。薄ピンクの花びらと精霊たちの光に、礼拝の間は彩られていた。
ミサキは普通の女子高生だった。父と母が幼い頃に亡くなったため、祖母と暮らすという境遇ではあったが。
その祖母も、ミサキが異世界にくる直前に儚くなってしまった。
(女神さま。あの時にお約束した通り、世界中に祈りを届けてきます。)
―――数百年前、世界には魔獣が生まれました。勇者が現れるまで、あと少し。私は直接奇跡を与える力はありません。どうか傷つく人々を助けてあげて下さい。
(どうにも、抽象的だったけど、旅に出たら傷ついた人たちを助けたら良いのよね?それに…。)
バイトしてお小遣いを貯めては、いつも電車で色々なところと日帰り旅行へ行っていたミサキ。夏休みには最小装備でのキャンプも経験済みだ。
(色んな場所、食べ物。心が躍るわ!)
ミサキは、少しの不安を押し込んで、これからを楽しむことにした。
「楽しそうだな、其方は。」
「大神官さま。行ってまいりますね。」
「…本当に行くのか。」
「はいっ。たまにお土産持って会いにきますよ。」
(あっ。)
大神官イザークは、おもむろにミサキをギュッと抱きしめた。
「…怒るなよ。娘を心配する父の気持ちがよく分かってしまった。其方はこの世界の厳しさを、何も分かっていない。」
ミサキは父の面影を朧げにしか知らない。でも多分、こんなふうに自分を思ってくれていたのかな、と信じられる気がしてほんわか心が温かくなった。
「ワシは決めた!全力で影から日向からそなたを支援する!そう、今まで温存していた繋がりも握った弱みも全て使ってやる…ははは。」
大神官の渇いた笑いを聞きながら、ミサキはコクリと喉を鳴らした。
(大神官さまの生い立ちを聞いてしまった今となっては、その全力は恐ろしいです。)
ようやく離してくれた大神官が、片方の口角だけあげてニヤリと笑う
「まぁ、どう考えても其方の身の安全は問題ないだろうがな?あぁ、これワシからの餞別な。」
キラキラ光る金色のペンダントを首からかけられた。とてもシンプルな作りだが、ペンダントトップになんだかよく見るような気がする紋章が入っている。
本当によく見るような尊い紋章が。
あまりの嫌な予感にミサキは震えた。
「………あの、この紋章ってなんだかファフニール王家のものに似ていませんか?」
「ん?ワシ、王家から除籍されてないからな。神官だから継承権はないが。イザーク•ファフニール。ワシのフルネームな。」
「ひぅ。」
ミサキはヒュッと息を吸った。
―――先日から雲上人とは思ってましたが、大神官さま、純粋な王族でした!!
「こんな凄いもの頂くことは出来ません。私が悪用したらどうするんですか?」
「ふふっ。其方悪用するのか?」
「……しませんけど。」
(でもこれって、時代劇とかで最後に出てくる感じのアイテムなのでは。)
「それ受け取ってくれないなら、やはりワシがついて行こうかな?」
「あっ喜んで頂きます!謹んで!」
なんだか、すでに出掛ける前から大ごとになってきたわ…。とミサキはペンダントを胸元に仕舞い込みながら呟いた。
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