ゆるふわ聖女とコミュ症な騎士は大神官に引き合わせられる
ご覧いただきありがとうございます。もう一方の拙作が、ハッピーエンドを目指すのにシリアス要素強めなので、ほのぼの異世界恋愛を書くことにしました。よろしくお願いします♪
「聖女としての実力は歴代最高峰なのに、こんな不遇な扱いを受けるとは、ワシは残念で仕方ない。」
眩いような白い神殿は巨大なステンドグラスが彩り、その床や壁に色とりどりの光が降り注いでいる。
「お褒めいただき嬉しいです。」
「…ここまでの話を聞いていたか?」
壮年のイケオジな神官が、盛大にため息をついた。
「いや、すまん。すべてワシの力不足だ。しかし、この神殿を取り巻く人間は権力を求めた魑魅魍魎たちがばかり。それに対して其方は余りに純粋だ。その上危機意識のかけらもない。ワシは其方が心配だ。」
(大神官さま。やはり、褒めているのではないかしら。)
壮年の神官は、神殿の最高権力者である大神官なのだ。異世界に来てからはミサキを娘のように可愛がってくれている。
「つまりのところ其方をかの世界から召喚した王族や利権にこだわる貴族たちは、求められれば庶民も奴隷も亜人をも助け、癒す其方が気に入らぬのだ。」
「私だって、影からそっと助けたいのに。聖女の力って派手すぎません?」
そういうと、ミサキは指先から少しだけ癒しの力を出してみた。それと同時にキラキラ瞬く精霊の光と薄ピンクの花びらが周囲を舞う。
髭を撫でながら、神官は苦笑する。
「しかし其方は、これからもその力を分け隔てなく使いたいのであろう?」
「はい。私が力になれるなら、貴賤の隔てなく。」
年老いた神官は、眩しいモノでも見たかのように強く瞼を閉じると、続いて後ろに控えていた男性に声をかけた。
「こちらに来るが良い。」
「…うぅ。」
しかし男性は俯いたまま、ミサキたちの近くに来ることはない。
「うーむ、仕方無いやつだ。ミサキ殿申し訳ないがこちらに来てくれるか?」
「はい。…この方は?」
俯いた男性は、青みがかった美しいシルバーブロンドをしている。
(今はつむじしか見えないけど?)
「仮にも貴族であろう。淑女に挨拶くらいはきちんとしなさい。…これは命令だ。」
命令という言葉が聞こえた途端、人が変わったかのように顔を上げた男性が応える。
「はっ。イザーク伯父上。ハーマン公爵家六男。ヴィルヘルム•ハーマンと申します。聖女殿。以後お見知り置きを。」
軍隊式の礼をとりながら、名乗った青年はヴィルヘルムというようだ。
長めの前髪から右だけ濃いアメジストの瞳がのぞいている。しかしそれよりも、ミサキにとっては気になる単語があった。
「…ハーマン公爵家?伯父上?」
(なんだか雲上人の名称が聞こえた。ん?ハーマン公爵家の現当主さまは陛下の弟ではなかったかしら?)
「んんっ?…大神官さまは陛下のご兄弟?」
いつも、誰もいない時はおじさまとか言って甘えていたお方がまさか…。ギギギ、と音がしそうな首を無理に動かして、ミサキは大神官様のほうへ顔を向ける。
「いや、といってもワシ側妃の子だから。長男に生まれただけで、神殿育ちだし?」
首を傾げて困った顔をして見せる大神官様。
(くっ、イケオジがあざとかわいい!)
ミサキは大神官さまと公爵家の六男というヴィルヘルムを交互に見た。そして気づいてしまった事実に目を見開いた。
「あっ、あーっ。戦場の雷神イザークと戦場の獅子ヴィルヘルム!!」
髪をかきあげてニヤリと笑うイケオジ神官と、片手で顔を覆ってしまったヴィルヘルム。
「まぁ、こうなればいっそ話は早いか。其方にはひとつ頼まれて欲しい。」
(うわぁ。嫌な予感しかしない。)
大神官イザークの頼みとは、ヴィルヘルムを聖女の守護騎士にして欲しいというものだった。
しかし、その話には続きがある。
婚約者のいないヴィルヘルムは、公爵家の男子でありさらに5年前のその戦場での獅子に喩えられるほどの功績、女性になびかない氷結の貴公子として人気もあり見合い話が山ほど来ている。
そして次の夜会は戦勝5周年の記念式典を兼ねているためイザークもヴィルヘルムも欠席できないのだと。
「しかしヴィルヘルムは、人付き合いが極度に苦手でな。氷結の貴公子なんて呼ばれているのもはっきり言って誰とも関わらないだけなのだ。特に貴族の女性たちは、なんというか…な。」
「つまり私にともに夜会に参加してヴィルヘルムさまの隠れ蓑になって欲しいと言うことですか?」
大神官はニヤリと笑う。
「其方は、物分かりが良くて助かる。それにいまの其方の立場であれば、この申し出は受けた方がいいのだぞ。」
「うーん。権力には興味がないのです。でも、私のことを守ってくださろうとしてるのはわかります。ですから、参加しても良いですよ?でもね。」
聖女が神託を受けた証である、薄ピンクの花がミサキを囲んで舞い散る。雲の隙間から光が差し込み、ステンドグラスに描かれた神話が白い床に映り込んだ。
「そのあと私、女神さまからの神託により世界を救う旅に出るので。大神官さま後の処理をお願いしますね。」
笑顔のまま固まってしまった大神官イザークと、俯いていた顔をガバッと上げてまじまじとミサキを見ているヴィルヘルム。
(嘘は言ってないわ。この世界に来る時に、世界を救う聖女になって欲しいと頼まれたのだもの。)
ミサキは頬に手を当てて、こてんと首を傾けた。
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