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聖女と騎士は夜会に参加する

お越しいただきありがとうございます。ブックマークしてくださった皆さま。本当にありがとうございます。


(夜会に参加する日が来るなんて。せっかく異世界に来たのに、ほとんど神殿に篭っていたものなぁ。)


 王城で開かれた夜会で、まずは門の大きさに圧倒された。すごい、無駄に高さがある。もうほとんど、社会科見学のようにキョロキョロしていたら、大神官に咳払いされた。


(いけない。物珍しさを全面に押し出してしまったわ。)


 門をくぐると巨大なシャンデリアがキラキラ輝いて。ドーム型の天井にはなにやら精霊と聖女の戯れが描かれている。

 その先が本日の夜会のメインホールだった。立食形式で、色とりどりのデザートや料理に囲まれて、中央がダンスのスペースになっている。


「わぁ、見たことがないご馳走…。」


 そう呟いたら、大神官がエスコートしている手を強く握ってにっこり笑いかけて来た。


「レディ。気に入っていただけたようで何よりです。」


(…怒られちゃったわ。それにしても。)


 黒い盛装の大神官イザークはとても優雅で大人の男の色気に溢れている。

 そして、すぐ後ろにはミサキのドレスとほぼお揃いの盛装でヴィルヘルムが控えている。


「あの、イザーク様?すごく見られている気がします。」

「皆、見惚れているようですね。今宵のミサキ殿は月の女神の如く美しく、エスコートする栄誉をいただけて光栄です。」


 そう言いながら、再び痛いほど強く手を握り締められてしまった。


(…これは、余計なことは言うなってことだわ。)


 仕方がないのでミサキは、聖女として身につけた慈愛ある微笑みらしきものを貼りつけて過ごすことに決めた。それを見たイザークも満足そうに頷いているので、多分正解なのだろう。


 国王陛下により、開催の挨拶が厳粛な雰囲気で行われるとオーケストラにより、音楽が流れ始める。


「私に聖女様とのファーストダンスの栄誉をお許しいただけますか?」

「イザーク様。喜んで。」


(まぁまぁ、踊れているのではないだろうか。)


 ドレスの裾がフワリと広がるターンを決めてミサキは思う。純粋にダンスが楽しい。だが、これはイザーク様のリードが巧すぎるせいで、本番はこのあとになる。チラリとミサキがヴィルヘルムを見ると、たくさんの令嬢に囲まれながら、氷のように冷たい表情を浮かべていた。


(氷結の貴公子なんてご令嬢に騒がれているけれど、今となってはあの表情には、追い詰められたような緊迫感さえ感じるわ。)


 そんなことを考えているうちに、楽しかったイザークとのダンスは終了した。


(いよいよだわ。)


 不覚にも心臓が高鳴るのを、ミサキは感じた。しかし、おそらく相手のヴィルヘルムはもっとだろう。


(私がリードするぐらいじゃないと。)


 少しぎこちない歩き方で、ヴィルヘルムがこちらに近づいてくる。会場のざわめきが少し大きくなった気がする。


「…私と踊っていただけますか?」


(ちゃんと手を差し出して、ヴィルヘルムさまが近くまで歩いてきた!)


 純粋にそれだけのことで嬉しくなってしまうミサキ。


「よっ、喜んで。」


 存外緊張していたらしく少しミサキが噛んでしまうと、それが可笑しかったのか、ふわっとヴィルヘルムが微笑んだ。もうそのあとは、ミサキはその微笑みが頭から離れず、ダンスも上の空になってしまった。


「あっ。」


 そんな状態で踊っていたミサキは、バランスを崩してしまう。


(―――っ。せっかくあんなに特訓したのに。恥をかかせてごめんなさい、ヴィルヘルムさま。)


 その時、フワリ、くるりとミサキの体が宙を舞った。あまりの驚きと、その楽しさに、ミサキの魔力が少し溢れてしまいミサキとヴィルヘルムの周囲を薄ピンクの花びらと精霊の光が取り巻いた。


(わ、高くて飛んでるみたい。すごい!)


 会場から大きなざわめきが湧き上がる。参加者たちは精霊と戯れながら舞う姿に入場時に見た天井画を再び見たような既視感を感じた。


 この瞬間が、多くの絵師によって題材とされるのは、もう少し未来の話。


 リフトされたあとは、いつものペースを取り戻し最後まで踊りきることができた。

 イザークと踊っている時、とても楽しかったが、ヴィルヘルムと踊るのは達成感も相まってさらに楽しいと、ミサキは思った。


 そのあと、再びご令嬢達に囲まれたヴィルヘルムだが、やはり微笑むことなどなく再び氷のような表情で固まっている。


「なかなか面白いものを見たな。」

「揶揄わないで下さい。失敗したと思っているんですから。」


 真顔になったイザークが、ミサキの耳元で囁く。


「だが、少々目立ちすぎだ。ワシらは記念式典で表彰を受けるため、この後そばにいてやれない。ユリアーネに頼んではいるが、気をつけていてくれ。」


(そうよね。浮かれすぎたかもしれないわ。)


 壁の花になろう。そう思い聖女の笑みを貼りつけているミサキを遠くからチラチラ観ている視線は感じるが、話しかけてくる人間はいないようだ。


(イザークさま呼びが、聞いているに違いないわ。あっ。ようやく式典が終わったみたいね。)


 ちらりと、壇上を確認し視線を戻すと、ひとりの令嬢がワイン片手に近づいてくる。


(こ、この展開は…もしや、お約束の…)


 そう暢気に考えていたミサキのドレスに向け、ワイングラスがスローモーションで飛んでくる。


(あー、せっかくユリアーネ様に用意していただいたのに。どう弁償しよう…。)


 思わず目を瞑ってしまったミサキだが、いつまで経ってもドレスが濡れる気配はなかった。


「え?」


 目の前には、ワイングラスを片手にヴィルヘルムが立っていた。不思議なことに一滴も溢れていないようだ。遅れて駆けつけたユリアーネも、ご令嬢相手にひとこと声をかけている。


「私の作ったドレスに何か恨みでも?」

「ユリアーネ様のっ?!…だって、イザーク様と踊るなんて…。」


(まさかのそっちか!!)


 ザワザワ…と、ざわめきが大きくなった。それからユリアーネのドレスはとても人気があるようだ。近くにいた人たちは、成り行きを固唾を呑んで見守っている。


「レディ。美しい月の女神と思ったが、その水浴びを見た人間は小さなドラゴンに変えられると聞いたことがある。さぁ、そんなことになる前にそろそろお暇しようか。」


 そんなセリフで、イザークがミサキの手を引いて会場を後にする。


(意外にも楽しかったわ。でも、これでシンデレラみたいな夢の時間もおしまい。明日には旅に出るのだもの。)


 もう少し、ヴィルヘルムと踊りたかったかもしれない。その気持ちに、ミサキは気づかないふりをした。


最後までご覧いただきありがとうございました。明日も7時に投稿します。

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他にも異世界恋愛短編いろいろ書いてます
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― 新着の感想 ―
[良い点] 氷の貴公子様の微笑み、いいですね(≧∀≦) 特別感というか独り占め感があります。 ダンスの時もワインからも守ってくれるヴィルヘルムに感謝です♪ [気になる点] ヴィルヘルムは何かのきっかけ…
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