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「で?何があったの?」
泣き崩れていた私を出勤途中の、
席が隣の同僚が見つけて声をかけてくれた。
今は社内にある休憩室。
ソファーに私を座らせ、同僚は私の横に座った。
「私がわるい。」
「なにが?」
「あの子…かえでを傷つけた。」
「…ラインの?」
「うん。」
「何をしたの?」
「かえでの髪の色、水色なの。」
「へえ、凄いね」
「なんで水色なのかを聞いたの、
そしたら楽しそうに話してくれた。
それなのに…」
あの時の、かえでの無表情な顔を思い出すと、
くるしい。
「あんたが、余計なことを言ったのね?」
「う、ん」
「なにを言ったの?」
「ふつうは…って言ったところで、かえでが…」
「はぁ、あんたねえ…」
同僚は深い、ため息をして続けた。
「多分、その子も色々あったんだよ、
だから"ふつう"って言葉を聞きたくない。
……あたしもさ、こういう性格でしょ?
なんでも思ったことを言っちゃう。
学生の頃とか、"思ったとしても、普通、言わない"
とか、"普通じゃない"とかさ、だけど、あたしからしたら"普通"なんだよ?
…その子にとっても好きな色を髪に入れることは、"普通"。
だから、あんたに話した。
なのに、否定された気分になったんじゃない?」
「うん、そう、だね。」
「今回だけは、あんたからラインするなり、
電話をしなきゃ、だめ。いい?
悩んでたら、また向こうが気を使って先に
行動するよ?絶対、あんたが動く!」
「そうだよね、私から連絡するよ。」
「まだ、仕事開始まで時間あるから、今、して」
「え、いま?」
「今。」
「かえでも、仕事してるんじゃ」
「それだよ、じゃあなに、仕事が終わる時間まで、
何もしないの?ラインなら問題ないでしょ。
見れる時間に見るし。」
「分かった!」
「うん、じゃあ、あたし行くから。」
「ありがとう!」
「がんばれ。」
ラインのアプリを起動し、
かえでとのトーク画面を出す。
[かえで、朝のこと、ごめんなさい。
髪色のこと、楽しそうに話してくれたのに。
初めてバスで、かえでを見た時、
自分を、もってて凄いと思ってた。
カッコいいって。憧れた。
私は周りの目が気になる、だから"普通"を
求めてしまう。
かえでを傷つけたかったわけじゃない。
だけど、結果的に傷つけた。
本当に、ごめんなさい。]
自分の思いを全て、打った。
送信するのが恐い。
"絶対、あんたが動く"
さっきの同僚の言葉が浮かぶ。
「……………よし。」
震える人差し指で送信ボタンを押した。