9
1ヶ月が過ぎた。
「…ちょっと、いい?」
隣に座る同僚が言った。
「うん」
同僚の背中を見ながら、歩く。
会社の近くにある喫茶店に入る。
店員にホットコーヒーを注文した。
同僚は、ジッと私の顔を見ている。
「お待たせしました、ホットコーヒーです。」
店員が、同僚と私の前に置いた。
2人、一口、飲む。
苦味が落ち着く。
「あのさ、あの子とは?」
すぐに、"かえで"のことだと分かった。
無言のまま頭を左右に振る。
「はぁ…、もう年も変わったんだよ?
去年の話になってるんだよ?」
「そうだね…。」
12月、かえで と初めて喋った。
そして、会えなくなった。
「あのね、年明けにラインを送ろうと思ったの」
「そう」
「うん。でもね、出来なかった。」
「どうして?」
同僚の声が優しくて涙が出てきてしまう。
「怖かった、返信来なかったらとか考えちゃって………」
「そう。あのさ、自分のことばっかりだね」
優しかった声が少し怒るような声に変わった。
「あんたは、自分の言葉で傷つけたって
思ってるんでしょ?」
「うん」
「だったら、あんたから動かなきゃ。
最初のラインだってそうだったじゃん!
また、待ってるの?相手から、また来るの」
なにも言えなかった。
「それだったら、いつまでも会えないし
あんたは、モヤモヤしまま過ごしていくの?
あの子に会うのが辛いからって車通勤にしてるし
正直イライラする」
思わず下を向いてしまう。
「顔、上げて」
怒鳴るでもなく静かに言われて、
ゆっくり顔をあげ、同僚を見る。
「なんで…」
同僚は微笑んでいたけど寂しそうな表情をしていた。
「お願い、逃げないで。
笑顔を見せない、あんたを見てると辛いよ。」
「ごめ、…」
同僚にも辛い思いをさせていたなんて。
「待ってるかもよ?あの子も。」
同僚は優しい声に戻っていた。
「最後のラインで"ごめん"って言われたの」
「何に対しての、ごめん?」
「え?」
何に対して?
「聞いてみな」
「…でも、いまさら」
「いいじゃん、今更でも」
「…え」
「なんで、だめなの?
気になるし、モヤモヤすると気持ち悪いでしょ?」
「うん」
「…今日、仕事が終わったらラインを送って」
「今日?」
「そう、今日。いい?」
「う、ん。わかった。」
「よし、仕事に戻ろう。
休憩時間は終わりっ!」
「あの、ありがとう。」
「全然。また飲みに行こう。」
「うん!」
なんだかスッキリした気分になった。
かえで に、ラインを送ろう。
未読なままでも、返事が来なくても、いい。
自分の思いを伝えてみよう。