聖女は夜会に向けてイケオジ神官とダンスする
お越しいただきありがとうございます。ブックマークしてもらえて嬉しかったので、感謝を込めまして早速第2話投稿します。
「うーむ、コレは…。其方はダンスは踊ったことがないのか?」
「ソーラン節とかラジオ体操くらいしか…。それに、運動は自信ないです。」
「ソーランブシ?…まぁ、それはきっと、ワシが思うダンスとは違うのだろうな…。」
いつも穏やかな笑顔のイザーク大神官が、腕を組み少しSっけのある表情を見せる。
「聖女が夜会に参加するとなれば…、ましてや神殿やハーマン公爵家の後ろ盾が透けて見えるのだ。山ほどダンスの申し込みがあるであろう。ミサキ、ヴィルヘルム」
―――1ヶ月後に、完璧なダンスが踊れるようになれ。否は許さない。
「はっ!」
その迫力に二人は思わず、軍隊のように敬礼で答えていた。
それからミサキは、大神官のツテで一流の講師に習い、日夜ダンスの猛特訓に明け暮れた。慣れないヒールに靴擦れを起こし、爪が剥がれても。
(聖女の力。便利だわ…。)
今はミサキの足先を中心に、桃色の花弁とキラキラの精霊の光が漂っている。靴擦れも爪の剥がれも聖女の癒しにかかれば一発で治ってしまう。
…疲れは取れないが。
(そろそろ着替えて休もうかな?)
その時、ミサキの目の前に節くれた大きな手が差し出された。顔を上げると、落ち着いた印象の盛装に身を包んだ男性がいた。
「聖女ミサキ殿。私と踊っていただけますか?」
(うわぁ。このかっこいいお方ダレ?)
「ほら、さっさと立て。今夜から夜は実践訓練だ。」
「は、はわっ?その声、まさか、おじさまっ?!」
つい、いつも誰もいない時の呼び方をしてしまったミサキの耳元に近づいて、大神官が囁く。
「つれないな。今は、イザークと。」
「ふえぇ?!」
耳まで真っ赤になってしまったミサキを見て、イザークはため息をつく。
「ふむ。夜会に行ったらこの程度の言葉を軽くいなさなくては困るぞ。奴らは機会があれば其方をダシに公爵家と繋がりを作りたいのだからな。」
(いやでも多分、こんな高貴な尊さのイケオジはそうそういないのでは?)
「また、どうでも良いことを考えているな…。まぁいい。踊るぞミサキ殿。」
「はっはい!おじさ…。」
「イザーク。夜会ではイザーク様と呼ぶように。少なくとも奴らが手を出しにくくなる。」
再び耳まで真っ赤になりながら、ミサキがなんとかその名を呼ぶと、イザークがニヤリと口の端を上げて微笑んだ。
イザークのダンスのリードは完璧で、ミサキでも一流の淑女に見えるほど、素晴らしいものだった。
(ダンスって、こんな楽しいものだったんだ。)
神殿の大礼拝室の片隅で、2人は月が高くなるまで踊り続けた。
そして日がまた昇る。
(うぅ、夜更かししたから朝がツライ。)
聖女の朝は早い。日の出とともに朝の祈りを捧げたミサキはうーんっと両手を上げて伸びをした。
「聖女様。ご来客です。」
見習い神官が、慌てたように小走りで来て声をかけてくる。
「ありがとう。これ、余ってしまったの。よかったら食べなさい。」
ミサキは小さなお菓子をそのまだ小さい手に握らせる。余ったなんて口実で、実はいつも持ち歩いているのだ。
「ありがとうございます!」
ごきげんの見習い神官に連れられ、ミサキは客室に来た。
(貴族向けの客室だわ。一体どなたかしら。)
ミサキがドアを開けると、そこには上品なドレス、長い青みがかったシルバーブロンドを結い上げた美しい貴婦人と、紺色のロングワンピースに白いエプロンをつけた女性たちが数人いた。
「あら、可愛らしいお方。腕がなりますわ。」
そう呟いた貴婦人は、淑女の礼を見せる。
「初めまして。私、ユリアーネというブランドでドレスを作っています。ユリアーネ•ハーマンと申します。弟がお世話になってます。」
「ユリアーネ•ハーマン…様?ハーマン…公爵家?弟?」
しばし呆然としてしまったミサキだが、またしても衝撃の事実に目を見張った。
(ヴィルヘルム様のお姉さまだわ!)
「あっ、申し訳ありません。ご無礼をお許しください。聖女のミサキです。この度は…」
「ふふ。今日はそういう堅苦しいのはやめましょう。それよりサイズを測りますわよ!」
それからミサキはもみくちゃにされながら、身体中のサイズを測られた。
ぐったりしているミサキを横目に、ユリアーネは採寸表を見ている。
「思ったより胸があるのね。でも全体的に華奢でセクシーとも違うわ。それにこの黒い髪と瞳。…新しいドレスが浮かんでくるわ!」
ユリアーネは、嵐のように来て、嵐のように去っていった。
最後までご覧いただきありがとうございました。明日も7時に投稿します。